Reportレポート

ベトナムの個人所得税③~投資や相続・贈与による所得の扱い~

2020/10/05

  • 米国公認会計士
  • 逆井 将也

はじめに
 前回、個人所得税の課税対象給与所得について説明したが、本稿では給与以外の課税対象所得に着目する。ベトナム国内では有価証券や不動産取引等への投資が活発になってきており、近年外国人に対する投資規制も緩和されてきていることから外国人の個人投資も増えてきている。また、ベトナム赴任中にベトナム国外での投資所得や相続・贈与を得るといったケースも多い。一方で、このような投資や相続・贈与に関するベトナムの個人所得税上の扱いについてはあまり周知および認識されてない状況にある。
 こうした背景を踏まえ、本稿では投資および相続・贈与に関する個人所得税上の扱いについて整理する。

1.投資および相続・贈与に関する個人所得税上の扱い
 ベトナム非居住者は、ベトナム国内で発生する所得のみに対して課税される。一方、ベトナム居住者は全世界所得が課税対象になるため、ベトナム国内外で発生した所得が課税対象となる。以下、それぞれの項目ごとに詳細を説明する。

<利息・配当金収入>
(1) 課税対象範囲
① 組織や個人に対する貸付による利息収入
② 債券や短期国債、その他有価証券による利息収入
③ 株式配当金
④ 法人等組織への出資によって得られる利益

ただし、以下の収入は免除対象となっている。

ア 銀行や金融機関への預貯金による利息収入
イ 生命保険契約による配当金収入
ウ 国債による利息収入
エ 個人会社や個人オーナーの一名有限会社への出資によって得られる利益(ただし、個人が二名以上有限会社や株式会社への出資によって得た利益は、課税対象となるため注意しなければならない)。

(2)計算方法
  個人所得税額=収入金額×5%

(3)申告・納税方法
 配当金や利息の支払者側が、個人所得税を源泉徴収し、申告・納税を行う。ただし、支払者側により源泉徴収ができない場合は、個人で収入発生日より10日以内に申告納税を行う必要がある。個人で申告・納税を行う際には、事前に税コードの登録(手続期間3~5営業日)を行う必要があるため注意しなければならない。

<有価証券の売却>
(1)課税対象範囲
 有価証券の譲渡によって得られる所得が対象となる。有価証券は、株式、先物取引、オプション、債券、およびその他証券等が該当する。なお、弊社でも最近問い合わせを受ける仮想通貨(暗号通貨)に関しては、現時点では法令が明確になっておらず、実務上でも申告・納税を行った事例は把握できていないが、他国では規制が強化される傾向となっているため、今後の動向に注意しなければならない。
 また、ベトナム居住者の有限会社の出資持ち分の売却の場合は、「個人所得税額=(売却額-出資金額-関連費用)×20%」となり、上述の<有価証券の売却>(1)1行目の株式の場合と異なるため注意しなければならない。
 ちなみに、法人が株式等売却益を得た場合は、株式会社、有限会社ともに、譲渡益に対して20%の法人税が課税されるので、こちらも注意いただきたい。

(2)計算方法
  個人所得税額=売却額×0.1%

 売却額は、証券取引所における取引価格である。証券取引所で取引されていない場合、法令上不明確な記載があるが、原則、売却価格を使用するのが一般的である。

(3)申告・納税方法
 公開会社の株式でベトナムの証券口座を介している場合は、証券会社が源泉徴収し申告・納税を行う。証券会社で源泉徴収ができない場合、個人で売却日より10日以内に申告・納税を行う必要がある。売却日の定義は以下の通り。

① 証券取引所を介した取引は、売却益を受け取る日
② 証券取引所を介していない取引は、株式の所有権が移転した日

<不動産の売却>
(1)課税対象範囲
① 土地の使用権・貸付権、水源の貸付権を売却することによって得られる所得
② 土地やその土地にある資産の使用権を売却することによって得られる所得
③ 家具を含む家屋の所有権を売却することによって得られる所得
 ただし、上述①~③のうち、不動産を一軒のみかつ183日以上保有している場合、当該不動産の売却益は免除対象となる。
 また、夫婦間、親子間、養父母と養子の間、舅姑と嫁婿の間、祖父母と孫の間、兄弟間の不動産売買の場合も免除対象となる。

(2)計算方法
  個人所得税額=売却額×2%

 売却額は譲渡契約書に記載された売却額となる。

(3)申告・納税方法
・譲渡契約書において「購入者側が販売者側に代わって税金を支払う」との記載がある場合、所有権や使用権等の登録時までに申告・納税が必要となる。
・譲渡契約書において「購入者側が販売者側に代わって税金を支払う」との記載がない場合、契約書の有効日から10日以内に申告・納税が必要となる。

<相続・贈与による収入>
(1)課税対象範囲
 個人・組織の意思または法令に基づき相続・贈与された、不動産、有価証券、出資金、および所有権の登録が必要な資産(車、バイク、船等)が対象となる。
 ただし、相続・贈与時の資産価値が1000万ドン以上の場合のみ対象となる。
 また、夫婦間、親子間、養父母と養子の間、舅姑と嫁婿の間、祖父母と孫の間、兄弟間の不動産相続・贈与は免除対象となる。

(2)計算方法
  個人所得税額=(資産価値-10,000,000 VND)×10%

 資産価値の定義は、以下の通りである。
① 不動産:所有権変更時の市場価格
② 有価証券:所有権変更時の証券取引所における取引価格。取引所を介していない場合は直近の簿価
③ 出資金:出資者変更時の簿価
④ その他資産:所有権登録時の人民委員会が定める価格

(3)申告・納税方法
 相続・贈与対象資産の所有権・使用権の登録手続を行う際に、個人が税務申告・納税を行う。ベトナム非居住者がベトナムにある資産を相続した場合でも、ベトナム源泉所得とみなされ課税対象となるため注意しなければならない。

おわりに
 上述のような所得は、実際のところ申告・納税が行われていないケースも多く、申告・納税漏れについて税務調査で指摘された事例も少ない。しかし、法令上規定されているが実務的には見逃されていた項目も、徐々に法令通り課税される傾向にある。このような項目については、すでに法令上課税対象と明記されているため、将来税務調査が厳しくなった際に、当時は実務上申告・納税不要であったという反論は通用しない。そのため、給与所得だけでなく、上述のような所得にかかる個人所得税についても保守的に考えていただければ幸いである。次回は実際の税務調査事例を参考に個人所得税の実務上の留意点について説明する。

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