Reportレポート

2020年企業法の規定に基づく株式会社の年次株主総会開催手順及び手続き

2023/08/26

  • 米国公認会計士
  • 逆井 将也

はじめに
 株主総会は、議決権を有する株主全員からなる株式会社の最高決定機関であり、少なくとも年に一度、年次総会を開催し、会社の重要事項にかかる決議をおこなう[1]。株主総会の開催手続きは法律に明確に規定されており、遵守せず開催したため会社に損害が生じた場合には、取締役会の会長や各取締役は賠償責任を負い、また何より経営に混乱を来たしてしまう恐れがある。
 しかし、多くの株式会社ではこの手続きがよく理解されておらず、適切な開催手順を経ないまま開催されている場合も多い。本稿では、2020 年企業法(以下、「企業法」という)の規定に基づく年次株主総会の開催手順について説明する。

1.年次株主総会の主要な要素
1.1.招集者
 年次株主総会の招集者は取締役会である[2]

1.2.開催場所
 株主総会の場所は議長が会合に出席する場所とされ、またベトナム国内でなければならない。
 株主数が10名程度の場合、株主総会は本社で開催されるのが一般的である。法令上は株主がオンライン会議を通じて会議に出席する権利を有すると規定されているが[3]、会社は依然として議長が会議に出席する場所がベトナム国内にあることを保証する必要がある。新型コロナウイルス感染症流行期間中は、多くの株式会社がオンライン会議や対面とオンライン出席を併用して株主総会を開催してきた。各社において、このときに議長がベトナム国内にいたことを、議事録をもって再度確認することが推奨される。

1.3.開催時期
 年次株主総会は、会計年度が終了した日から4ヶ月月以内に開催しなければならない。会社の定款に異なる規定がある場合を除き、取締役会の決定によりその期限を延長できるが、会計年度が終了した日から6ヶ月を超えてはならない。
 取締役会が規定に従って年次株主総会を開催しない場合、以下のようなリスクが生じる。
-取締役会の会長及び各取締役は、経営責任を問われ、義務の不履行として会社から損害賠償を請求される可能性がある[4]
-定められた開催期限を過ぎて実施された株主総会で承認された決議は、株主総会の招集手順、手続について法令及び定款の規定の重大な違反があったとして、取消しを求められる可能性がある[5]

1.4.出席者
-取締役会
-株主登録簿に従った出席権を有する株主
-書記

1.5.決議事項
 年次総会では主に次の各事項が討論され、決議される[6]
-会社の年次経営計画
-年次財政報告
-取締役会及び取締役ごとの管理及び活動結果に関する取締役会の報告
-会社の経営結果、取締役会、社長または総社長の活動結果に関する監査役会の報告など

2.年次株主総会の開催手順[7]

手順 作業内容 担当 期限
ステップ1: 準備 出席権を有する株主名簿を株主登録簿に基づいて作成する。 取締役会 定款でより短い時間が規定されている場合を除き、株招集通知の送付日から遡って10日以内[8]
議事次第、内容、参照資料、内容に基づく株主総会決議案を作成する。 定款でより長い期限が定められている場合を除き、会合の開会日の遅くとも 21 日前まで[9]
会合の開催日時と場所を確定する。
ステップ 2:

会合の招集

出席権を有する株主へ招集通知及び添付資料(議事次第、会合で使用する各資料、議事次第中の事項ごとの決議案、議決票)を送付する[10] 取締役会 定款でより長い期限が定められていない場合を除き、総会開会日の遅くても21日前まで[11]
ステップ3:株主による議題の提案 議事次第に入れる決議事項を提案する[12] 普通株式総数の5%以上または定款で規定されているそれ以下の割合を所有する株主または株主グループ 定款に別段の規定がある場合を除き、開会日の遅くとも3営業日前まで
企業法第142条第3項で規定されているケースに該当した場合、議題の提案を否決する[13] 取締役会 開会日の遅くとも2営業日前まで
ステップ4:

会合の実施[14]

株主総会のへの出席登録を行う。 通常、会合の開催をサポートする部門・担当者 会合の開会前
議長を選任する。 取締役会長または取締役会長が委任した者 会合の開会中

 

書記を選任する。 会合の議長
開票委員会を選任する。 株主総会

 

会合の議事次第及び内容を承認する。
各議題の事項ごとに討論し、議決し、開票する[15]
ステップ 5:

会合の決議採択及び議事録の承認

会合の決議を採択する。 株主総会 会合開催中(議決により採択する場合)
議事録を作成し、議事録への承認を行う。 会合の議長、書記 会合終結前
採択された決議を出席権を有する株主に通知するか、会社のウェブサイトにアップロードする。 取締役会 採択日から15日以内
議事録を株主全員へ送付するか、会社のウェブサイトにアップロードする。 取締役会 総会終了日より15日以内
ステップ6:開催後の手続きの実施 株主総会の議事録、会合に出席登録した株主の名簿、採択された決議及び会合への招集通知に添付して送付された関係資料は、会社の本社で保存する。 取締役会 会合終了後
議事録および決議案を監査​​役会に送付する。 取締役会 取締役会構成員への送付と同時

                                                                             

おわりに
 本稿では、株式会社にとって特に重要な年次株主総会の開催手順・手続きについて説明した。会社の方向性および戦略に関する重要事項の決議と実施のため、株主総会開催にあたっては適切な手順・手続きを理解し実施することは、企業の運営において不可欠な事項であるといえる。

参考文献
[1] 企業法第138条第1項
[2] 企業法の第140条第1項
[3]企業法第144条第3項c号
[4] 企業法第166条第1項a号
[5] 企業法第151条第1項
[6] 企業法第139条第3項
[7] 上記の開催手順は、年次株主総会以外の株主総会の場合も共通である。
[8] 企業法第141条第1項
[9] 企業法第143条第1項、第143条第4項
[10] 企業法第143条第4項に基づき、添付資料を会社のウェブサイトにアップロードすることができるが、招集通知にアップロード先とダウンロードの方法を記載する必要がある。
[11] 企業法第143条第1項
[12] 企業法第142条第2項に基づき、提案書には、株主の名前、株主の種類ごとの株式数、および議題に追加したい事項を明記する必要がある。
[13] 企業法第142条第3項に基づき、書面により否決し、否決した理由を明記する必要がある。
[14] 企業法第145第1項に基づき、株主総会の会合は、議決票総数の 50%を超えて代表する株主が出席したときに行うことができる。
[15] 開票結果は、定款に別段の定めがない限り、会議終了直前に議長によって公表される。

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