販売奨励金に関する会計・税務上の取り扱いおよび税務上の留意点
2022/01/17
- Vo Thi Nguyen Linh
はじめに
商品やサービスを提供する会社は、販売促進のため販売代理店や顧客に対して販売奨励金などのインセンティブを支払うことが多い。しかし、当該販売奨励金等について、インボイス処理の誤り、書類準備不足などにより、税務局が法人税(CIT)上の損金算入や付加価値税(VAT)課税対象としての取り扱いが否認されるリスクがある。本稿では当該奨励金の会計・税務上の扱い方に関する留意点を解説する。
1.販売奨励金とは
販売奨励金とは、自社商品やサービスの販売促進のため、販売代理店や顧客に支払うインセンティブのことである。
支払い条件や名目はさまざまであり、例えば販売代理店が一定のエンドユーザーへの売上高を達成したことによるインセンティブ(達成リベート)、顧客が商品購入したことによるインセンティブ(実質的な値引)等、売上高/取扱高に応じてインセンティブを支払うものがある。また、自社の商品を取り扱ってもらう見返りとして、商品の配送料や店頭での販促 POP 設置費用等を負担するものもある。
2.会計・法人税(CIT)および付加価値税(VAT)の取り扱いの整理
まずは、販売奨励金の支払い・受領時の会計・税務上の取り扱いを整理する。
<会計処理>
・販売奨励金等を支払う会社:販売費用に計上する
・販売奨励金等を受領する会社:その他の収入(Other Income)に計上する
<法人税(CIT)>
達成条件等の有無にかかわらず、以下の取り扱いとなる;
・販売奨励金等を支払う会社
以下の所定の書類を十分に準備できていれば、損金算入とすることが可能である1。
販売奨励金に関して支払い条件と方法を明記する代理契約書あるいは合意書等
– 出金伝票
– 販売奨励金等を受領する会社が発行されたVATインボイス(サービス対価としての性質がある場合)
・販売奨励金等を受領する会社
その他の収入として課税所得に算入する必要がある。
<付加価値税(VAT)>
サービス対価としての性質のない販売奨励金(後述「3. インボイス発行等の税務に関する実務」参照)については、VATインボイスの発行対象とならない(つまり、支払側はインプットVAT、受領側はアウトプットVATを計上する必要がない)。
対価性のある販売奨励金に関するVATは、以下の取り扱いとなる;
・販売奨励金等を支払う会社
支払い時にVATインボイスを受け取り、当該費用が会社の事業活動に役立ち、VAT税額控除の条件3を満たす場合、インプットVATとして取り扱い、アウトプットVATと相殺することができる。
・販売奨励金等を受領する会社
10%のVATインボイスを発行し、アウトプットVATとして取り扱い、VAT申告納税を実施する必要がある。
3.インボイス発行等の税務に関する実務
通達Circular 219/2013/TT-BTC号によれば、販売奨励金の取り扱い方法に関して以下のとおり規定されている。
・会社は賠償金、販売奨励金あるいはその他の金銭的支出を負担する会社に対して、支払い目的に基づいて、出金伝票を作成する必要がある。上記の金銭を受領する会社は、所定の入金伝票を作成する必要がある。
・会社が修理、保証、宣伝、または広告等のサービスを実施するために、お金を受け取った場合、VATインボイスを発行し、アウトプットVATを支払う必要がある。
上記に従うと、販売奨励金が修理などのサービスを実行するために支出される、すなわちサービスの対価としての性質があるかどうか により、税務処理が分かれることとなる 4。
奨励金の支出に対価性がある場合は、VATインボイスの発行および出金/伝票の作成が必要となり、対価性がない場合は、VATインボイスの発行は不要となる。
4.事例に基づく税務処理のガイダンス
以下では、税務局がオフィシャルレターで回答している、販売奨励金に関する税務処理の事例をいくつか紹介する。
(1)代理店が販売の金額を達成した時、販売奨励金を支払う場合 (達成リベート)
ホーチミン税務局が発行したOfficial Letter 1508/CT-TTHT号によれば、達成リベートはVATインボイスの発行対象(すなわちVAT課税対象)とならず、売り手の販売会社が出金伝票、代理店が入金伝票を作成する必要がある。
これは、達成リベートはサービス対価としての性質を有さないためと考えられる。法人税上、出金伝票および販売奨励金に関して支払い条件と方法等を明記する合意書等があれば、損金算入にすることが可能である。
(2)代理店を通じて顧客にインセンティブを支払う場合 (実質的な売上値引)
税務総局が発行したOfficial Letter 2303/TCT-CS号によれば、顧客(エンドユーザー)が車を購入する際、会社が代理店を通じて顧客にインセンティブを支払うプログラムを実施する場合、この取引はVATインボイスの発行対象(すなわちVAT課税対象)とならない。売り手の販売会社が出金伝票、代理店が入金伝票を作成する必要がある。
これも(1)同様、インセンティブの支払いがサービス対価としての性質を有さないためと考えられる。法人税上、出金伝票および販売奨励金に関して支払い条件と方法を明記する合意書等があれば、損金算入にすることが可能である。
(3)代理店に配送料の負担金を支払う場合
税務総局が発行したOfficial Letter 208/TCT-DNL号によれば、会社が自社製品の販売を促進するため、代理店が製品を取り扱う際の配送料を負担する場合、この取引はVATインボイスの発行対象(すなわちVAT 課税対象)となる。VATインボイスに加えて、売り手の販売会社が出金伝票、代理店が入金伝票を作成する必要がある。
これは当該負担が製品配送というサービス対価としての性質を有するためと考えられる。法人税上、損金算入にするためには、前述の「2.会計・法人税(CIT)および付加価値税(VAT)の取り扱いの整理」に記載した所定書類を準備する必要がある。
おわりに
以上が販売奨励金に関する会計・税務上の留意点である。インボイス発行や必要な書類準備、申告納税手続きについての正確な理解と活用になれば幸いである。