外貨建取引に関する換算レートや換算差額のベトナム会計及び法人税上の取り扱いについて
2021/05/27
- Vo Thi Nguyen Linh
はじめに
日系ベトナム企業は、日本親会社等、外国企業との外貨建取引が多いが、ベトナムの外貨建取引に関する換算レートや換算差額の取り扱いの規定は、会計基準と法人税法でいくつかの違いがある。本稿では、為替レートや換算差額などを適切に処理するために、会計と法人税間の相違点をまとめて説明する。
1.外貨建取引に関する適用換算レートの取り扱い
2014年12月22日付通達200/2014/TT-BTC(以下、Circular 200)によって、外貨建取引に関する換算レートや換算差額を計上する。
(1)外貨建取引が発生した場合の適用換算レートの取り扱い
すべての外貨建取引において、実際の為替レートを適用することが規定されている。取引種類ごとに適用される実際の為替レートの取り扱いは以下の通りである。
・ 資本金の拠出時:投資家が資本金拠出を行う銀行の取引日に公表されるBuyレート(TTB)
・ 売掛金及びその他受取債権の認識時:企業が代金の受取に指定する銀行の取引日に公表されるBuyレート(TTB)
・ 買掛金及びその他支払債務の認識時:企業が代金支払いに使用する銀行の取引日に公表されるSellレート(TTS)
・ 資産購入または代金を買掛金に計上せず、即時支払いする費用の認識時:企業が代金支払いに使用する銀行の取引日に公表される Buy レート(TTB)
(2)外貨建貨幣性項目の期末残高評価
企業は期末の財務諸表作成の際に、外貨建貨幣性項目を実際の為替レートで換算する必要がある。項目ごとに適用される実際の為替レートの取り扱いは以下の通りである。
・ 外貨建貨幣性資産(預金、売掛金、債権など):企業が日常の取引を行う取引銀行において財務諸表作成日に公表される Buy レート(TTB)
・ 外貨建貨幣性負債(借入金、買掛金、債務など):企業が日常の取引を行う取引銀行において財務諸表作成日に公表される Sell レート(TTS)
なお、グループ会社間の取引で発生した外貨建貨幣性資産負債の場合、実際為替レートとの差異が僅少であれば、親会社が指定した為替レートを適用することができる。
外貨建てのサプライヤーへの前渡金、顧客からの前受金、前払費用、担保としての預け金のうち現金で決済しないものについては、期末換算が不要と規定されている。
2.会計基準と法人税法の相違点
ベトナムの外貨建取引に関する換算レートや換算差額の取り扱いに関して、会計と税務方針間の違いで重要な側面を以下の通りまとめる。
【ベトナム会計及び法人税上の取り扱いの違いの比較】
比較項目 | 会計1 | 法人税2 |
1.新設企業の固定資産を建設するための建設投資の期間中に発生した外貨換算差損益 | 損益計算書において、#Account515財務収益あるいは#Account635財務費用で計上される。 | 会計上の取扱いと異なり、外貨の売買や支払取引に係る外貨換算差損益は個別に管理される。 建設投資段階で発生した外貨換算差損益(差額の増減を相殺した後)は、建設が完成して固定資産の状態に変更した時点から最大5年以内の期間で損金算入(財務費用の分)あるいは所得に算入(財務収益の分)される。 確定申告を行う際に、課税所得の増減調整を行う必要がある。 |
2.製造期間において、決算期に発生した外貨の売買や支払い取引に係る外貨換算差損益(実現為替差損益) | 損益計算書において、#Account515 財務収益あるいは#Account635 財務費用で計上される。 | 会計と同じ |
3.会計年度末に行われる外貨建貨幣性負債(借入金、買掛金、未払費用等)の残高評価によって発生する未実現為替差損益 | 損益計算書において、#Account515 財務収益あるいは#Account635 財務費用で計上される。 | 会計と同じ |
4.会計年度末に行われる外貨建貨幣性資産(現金、銀行預金、売掛金、未収金、敷金等)の残高評価によって発生する未実現為替差損益 | 損益計算書において、#Account515 財務収益あるいは#Account635 財務費用で計上される。 | 会計上の取扱いと異なり、税務上課税所得に計上できない。確定申告を行う際に、課税所得の増減調整を行う必要がある。 翌会計年度以降実現した際に課税所得もしくは損金に算入できる。 |
上記より、為替レートや換算差額の取り扱いについて、会計と税務でいくつかの差異があることを理解できる。未実現差損益の取り扱いが貨幣性資産と貨幣性負債で異なるので、注意してほしい。企業は会計上の財務諸表を基に法人税確定申告を準備する際、調整を行う可能性がある。
おわりに
目標とアプローチが異なるため、ベトナムでは、外貨換算に関する会計基準と法人税の規定には一定の差異がある。この差異を適切に認識することは、企業が財務諸表を作成する際に基準と会計制度を順守すると同時に、納税義務を適切かつ完全に守ることに役立つ。
参考文献
Circular200/2014/TT-BTC Article 69
Circular96/2015/TT-BTC Article 4-2.21
2015年6月22日付 Circular 96/2015/TT-BTC
2014年12月22日付 Circular 200/2014/TT-BTC