在ベトナム日系企業における、外国契約者税が課される主な取引
2021/08/23
- Ngo Hong Nhung
はじめに
本稿ではベトナムの外国契約者税(FCT)の概要と在ベトナム日系企業にFCTが課される主な取引について、その発生要因、税率、契約締結時の留意点を解説する。
1.FCTの概要
FCTとは、外国の個人(ベトナム居住者であるか否かは問わない)、または外国法人(ベトナム国内における恒久的施設(PE)の有無は問わない。以下、外国法人)が、ベトナムで営業し、ベトナム国内の法人等や個人(以下、ベトナム法人)に提供したサービスから発生した収入を課税対象とする。
一部例外を除き、通常、サービスを受けたベトナム法人が源泉徴収し、外国法人に代わって申告納税するため、 日本の源泉所得税に似ている。大きな違いとしては付加価値税(以下、VAT3)部分と法人税(以下、CIT4)部分により構成されているという点であるが、サービスを受けたベトナム法人が輸出加工企業(以下、EPE5)の場合は VATが免除されるためCIT部分のみ課税される。
2.在ベトナム日系企業における、FCTが課される主な取引及びその税率
FCTの税率はサービス内容によって異なる。FCTが課される主な取引としては付加サービスが伴う機械設備等の輸入、技術支援契約、ロイヤリティ契約や親子ローン契約等が挙げられる。
以下、主なサービス内容と税率である。
項目 | FCTの発生要因および税率 |
機械設備等の輸入 | 輸入契約に輸送、据付、試運転等のサービスが含まれる場合には、サービスに対してだけでなく機械設備自体に対しても「サービスの提供を伴う物品の売買」としてFCTが課される。その場合は、それぞれの税率が次のとおりである。 ・輸入された機械設備の購入対価にCIT1%のFCTが課される。 ・輸送サービス部分の対価にCIT2%、VAT3%が課される。 ・据付、試運転、メンテナンス等の付加サービス部分の対価にCIT5%、VAT5%が課される。 ・サービスごとの金額を明確に区分できない場合は、通常そのうちの最も高い税率が適用されるが、例外的に、サービス提供を伴う機械設備の輸入の場合のみ、契約金額総額に対して最も高い税率ではなく5%(CIT2%、VAT3%)のFCTが適用される。 ・据付や輸送について、ベトナム国内のサービスを利用する場合、FCTの課税対象外となる。 |
技術支援契約 | ・外国法人がベトナム法人に対して技術指導、生産管理支援等の技術支援を提供する場合は、役務提供として「一般サービス」とみなされるため、10%(CIT5%、VAT5%)のFCTが課される。 ・課税対象の範囲は、外国法人に支払う技術支援費用はもちろん、課税対象取引に係る実費分(支援者の宿泊代、交通費等の実費、会計事務所への個人所得税申告費用等)、すなわちベトナム法人が直接業者に支払う全ての費用が対象となる。 |
親子ローン契約 | ベトナム国外から資金調達を行う場合、外国からのサービスとみなされ、支払利息に対して、5%のFCTが課される。 |
ロイヤリティ契約 | ロイヤリティの場合、通常CIT10%、VAT免税であるが、例外的に、商標の使用料の場合は、CIT10%、VAT5%のFCTが課される。 |
ソフトウェアの ライセンス料・ メンテナンス費用 |
海外の業者よりソフトウェアを購入し、ライセンス料、導入費用、メンテナンス費用等を支払う場合、FCTの課税対象となる。 ・ソフトウェアのライセンス料:CIT10%、VAT免税 ・メンテナンス等のソフトウェア・サービス関連費用:CIT5%、VAT免税 ・その他(ソフトウェア・サービスに該当しない場合):CIT5%、VAT5% |
保税倉庫内での 物品受け渡し |
