ベトナムの個人所得税① 居住者判定、税率、申告・納税方法
2022/02/07
- 米国公認会計士
- 逆井 将也
はじめに
個人所得税は、ベトナムで就労する個人に対して課される税金である。外国人駐在員の個人所得税は、高い給与水準および広範な課税所得により非常に高額となる場合が多いため、外資企業が予算策定等する際には特に注意しなければならない税金といえる。本稿より数回に分けてベトナム個人所得税の基本事項と実務上の留意点を説明していく。本稿では、基本事項となる居住者・非居住者の判定基準、税率および申告・納税方法について説明する。
1.居住者・非居住者判定基準
ベトナム個人所得税法では、滞在期間にかかわらずベトナムで1日でも就労していれば納税の義務があり、ベトナム居住者と非居住者で課税システムが異なる。法令によると、以下のいずれかを満たした場合に居住者となる。 1.暦年(1月1日~12月31日)でベトナムに183日以上滞在している。 2.初めてベトナムに入国した日から 12ヵ月以内でベトナムに183日以上滞在している。 3.課税年度内で183日以上の賃貸契約を有している(ただし、ベトナム国外の税務局発行の居住者証 明書を有する場合は非居住者となる)。
2.税率
2.1. 給与所得に対する税率
ベトナム居住者には下表の通り5~35%の累進税率、非居住者には一律 20%の税率が適用される。詳細は次回で説明するが、給与所得には会社負担の家賃や各種手当等も含まれるため、最終的には最高税率が適用されてしまうことが多い。なお、現在累進税率について改正案が提案されており、改正案では7段階の税率が5段階となる予定である。
課税所得(月額) | 円換算(月額)200VND = 1円 | 税率 |
〜500万VND | 〜25,000円 | 5% |
500万VND〜1,000万VND | 25,000円〜50,000円 | 10% |
1,000万VND〜1,800万VND | 50,000円〜90,000円 | 15% |
1,800万VND〜3,200万VND | 90,000円〜160,000円 | 20% |
3,200万VND〜5,200万VND | 160,000円〜260,000円 | 25% |
5,200万VND〜8,000万VND | 260,000円〜400,000円 | 30% |
8,000万VND〜 | 400,000円〜 | 35% |
2.2.給与所得以外の所得に対する税率
給与所得以外の所得に対しては、以下の通り取引ごとに異なる税率が適用される。
種類 | 税率 | |
居住者 | 非居住者 | |
個人事業所得(年間1億VND超の収入に対して)(注1) |
0.5〜5% | 1〜5% |
利息・配当金収入 |
5% | 5% |
株式の売却(売却額に対して) |
0.1% | 0.1% |
資本譲渡(譲渡益に対して) |
20% | 0.1% |
不動産の売却(売却額に対して) |
2% | 2% |
ロイヤルティ・フランチャイズ収入(1000万VND超に対して) |
5% | 5% |
賞金・賞品の獲得(1000万VND超に対して) |
10% | 10% |
相続・贈与による収入(1000万VND超に対して) |
10% | 10% |
(注1)事業内容によって異なる
3.申告・納税方法
3.1.給与所得の申告・納税(居住者)
四半期もしくは月次での予定申告・納税となり、四半期の場合は翌四半期末日まで、月次の場合は月末から20日以内に申告・納税が必要である。月次申告・納税は、給与支払元となるベトナム法人が月次でVATを申告納税する場合(注2)に適用され、そうでない場合および、外国法人からの支払分は四半期申告・納税となる。また、年次確定申告を行う必要があり、給与支払元が年次確定申告を行う場合は翌年3月31日、個人が年次確定申告を行う場合は翌年4月30日が申告・納税期限となるが、初年度のみ課税期間が特殊なため注意しなければならない。初年度の課税期間は以下のいずれかとなる。
(1)暦年でベトナムに183日以上滞在している場合、初年度課税期間は入国した初日から暦年末までとなる。
(2)暦年でのベトナム滞在日数は183日未満であるが、入国した初日から12ヵ月間でベトナムに183日以上滞在している場合、初年度課税期間は入国した初日から12ヵ月間となり、2年目以降の課税期間は暦年となり、2年目で初年度にすでに納税した部分を清算する。
法令上入国した初日に関して明記されていないが、実務上は法人や駐在員事務所設立以降に初めてベトナムに入国した日あるいは任命状に記載の勤務開始日とする場合が多い。ただし、正式赴任前に何度か出張で訪れている場合は税務調査で出張期間に遡って申告するよう指摘を受けるリスクがある。そのため、駐在員を赴任させる際には上述のことを認識した上で、赴任計画を立て、いつを入国した初日とするか検討する必要がある。
3.2. 給与所得の申告・納税(非居住者)
年次確定申告は不要で、四半期の申告・納税のみとなる。居住者の四半期申告と同様、翌四半期末日までに申告・納税が必要である。
3.3. 給与所得以外の所得の申告・納税(居住者・非居住者)
所得が発生の都度、申告・納税が必要となる。
(注2)VATを月次で申告・納税する対象は、連続で満12ヵ月以上活動しており、かつ前年売上高が500億VND超の法人
おわりに
上述の通り、ベトナムの個人所得税は居住者・非居住者によって適用されるルールが異なる。特に居住者となった場合、累進税率の適用や年次確定申告が必要となる点にご注意いただきたい。次回は、本稿に引き続き個人所得税の基本事項として、課税対象所得および税額控除について説明していく。