Reportレポート

ベトナム現地法人における、資金調達方法の比較検討

2021/07/26

  • 中村 祐太

はじめに
 2021年3月22日掲載の「ベトナムで親子ローンを行う際の留意点」(※1)(以下、「前回レポート」)で説明した通り、親子ローン(ベトナム現地法人の日本親会社からの借入)はグループ間の貸借であり、実施しやすい反面、財務・税務面のデメリットが生じてしまうこともある。
 親子ローンのメリットとデメリットは以下の通りである。

メリット デメリット
親子ローン・短期(一年以内) ・後述のクロスボーダーローン、ベトナム国内銀行からの借入に比べ、調達金利が低いことが多い。
・調達にかかる期間が短く、かつグループ間の意思決定のみで行える
・親子間のどちらかが為替リスクを抱えてしまうことが多く、また多額になった場合、貸付を行った親会社の財務バランスが悪化する
・支払利息に関して外国契約者税の発生・移転価格税制上のリスク・損金算入制限などがある。
親子ローン・長期(一年超) ・こちらも金利面のメリットがあり、製造業の設備資金等、計画的に分割返済を行いたい場合に利用される ・上記に加え、ベトナム中央銀行への借入金登録手続等に時間と手間がかかり、当局とのやり取りも必要となる

 本稿では、親子ローン以外の資金調達方法について解説する。

1. 親子ローン以外の資金調達方法の概要
 親子ローン以外の主要な資金調達方法としては、クロスボーダーローン(ベトナム現地法人が日本の銀行から行う借入)、ベトナム国内銀行からの借入及び増資が選択肢として挙げられる。各資金調達方法の概要、メリット・デメリットについて以下でまとめる。

➀クロスボーダーローン、ベトナム国内銀行からの借入
〈概要〉
 クロスボーダーローンとは、 ベトナム現地法人が日本の銀行から直接行う借入であり、上記の二者間で借入契約を交わし、外国送金により借入・返済を行うことが多い。銀行によって取扱の可否、期間、通貨(USD、JPYなど)等が異なる。
 ベトナム国内銀行からの借入とは、ベトナム現地法人がローカル銀行などから直接借入を行うものである。通貨はVNDやUSD が多いが、外貨建て借入の場合、利用可否・資金使途に制限があることが多い(外貨建ての決済がある企業が買掛金や経費の支払に直接充当する場合に限り利用可能など)。日本の取引銀行の保証を付けて行うことも多い(スタンドバイ L/C という)。

〈メリット〉
 為替リスクの発生、親会社の財務バランス悪化という、親子ローンの財務面でのデメリットを解消することができる。
 例えば日本親会社はJPYの取引中心、ベトナム現地法人は外需向けの企業でUSDの取引が中心である場合であれば、現地法人がUSD建てのクロスボーダーローンにより資金調達を行い、当該資金で日本親会社の借入を返済することで為替リスクの解消・親会社の財務バランス改善が可能である。

 ベトナム現地法人が内需向けの企業であり、ベトナム国内でのVND 建ての取引が中心である場合は、現地法人が現地の銀行から VND 建てで資金調達をすることで、為替リスクの解消・親会社の財務バランス改善が可能となる。

〈デメリット〉
 下記のようなデメリットがあるため、利用にあたっては借入条件や手続をよく確認いただきたい。
  ・利息、手数料、親会社による保証料などの借入コストが親子ローンに比べて高くなることが多い
  ・銀行の審査や審査のための資料準備に時間がかかるケースが多い
  ・現地法人の財務内容等によっては審査の結果融資が行われない、または借入枠の継続が行われない等のリスクがある
 特にスタンドバイL/Cの場合、日本の銀行保証を差し入れる銀行 ・現地銀行の双方で審査・コミュニケーションが必要であり、やや複雑なスキームとなる。そのため銀行の対応実績や対応力を確認したうえで、時間的余裕をもって取り組まれることをお勧めする。

➁増資
〈概要〉
 増資の概念は日本と概ね同様である。ベトナム特有の手続として主に投資登録証明書(IRC)、企業登録証明書(ERC)の修正があり、これらを修正の上、増資金を送金する。

〈メリット〉
 日本法人の配当金受取について、一般的に日本側の税制上も優遇されている(一定の条件を満たす海外子会社からの受取配当金の95%が日本で法人税非課税となる)。

〈デメリット〉
 増資手続は比較的容易である一方、投資引き上げに相当する減資の手続が実務上難しく、また配当として日本親会社に還流できる額に上限があるというデメリットがある。そのため、現地法人が長期・経常的に必要とする資金に対して行うことをお勧めする。

2. ベトナム現地法人における、資金調達方法のメリット・デメリットまとめ
 本稿のまとめとして、主要な資金調達手法のメリット・デメリットを記載する。

メリット デメリット
親子ローン・短期 ・後述のクロスボーダーローン、ベトナム国内銀行からの借入に比べ、調達金利が低いことが多い。
・調達にかかる期間が短く、かつグループ間の意思決定のみで行える。
・親子間のどちらかが為替リスクを抱えてしまうことが多く、また多額になった場合、親会社の財務が悪化する。
・支払利息に関して外国契約者税、移転価格税制上のリスク・損金算入制限などがある。
親子ローン・中長期 ・金利面のメリットがあり、製造業の設備資金等、計画的に分割返済を行いたい場合に利用される。 ・上記に加え、登録手続き等に手間がかかり、当局とのやり取りも必要。
クロスボーダーローン ・為替リスクを解消できる・親会社と現地法人の財務を切り離すことで、親会社の財務体質を改善できる ・日本の国内調達金利より高いケースが多い。
・銀行の審査が必要で手間がかかる。
増資 ・ベトナム税制上のリスク(外国契約者税、支払利息に関する移転価格税制上のリスク・損金算入制限)が無い。
・配当金に対する法人税の非課税部分が大きく、日本の税制上優遇されている。
・減資が難しく、配当についても限度額があることから、日本親会社に還流できる金額に制限がある。

おわりに
 現状ベトナム現地法人の資金調達方法として一般的なのは親子ローンであり、その理由は親子間の意思決定で行うことができること、また親子ローン原資の借入は親会社が行うため金利水準が低いことなどが理由として考えられる。しかしながら、全ての資金調達を親子ローンのみで行った場合、財務バランスの悪化や為替リスク等、デメリットが生じることも想定される。
 ベトナム現地法人の成長ステージや資金需要の状況に応じて、その他資金調達手段の導入も検討し、ベトナムでのビジネスを推進いただければ幸いである。

脚注
※1:詳細はこちら

本レポートに関する
お問い合わせはこちら