Reportレポート

ベトナムにおける有形固定資産の取扱(前編)

2020/07/16

  • 米国公認会計士
  • 鈴木 友紀

はじめに
 製造業をはじめとする多くの企業が何らかの有形固定資産を取得されているが、日本とベトナムでは有形固定資産の会計上・法人税法上の取扱が異なっており、財務諸表上も違いが目につきやすい。そこで、本レポートでは、ベトナムにおける有形固定資産の会計上・税務上の規定について、2回にわたり説明する。前編となる本稿では、日越の枠組みの比較と、ベトナムの有形固定資産の認識基準と取得原価の算出方法について記載する。

1.ベトナムの法人税法における有形固定資産の扱い(日越比較・認識・取得原価)
(1)日越の制度比較(概観)
 日本とベトナムでは、固定資産の定義や対象範囲が次のように異なっている。参考までに、日越の法人税法における有形固定資産の取扱に関する簡易な比較表を次頁に掲載する。
表1: 日越の有形固定資産に関する法人税規定の比較

日本 ベトナム
固定資産の定義・
認識基準
減価償却資産、土地、地上権、電話加入権およびこれらに準じるもの(ただし棚卸資産等を除く)。少額資産や一括償却資産の特例はあるものの、明示的な認識基準は特にない。 以下の3つの認識基準をすべて満たすもの
a)その資産から将来にわたり経済的便益を受けられる
b)1年以上使用する耐用年数が1年以上である
c)その価値取得価格が3000万ドン(約15万円)以上である
有形固定資産の例・特徴 土地、建物、設備、構築物、機械装置、船舶、航空機、車両および運搬具、工具・器具・備品、家畜、果樹等 認識基準(前述の3つの要件)を満たす有形物。土地は含まれない。その他は日本の場合とほぼ同じ。
固定資産ではなく
前払費用に計上するもの
役務提供にかかる前払金(保険料、利息の前払分等含む) 土地使用権、工場・倉庫・事務所その他固定資産の賃貸に伴う前払使用料、設立費用、 内装費、移転費用、保険料、長期使用する工具器具、再利用可能な梱包材、先払利息、固定資産の条件を満たさないが一定以上の価格の物品購入費用、知的財産権関連費用、のれん、固定資産の大規模修繕費
耐用年数種類 種類に応じ単一の法定年数が規定されている 法定年数の上限と下限の間で企業が決定
減価償却の方法 定額法、定率法、生産高比例法 定額法、定率法、生産高比例法
償却開始時点 資産の使用開始時 資産が使用できる状態になった時点

 固定資産に関するベトナムの法人税法上の取扱については、主に通達Circular No.45/2013/TT-BTC(以下「通達45号」)においてひと通りの事項が定められている。
 以下、有形固定資産の主な規定内容のうち認識基準と、取得原価の考え方について説明する。

(2)認識基準
 ベトナムにおいて固定資産として認識・計上できるのは、上表の通り、以下の3つの条件を満たすものとされる。

   a) その資産から将来にわたり経済的便益を受けられる
   b) 1年以上使用する耐用年数が1年以上である
   c) その価値取得価格が3000万ドン(約15万円)以上である

 原則として単一の物体が前述の3つの認識基準を満たせば、財務諸表において有形固定資産として計上することができる。ただし複数の構成要素が連結・結合され、そのすべてが揃って初めて意図する機能が得られる物は、その物全体として固定資産の認識基準を満たしていれば、ひとつの有形固定資産として認識できる。

 なおベトナムでは、土地は企業や個人の有形固定資産とはならない。ベトナムでは土地は全人民の所有物とされているためで、代わりに「土地使用権」として認識される。企業が工業団地に入居する際には数十年間の「土地使用権」を取得することになるが、この土地使用権は「長期前払費用」とされる。

(3)取得原価
 通達45号では、有形固定資産の取得原価の算出方法が取得方法別に規定されている。
 たとえば有形固定資産を購入した場合の取得原価は、その取得価格とされる。取得価格は、購入価格・税金(輸入関税等還付されないもの)・「意図した用途で使用できる状態にするため直接発生した費用(直接関連費用)」の合計とされる。直接関連費用の例としては、輸送費、搬入・据付費用、コミッションや登記費用等が挙げられる。分割払いにより生じる金利費用は、取得価格に含まれない。ほかに、物々交換により資産を取得した場合や、資産としての建物を建設したり使用する設備を自社で製造した場合の原価の計算方法についても、通達45号で規定されている。
 なお、取得原価の計上にあたっては、法人税上会社費用とするために必要な以下の条件を満たす必要がある。

a)会社の事業活動に関係がある費用であること
b)レッドインボイスや契約書、社内規定等適切な証憑を提出できること
c)付加価値税(VAT)込みで2,000万ドン(約10万円)以上の支払は現金以外(銀行送金やクレジットカード払い)で決済していること

おわりに
 本稿では、日本の制度と対比を交えて、ベトナムの有形固定資産について説明した。日本では有形固定資産に含まれる土地がベトナムでは含まれていないことや、固定資産の認識基準として金額基準が定められている点が特徴的である。取得原価の計算方法は画一的な規定となっているが、取得原価の計上のためには、当然法人税上定められたVATインボイスの入手等を忘れないよう、留意する必要がある。
 次号では、ベトナムの有形固定資産の減価償却方法について説明する。

本レポートに関する
お問い合わせはこちら