Covid-19の影響で発生する特別な費用等の会計税務上の留意点
2021/02/04
- ベトナム公認会計士/税理士
- Vo Thi Nguyen Linh
はじめに
Covid-19によって、会社の営業状況に影響を与える多くの特別な費用が発生するため、最近、税務総局及び地方税務当局はCovid-19の流行から生じる特別な費用に対する処理方法を指示した。本稿では、費用の計上と処理に対して混乱を避けるため、注意が必要なガイダンスを要約して説明する。
1.Covid-19の影響で一時停止中の固定資産の減価償却費
一時停止中の固定資産の減価償却費を法人税上、損金算入するには、以下の条件を満たす必要がある(※1)。
・ 季節的な要因で9か月未満の期間で生産が一時停止する
・ 修理・移転・定期メンテナンスにより12か月未満の期間で生産が一時停止する
現在、Covid-19の影響により、多くの製造業者が一時停止中の固定資産(機械・設備)を抱えている。Covid-19の影響により生産ラインを一時停止した際の機械・設備の減価償却費は規定された一時停止に該当しないため、一部の地方税務局の意見では、損金算入の対象とならない。しかし、財務省は2020年10月9日にOfficialLetter 12452/BTC-TCTを発行し、以下2つの条件を満たす場合、Covid-19の影響で一時停止中の固定資産の減価償却費は法人税上の損金算入が可能となる旨回答した。
・ 2020 年度において一時停止中の期間が9ケ月未満である
・ その後、当固定資産が再度使用された
財務省の回答は、企業に対して有利となっているが、当Official Letterは、あくまで2020年度の取り扱いを述べているものである。2020年度以降の取り扱いは必要に応じてOfficial Letterにより管轄税務局に確認頂くことをお勧めする。
2.外国人専門家による隔離期間の費用及びCovid-19の流行防止の費用に関して
Covid-19の流行が始まって以来、地方税務局からはさまざまな指導意見があったが、2020年11月26日付で税務総局が発行したOfficial Letter 5032/TCT-CSによれば、外国人専門家による隔離期間の費用及びCovid-19の流行防止の費用に関する法人税、個人所得税の取り扱いは以下の通りとなる。
2.1 法人税
ベトナムの法人税においては、損金算入のためには以下の条件全てを満たす必要がある(※2)。
・ 会社の事業活動に関係がある費用であること
・ 領収書、インボイスなど適切な証憑を提出できること
・ 付加価値税(VAT)込みで2,000万ドン(約10万円)以上の支払いは現金以外(銀行送金やクレジットカード払い)で決済していること
外国人専門家による隔離期間及びCovid-19の流行防止に関する費用について、税務総局のガイダンスは以下となる。
① 外国人専門家の隔離期間にホテル代について損金算入を行うために必要な証憑は以下のとおりである。
・ 会社と外国人専門家の労働契約があり、労働契約書には外国人専門家の家賃は会社が負担することを明記する
・ 現行規定に適合する支払証憑
・ ホテル代のインボイスがある 上記のガイダンスにより、外国人専門家がベトナム現地法人との労働契約を結んでいない場合、隔離期間中のホテル代を負担する会社を決定する際に、ご考慮頂く必要がある。
② 外国人専門家向けのビジネス航空券の購入費用について損金算入を行うために必要な証憑は以下のとおりである。
・ 航空券代のインボイスがある、若しくはWebサイトを介して航空券を購入する場合、電子航空券がある
・ 支払いは銀行送金で決済する
・ 搭乗券(Boarding Pass)に関して、ガイダンス上は、航空券を根拠証憑として航空券代を損金算入することは可能であるが、実務上、搭乗券も無いと損金算入を認められない事例がある。
③ 外国人専門家のためのCovid-19テスト(PCR 検査)の費用に関して
Covid-19テストの費用は労働者に直接支払われる福利厚生費用と見なされる。従業員に対する費用が福利厚生的なものであれば、法人税の計算上、月次の平均賃金を超えない場合、損金算入が認められる。月次の平均賃金は1年間で支払われた実際の合計賃金を12で除したものである。福利厚生的なものの詳細は以下の通りである(※3)
