Reportレポート

ベトナムの外国契約者税②契約書作成時の注意点

2021/01/04

  • 米国公認会計士
  • 逆井 将也

はじめに
 前回は外国契約者税(以下、FCT)の課税対象取引および税率、申告納税方法等の基本事項について説明してきたが、本稿より数回に分けて実務上の注意点について説明する。FCTもほかの税金同様、仮に不備や不足があったとしても申告納税時に指摘されることはなく、税務調査が行われた際に初めて指摘を受ける。特に、FCTは取引内容によって税率が異なるので、税務調査において取引内容確認のために契約書を精査されることが多く、契約書作成時には注意が必要となる。本稿では、FCTの税務調査で指摘を受けやすい点を踏まえ、契約書作成時の注意点について説明する。

1.契約書作成時の注意点
(1) サービスごとの金額を明記
 FCT はサービスの内容によって税率が異なるが、FCT課税対象のサービスが含まれる契約書には、それぞれのサービスごとに金額を明記する必要がある。ひとつの契約書に複数のサービスが含まれており、サービスごとの金額が明記されていない場合、原則として、契約金額総額に対してそのサービスのうち最も高い税率が適用されてしまう。この点を税務調査で指摘された場合、本来の税率よりも高い税率での納税を要求されることから、追徴課税の金額も高額になってしまうケースが多いため特に留意する必要がある。
 また、機械設備を輸入する際、契約に据付や輸送サービス等のサービスが含まれる場合には、サービスに対してだけでなく機械設備自体に対しても「サービスの提供を伴う物品の売買」としてFCT税率1%(法人税<以下、CIT>部分1%、付加価値税<以下、VAT>部分なし)が課される。機械設備自体に対するFCTの申告納税は失念されやすく、税務調査時に申告納税漏れが発覚することが多いため注意しなければならない。上述の通り、契約書上にサービスごとの金額が明記されていない場合は、原則は契約書上に記載のサービスの中で最も高い税率が適用されるが、サービスの提供を伴う機械設備の輸入に限っては例外的に税率5%(VAT部分3%、CIT部分2%)が適用されることとなる。
 なお、据付サービスに関しては、FCTだけでなくベトナムへの出張者に対する個人所得税(以下、PIT)にも注意する必要がある。法令上は出張者に対してもPITの納税義務はあるが、実務上納税をしていないケースは多い。ただし、機械設備の据付にあたっては、機械設備の規模や過去の同様のケースから出張者によるサポートがあると推測され、PITの申告納税漏れを指摘される事例もあるため、据付に伴い出張者がいる場合はPITも申告納税することをお勧めする。

(2)FCTの負担者を明記
 FCTの申告納税手続はベトナム法人で行われるが、FCTの最終的な負担者についてはベトナム法人と外国法人どちらでも可能であり、どちらが負担者となるかを契約書上に明記する必要がある。負担者を決める際には、VATおよびCITの特性を踏まえた上で契約内容を調整することにより、コストを抑えることができる。VAT部分については、ベトナム法人が負担することにより仕入VATとしてVAT申告納税の際に控除することができる。
 一方、CIT部分については、外国法人が負担することにより二国間租税条約に基づくCITの外国税額控除を適用できる可能性がある。外国法人が日本の法人である場合、ロイヤルティや支払利息に対するFCTのCIT部分は外国税額控除を適用できる可能性が高いが、技術支援契約に基づくFCTのCIT部分は当控除を否認された事例もあるため、適用を検討する際には日本の税理士等に確認いただくことをお勧めする。

(3) 契約金額が税込か税抜かを明記
 契約金額を税込の金額にしているにもかかわらず、税込であることを契約書に明記していない場合、契約金額が税抜の金額とみなされてしまう可能性がある。たとえば、契約金額 100,000米ドル、FCT税率5%(CIT部分5%、VAT部分なし)の契約があり、契約金額を 100,000米ドル×5%=5,000米ドルの税込で105,000米ドルにしたとする。仮に契約書上に税込であることを明記していない場合、105,000米ドルに対してさらに税率5%を乗じた金額105,000米ドル×5%=5,250米ドルが税額とみなされてしまう可能性がある。そのため、税込で契約を締結する際には、契約書に契約金額が税込であることを明記するよう注意する必要がある。

おわりに
 FCTは、どのような取引が課税対象となるかを契約締結段階で把握しておくことが大切であるが、把握した上で契約書上に上述のような詳細事項を明記することも同様に大切となる。なお、契約書ではなくパーチェスオーダー(PO)に基づき取引を行う場合は、POに上述の事項を明記しておくことをお勧めする。本稿ではすべてのFCT対象取引において大切となる契約書作成時の注意点について着目したが、次回以降より個別項目に絞った税務調査で指摘を受けやすい点について説明する。

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