Reportレポート

ベトナム法における企業内労働組合に関する規定について

2023/06/18

  • Ho Thi Y Nhi

はじめに
 企業内労働組合は労働者を代表する組織であり、特に製造業をはじめとした中堅企業・大企業によく見られる。しかし、当該組織の意義、設立手続き、組織構造、運営内容等を十分に理解している雇用者は少ないと思われる。実際、当該組織が会社にとって有害であると考えている雇用者もおり、企業内労働組合の設立をためらう、または意図的に妨害するケースも存在する。本稿では、雇用者の当該組織の理解に役立つよう、企業内労働組合に関する現行の法的規定及び注意点を説明する。

1.企業内労働組合とは
 企業内労働組合とは、企業における労働者代表組織であり、労働者の自発的な意思に基づいて設立される組織である。労働に関する法令に基づいた、団体交渉又はその他の形式による交渉を通じて、労使関係における労働者の権利や利益の擁護を目的とする組織である1

2.企業内労働組合設立の条件
 企業内労働組合は、労働者が5人以上いる企業において設立され、ベトナム労働組合への加入を自主的に申請することになっている2

 ベトナム人労働者は、労働組合法の規定にしたがって労働組合を設立することができ、労働組合への加入及び活動への参加の権利を有する3。また企業は、労働組合の設立及び組合活動に干渉・操縦してはいけない4。したがって、ベトナム人労働者が企業内労働組合の設立を要求した場合、企業は設立に向けて調整を行い、有利な条件を整備したうえで、当該設立活動を妨害しないように注意を払う必要がある。
 労働組合は、自主性の原則の下で設立される5。したがって、労働者は労働組合への加入の選択を自由に行うことができる。

3.企業内労働組合設立の手続き
 企業内労働組合設立の手続きには、基本的に次の手順が含まれる。

 なお、上級労働組合による処理期限は、企業内労働組合の設立申請書を受理した日から15営業日以内である。
 上記の手続きの流れは、現地当局(上級労働組合)の判断により変わる可能性があるため、実際に設立を行う際は、上級労働組合に手続きの流れを確認し、正確な指示を受けることを推奨する。

4.労働組合の財源に関する規制
4.1.労働組合の収入源
 労働組合の収入源は、以下の4つから構成され、そのうち組合経費と組合費が主な収入源となる。

(i)組合経費:企業内労働組合の有無にかかわらず、企業は労働者の社会保険料計算に使用する基準賃金額の2%に相当する額を、組合経費として納付する義務がある。
(ii)組合費:組合経費と異なり、企業内労働組合を有する企業における労働組合員のみに課される費用である。毎月、組合員は給与の1%に相当する額を、組合費として納付する必要がある。ただし、基本給の10%が上限となる。
(iii)国家予算からの拠出金又は補助金
(iv)その他の収入源

4.2.組合の財源の使用
・企業内労働組合を有する企業については、企業内労働組合は、組合費総額の60%、組合経費総額の75%7を、組合員及び労働者の保護、研修、宣伝、動員、および行政管理のための支出に使用することが認められている8

・企業内労働組合がない企業については、上級労働組合が組合経費を、労働者の保護、宣伝活動、組合員の育成、企業内労働組合の設立、集団労働協約の締結などに充てる。支出の内容や割合については、上級労働組合が具体的な内容を記載した指導文書を発行する。
例えば現在、ホーチミン市1区の労働総同盟は、指導文書12/HD-LDLDを適用している。当該文書では、実情に応じて支出の内容や割合を検討・決定し、支出の上限は2,000,000VND/人/回を超えないようにすることが規定されている。

 これらから分かる通り、企業内労働組合を有する企業は、有さない企業よりも高い割合で労働組合の財源を使用する権利があり、より積極的に支出を行うことができる。したがって、企業内労働組合を有する企業の労働者は、充実した福利厚生を享受することができ、労働者の満足度を高めることにつながる。

5.企業内労働組合の執行委員会の構成員である労働者に関する注意事項
 企業内労働組合の執行委員会の構成員については、企業内労働組合の特定の仕事を担当する関係で、労働条件に関する特別な規定が別途存在する。したがって、企業は法律を順守するため、以下の内容に注意する必要がある。

(1)任期中に企業内労働組合の構成員である労働者の労働契約が満了しても、当該労働契約が終了することはない9。この場合には、労働契約を延長する必要があり10、新しい労働契約の期間は、少なくとも当該労働者の労働組合の構成員としての任期が終了するまでとする必要がある。

(2)企業内労働組合の執行委員会の構成員である労働者に対する労働契約の解除、異なる業務への異動、解雇処分について、企業が独自に決定することは許されず、企業内労働組合の執行委員会と書面で合意する必要がある。合意できない場合、両当事者は省級人民委員会に属する労働の専門機関に報告する必要があり、報告した日から30日後に企業は新たな決定権を有する。企業の決定に不服がある場合、労働者及び企業内労働組合の執行委員会は、法令に定める手順、手続きにしたがった労働争議による解決を要求する権利を有する11

(3)会長、副会長、執行委員、チームリーダー、副リーダーを含む企業内労働組合の構成員は、労働組合に組合費を徴収された後、労働組合から責任手当が支払われる(企業は当該手当を支払う責任はない)。そのため、当該手当は決定5692/QD-TLDに基づく社会保険、健康保険、失業保険の計算対象にはならず、オフィシャルレター1381/TCT-TNCNに添付されたリストのセクション10号及び通達111/2013/TT-BTCの第2条による個人所得税の計算対象にはならない。

(4)労働者は、勤務時間内(役職により最大24時間/月、合意により勤務時間を増やすことも可能)で労働組合活動を行い、会議や研修に出席しても、企業から支払われる給与を受け取ることができる。すなわち、労働者が企業で業務を行う時間が短くなることを意味する。

(5)企業内労働組合の組合長は、企業の指導・管理的立場を兼務することはできない12

おわりに
 企業内労働組合は、労働者の正当な権利を保全し、やる気を創出する上で重要な役割を担っている。しかし同時に、労働組合の構成員と企業との間で利益相反が発生する可能性も存在する。そのため、全ての企業は、企業内労働組合の有無にかかわらず、上述の内容に注意を払う必要がある。法律の規定を十分に把握し、順守を徹底するようにされたい。

********************************************************************************
1:2019年労働法第3条3項
2:ベトナム労働組合の定款第13条及び指導文書03/HD-TLD第11.1項
3:2019年労働法第170条1項及び2012年労働組合法第5条
4:2019年労働法第175条2項
5:2012年労働組合法第6条
6:上級労働組合は、地区、町、省、市の労働総同盟、地方産業分野の労働組合組織、工業団地、輸出加工区、経済区、ハイテク区の労働組合、総会社の労働組合、その他直接上級労働組合(ベトナム労働組合の定款第7条による)
7:この割合は、ベトナム労働総同盟(VGCL)の会長の決定に基づき、毎年変更されることが予定されている
8:決定4290/QD-TLD第5条1項、3項
9:2019年労働法第34条1項
10:2019年労働法第22条2項
11:2019年労働法第177条3項
12:指導文書03/HD-TLD第5.3項

M000111-170
(2023年5月12日作成)

本レポートに関する
お問い合わせはこちら