・ 従業員に対するお祝い金やその家族への香典などの費用
・ 社員旅行の費用、祝日の特別手当
・ 従業員およびその家族の医療費
・ 従業員の研修費用
・ 天災、事故、病気に遭った従業員に対する支援費用
・ 従業員の成績優秀な子供に対して支払う報奨金
・ 旧正月(テト)の帰省手当
・ 生命保険、医療保険、その他非業務的な任意保険
・ その他福利厚生的な費用
また、損金算入を行うために必要な証憑は以下のとおりである
・ 現行規定に適合する支払証憑
・ インボイスやその他関連書類
2.2 個人所得税
2020年7月6日付バクニン省税務局発行Official Letter 2220/CT-TTHTによれば、隔離はCovid-19感染予防のため管轄機関の指示により実施したものである。従って、外国人専門家の個人所得税について、以下の書類があれば、会社が隔離施設に直接支払った滞在費(ホテル代)は個人所得税の課税対象外になる。
・ 隔離完了証明書
・ ホテルのインボイス
・ 現行規定に適合する支払証憑
ただし、税務総局のOfficial Letter 5032/TCT-CSでは、会社が外国人専門家がベトナム入国時のCovid-19流行に対する隔離費用を支払った場合、当該費用は外国人専門家の所得とみなすこととされており、税務総局とバクニン省税務局で異なる見解が示されている。本点について、現時点では様々な意見があるので、今後追加情報がアップデートされる場合、共有させていただく。
3.Covid-19が外国人専門家の滞在状況および個人所得税申告に与える影響
Covid-19の影響で入出国が制限されている事を受け、ベトナム滞在状況に応じた外国人の個人所得税の申告方法にも影響・留意点がある。 以下は注意すべきいくつかの典型的なケースである。
ケース | 影響・留意点 |
1.外国人はベトナム現地法人と労働契約を結んでいるが、入国制限で海外に滞在しなければならない場合 | 2020年のベトナム滞在状況を居住者から非居住者に変更する。居住者であった期間に累進税率を適用して支払った個人所得税については、非居住者として20%税率を適用することとなる可能性がある。 |
2.外国人は海外の会社と労働契約を結んでいるが、出国制限でベトナムに滞在しなければならない場合 | ベトナム滞在期間は、居住状況及び課税対象期間を判断するための計算に含まれる。 居住状況を非居住者から居住者に変更し、全世界所得に対して累進税率で申告納税することとなる可能性がある。 |
3.外国人はベトナムでの労働契約を終了したが、出国制限で帰国できない場合 | ベトナム現地法人との労働契約が終了した期間以降の滞在日数も、課税対象滞在期間の計算に含まれる。 ベトナム滞在状況を非居住者から居住者に変更し、全世界所得に対して累進税率で申告納税になる可能性がある。 |
4.入国後14日隔離期間 | ベトナム現地法人での勤務はしていないが、14日の隔離期間は居住状況及び課税対象期間を判断するための計算に含まれる。 |
おわりに
以上はCovid-19の影響で発生する特別な費用等の会計税務上の留意点である。2020年会計年度の確定申告時期が近づいているため、税務申告を行う際にはぜひ留意いただきたい。
※1) Circular 96/2015/TT-BTC Article 4-2.2
※2) Circular 96/2015/TT-BTC Article 4-1.
※3) Circular 96/2015/TT-BTC Article 4-2.30
参考文献
2013年8月15日付け Circular 111/2013/TT-BTC
2015年6月22日付け Circular 96/2015/TT-BTC
2020年11月26日付け Official Letter 5032/TCT-CS
2020年7月6日付け Official Letter 2220/CT-TTHT
2020年10月9日付け Official Letter No.12452/BTC-TCT