Reportレポート

企業の法的代表者に関する主な規定について

2022/09/09

  • 米国公認会計士
  • 逆井 将也

はじめに
 企業の法的代表者はベトナムの各企業の活動と運営について企業を代表する個人である。法的代表者に関する規制についての理解は、企業が法律に従い活動や取引を行う際に役立つ。このレポートでは、ベトナムにおける企業の法的代表者に関する法令の主な規定について説明する。

1.概念
 2020年企業法(以下「企業法」という)第12条第1項の規定によると、企業の法的代表者は、企業を代表して取引などにおいてその権利と義務を行使する個人と理解される。仲裁や裁判所においては民事事件の解決請求者、原告、被告であり、関連する権利義務を有する者、また法律で規定されているその他の権利と義務を有する者として企業を代表する。法的代表者は企業に必要不可欠の存在であり、事業の運営全体に影響を及ぼす重要な役割を果たす。

2.法的代表者の人数、権利義務および責任
 有限責任会社(一人社員有限会社および二人以上社員有限会社)ならびに株式会社は、企業の選択により1人または複数の法的代表者を設置できる。また企業の定款には、法的代表者の人数、各法的代表 者が担う権限と義務を明確に規定する必要がある。
 実際、複数の法的代表者がいる企業であっても、定款において各人の権限や義務を明確に規定されてないことが多い。この場合(i)各法的代表者は、第三者に対しては企業を全面的に代表する能力があり、(ii)すべての法的代表者は、企業に生じた損害について共同で責任を負わなければならない。

 法的代表者の責任については、企業法第13条に規定されている。具体的には次のように述べられている。
(i)企業の合法的利益を保障するため、誠実、慎重、最善の方法で、与えられた権利を行使し、義務を履行する。
(ii)企業の利益に忠実であり、私利のため又は他の組織、個人の利益に資するために、地位、職務を濫用せず、情報、ノウハウ、経営機会、企業の財産を使用しない。
(iii)企業法令に従って、自らが、その関係者が所有者である、又は株式、持分を保有する企業に関して、遅滞なく、完全かつ正確に企業へ通知する。

 法的代表者の責任は、常に企業の発展と利益に関連付けられており、その責任を果たさない場合、法的代表者は企業に与えた損害について個人的な責任を負わなければならない。

3.法的代表者の職位
 法的代表者の社内での職位は、企業の形式に応じて異なっている。

 一人有限責任会社の場合、社員総会長、企業の会長、取締役または社長のいずれかの職位を有する法的代表者が少なくとも1人必要である。定款に別段の定めがない限り、社員総会長または企業の会長が法的代表者となる

二人以上の有限責任会社の場合、社員総会長、取締役または社長のいずれかの職位を有する法的代表者が少なくとも1人必要である。定款に別段の定めがない限り、社員総会長が法的代表者となる。

株式会社の場合は以下の通りとなる。
・法的代表者が1人の場合:社員総会長・取締役・社長のいずれかが法的代表者になることができる。定款に別段の定めがない限り、社員総会長が法的代表者となる。
・法的代表者が複数名いる場合:社員総会長・取締役・社長が法的代表者になることができる

4.法的代表者の居住義務
 企業の法的代表者のうち少なくとも1人は、ベトナムに常駐している必要がある。企業に法的代表者が1人しかいない場合、その者がベトナムに居住している必要がある。ここにいう「居住」とは、法的代表者が法的代表者の職務を執行する過程でベトナムの領土に常駐しなければならない趣旨と理解されている。
 法的代表者が業務のためベトナムから出国する場合、自身の権利義務を遂行するため、ベトナムに居住する別の個人に対し書面により権限を委譲する必要がある。この場合法的代表者は、委譲した権利と義務の履行について責任を負う。

5.その他の注意事項
 企業法令では、法的代表者の国籍や、1人が法的代表者に就任できる企業の数を制限していないため、企業の法的代表者にはベトナム人でも外国人でも就任でき、1人がベトナムの複数の企業の法的代表者を兼務することも可能である。また、企業の法的代表者の情報に変更があった場合、企業は変更の発生から10日以内に企業登録機関に企業登録証明書の内容の変更を登録しなければならないとされている。

おわりに
 本レポートでは、企業法における法的代表者に関する主な規定について説明した。各企業は、上記企業の法的代表者に関する現行の法規制を検討・理解し、企業の経営構造や運営の必要に応じて法的代表者を適切に選定・配置する必要がある。

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