規定上、物品の引渡地がベトナム国内の場合、FCTの課税対象となる。近年の税務局の見解では保税倉庫はベトナム領域内にあるものと判断されているため、物品は保税倉庫で引き渡された場合、あるいは外国法人が購入先までの輸送費用を負担した場合は、サービス部分のみならず物品代金に対してもFCTが課される。 (1)外国法人が保税倉庫から購入先までの輸送費を負担している場合 ・物品代金と輸送サービス料の区別ができている場合、物品に対してCIT1%、輸送サービスに5%(CIT2%、VAT3%)のFCTが課される。 ・物品代金と輸送サービス料の区別ができない場合、契約金額全体に5%(CIT2%、VAT3%)のFCTが課される。 (2)物品の引き渡しが保税倉庫で行われている場合、物品に対して1%のFCTが課される。 |
保険 | グループ会社に対する統一管理及びリスク・マネジメントを目的とし、日本親会社は、在ベトナムの子会社のため海外で各種保険(商品品質保証保険、責任保険、環境保険、商品回収保険等)に加入することがある。 保険加入費用を親会社からベトナム子会社に対して請求した場合、ベトナム子会社が親会社へ送金する金額は、保険サービスから得られた所得としてみなされ、FCTの課税対象となる。 子会社は、親会社(外国法人)へ保険加入費用を送金する前に、FCTを源泉徴収し、親会社に代わって申告納付を行う必要がある。この場合、CIT5%、 VAT5%のFCTが課される。 |
ウェブマーケティング 費用 |
Google・Facebook等のオンライン広告サービス利用料はFCTの課税対象となる。 その理由は、現地に法人を持たない外国法人がベトナム法人に対してオンライン広告サービスを提供し、そのサービスから発生した報酬を得ているためである。 Google、Facebook等にFCTの負担を求めることは事実上困難であるため、通常ベトナム法人がこれらの外国法人に代わり申告納税をしなければならない。 オンライン広告サービス利用費を外国法人に対して支払う場合のFCTの税率は以下のとおりである。 ・CIT: 5% ・VAT: 5% なお、Google、Facebook等に支払う報酬にはFCTが含まれていないため、税金計算時に税込みの支払額からFCTを算出する必要がある。 |
3.FCTの申告及び納付方法
FCTはサービス等の支払日から10日以内に申告納付を行う必要がある。ただし、課税対象取引が多いベトナム法人では、税務局へ登録することで月次申告とすることも可能である。
4.契約書作成上の留意点
FCTは契約書がサービス内容を示す根拠となるため非常に重要である。課税対象となる業務の契約書を作成するにあたって、注意すべき点がいくつかある。
➀契約内容とサービスごとの契約金額の内訳を明確にすること
一つの契約に複数のサービスが含まれており、サービスごとの内訳が明記されていない場合、原則契約金額全体に対して最も高い税率が適用されてしまう。もし税務調査時に指摘された場合、追徴課税に加えて遅延利息や罰金も科されてしまう。
➁FCTの負担者について明記しておくこと
FCTの性質から通常は外国法人が負担するものであるが、両者間の合意によって負担を以下のように決定することも可能である。
(1)外国法人が FCTの全額を負担する
(2)ベトナム法人がFCTの全額を負担する
(3)外国法人はCIT部分を負担し、ベトナム法人はVAT部分を負担する
VAT部分をベトナム法人が負担した場合、当該VATは日本の仮払消費税のようにベトナム法人側で仕入税額控除が可能である。一方で、CIT部分については支払いを受ける日本法人負担とする場合、日本側でCITの外国税額控除の適用を受けられる。
➂契約金額が税込金額か税抜金額かを明確にすること
FCTをどちらが負担するのかが明確でない場合や、契約金額がFCTを含む金額(グロス金額)であることを明記していない場合、税務局に当該契約金額がFCTを含まない金額(ネット金額)であると推定され、過少申告を指摘されることがある。そのため、契約金額には負担先及びFCT込か否かについて、契約書に明記することをお勧めする。
おわりに
FCTはサービスごとに異なる税率が適用となるため、FCTの取り扱いを正しく理解し、契約の段階でFCTが課税されるか把握しておくことで、より適切な契約金額を設定することができるのでメリットは大きい。
また、税務調査による追徴課税や罰金による想定外の支出を避けるよう、課税対象取引の契約書を適切に作成し、必要な場合、社内外の専門家に確認することをお勧めする。