Reportレポート

ベトナムの法人税①

2020/10/05

  • 米国公認会計士
  • 逆井 将也

はじめに
 ベトナムの法人税は、アジア諸国のなかでも比較的税率が低いこと、優遇税制を採用していることから、進出企業にとって大きな魅力となっている。法人税率は2014年に25%から22%に引き下げられ、2016年以降は20%にまで引き下げられている。さらに、製造業やIT企業等には優遇税制が適用されている。しかし、税率低減や優遇税制が進められる一方で、政府は税収確保のため税務調査による徴税を強化している。
 ベトナムの法令は頻繁に改正され、また法令上不明確な点も多いことから、税務調査では想定外の指摘を受けてしまうことも多い。本稿より数回に分けて、ベトナム法人税の基本事項と実務上の留意点を説明していく。本稿では、基本事項となる法人税の算出方法、損金不算入となる具体例、および申告・納税方法について説明する。

1.法人税の算出方法
(1) 法人税の計算
 法人税は以下のように計算する。標準税率は20%となるが、一部の事業内容や地域では優遇税制として免税・減税が適用できる。会計上の総収益にその他所得を加えた金額から、損金算入が認められる費用および非課税所得、繰越欠損金を控除した金額に税率を乗じるが、損金算入に対する条件が非常に厳格となっている。そのため、損金算入条件を満たしているか否かが重要なポイントなる。

損金に算入するためには以下の条件のすべてを満たさなければならない。
a. 会社の事業活動に関係がある費用であること
b. レッドインボイス及び電子インボイス(以下、VATインボイス)や契約書、社内規定等適切な証憑を提出できること
c. 付加価値税(VAT)込みで20百万VND(約100千円)以上の支払は現金以外(銀行送金やクレジットカード払)で決済していること
 税務調査においてVATインボイス、契約書や社内規定等の不備不足を理由として損金否認されてしまう事例が多いため、あらかじめ関連証憑を適切に管理することが重要になる。

(2) 繰越欠損金
 日本同様にベトナムにおいても、欠損金(税務上の赤字)を翌年以降の課税所得(税務上の利益)と相殺することができるが、繰越可能期間は欠損金が発生した年の翌年から5年間となっている。また、5年間の中には優遇税制の適用期間も含まれてしまうため、優遇税制を適用している場合には双方の期間を考慮すべきである。なお、欠損金の繰戻還付は認められていない。

2.損金不算入となる具体例
 上述の通り、損金算入条件が厳格であるため、法人税の税務調査において損金不算入とされてしまう事例が多い。以下、実際に指摘が多い事項となるため、参考にしていただきたい。

(1) 会社の事業と直接関係のない費用
 法令上具体的な費用の内容については明記されていないため、税務局の担当官によって解釈が異なる。ただし、ゴルフのプレー代やゴルフ会員権代等のゴルフ関連費用、当局への罰金等は事業と関連しない費用とみなされ、実際に税務調査で指摘を受ける事例が多い。そのため、これらの費用については法人税申告時に自ら損金否認して、保守的に申告・納税されることを推奨する。

(2) VATインボイスの不備不足
 帳簿方式の日本とは異なり、インボイス方式のベトナムではVATインボイスと呼ばれる公式領収書の発行が求められる。VATインボイスが発行されていない費用は法令上損金不算入となるため、VATインボイスを発行してもらうよう取引先への依頼を徹底する必要がある。また、VATインボイスが発行されている場合でも、会社名・税コード・住所といったすべての情報が漏れなくベトナム語で記載されていなければならない。記載内容に不足や誤りがあるため、税務調査で指摘を受けてしまう事例も多いため注意していただきたい。たとえば、事務所が移転した後に住所が変更されていないという場合も、十分指摘対象になる。
 また、VAT インボイスの宛名を個人名にしてしまった場合は、法人税において損金不算入となるだけでなく、個人に対する所得とみなされ、個人所得税の課税対象とみなされる可能性もあるため注意しなければならない。
 なお、海外で発生した費用についてはVATインボイスの取得は不可能だが、その代わりに領収書等の金額がわかる証憑のベトナム語翻訳が必要である。

(3) 社内規定の不備
 損金算入した費用について、根拠資料となる社内規定が不十分な場合や、社内規定と異なる条件で支払をした場合、税務調査で指摘を受け損金不算入となってしまう事例が多い。たとえば、賞与を損金算入するためには、雇用契約書や財務規定に支給条件が明記されていなければならない。雇用契約書や財務規定上に「賞与は給与の1ヵ月分」と明記されている中、1ヵ月分超の賞与を支払った上、賞与全額を損金算入していたことにより税務調査で指摘を受けたという事例がある。社内規定を超えた賞与額を支払う可能性がある場合、社内規定には、「詳細は別紙に記載する」と記載しておき、賞与の都度別紙を発行することを推奨する。
 また、社員への手当や会社負担費用は雇用契約書や財務規定、給与規定に明記していなければならない。出張費用についても同様だが、社内規定に明記することに加えて出張命令書を都度発行することが求められるため注意していただきたい。

3.申告・納税方法
 課税年度は法人の会計年度と同じになり、課税年度末日から90日以内に年次確定申告および納税が求められている。四半期ごとの申告は不要だが、四半期末日から30日以内に予定納税が必要となる。予定納税については、第4四半期までの納税合計額が確定申告における納税額の80%に満たない場合、当該満たない金額について、延滞税が課されるため注意していただきたい。

おわりに
 ベトナムの法人税率は周辺国と比較しても高くはないが、損金算入条件が非常に厳格であり、税務調査でもその点を指摘され結果的に法人税負担額が大きくなってしまうリスクがある。事前に当リスクを念頭に置いて日々の管理を徹底していくことはもちろんのこと、年度末の確定申告時には十分な知識を有する担当者や外部の専門家に確認を行い保守的に申告納税することを推奨する。次回は、法人税の優遇税制についてくわしく説明していく。

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