Reportレポート

解雇による労働規律処分を適用する際の留意点

2024/04/16

  • Ho Thi Y NhiI

はじめに
 解雇による労働規律処分は、労働規律に違反した労働者に対して、雇用主が法令上適用することを認められている処分の中で、最高レベルのものである。解雇処分の適用は、労働関係における雇用主と労働者の権利や義務に大きな影響を与えるため、両者間において法的紛争が発生するリスクが高い。本稿では、企業が解雇処分を適用する際の留意点について解説する。

1.解雇による労働規律処分の適用根拠
 労働者の違反行為を解雇処分の根拠とするために、その違反行為が就業規則に明記されていることが重要な前提条件となる。規定によれば、労働者10人以上の企業は、法的効力を生じさせるために、就業規則を書面で発行し、地方の労働管理機関に対して登録手続きを行う必要がある。2019年労働法では、解雇処分の対象となるのは、病気・妊娠休暇中、逮捕、拘留中等の場合を除いた、以下の4つのケースであると規定されている。

ケース1:労働者が職場で窃盗・横領・賭博・故意の傷害・麻薬使用を行った場合
労働者が職場の範囲でこれらの違反行為をした場合のみ、雇用主は解雇処分を適用することができる。なお、職場とは、雇用主と労働者との合意に従って勤務する、または雇用主と業務を分担するすべての場所を指す。

ケース2:労働者が雇用主の機密情報(営業・技術に関する情報)の漏洩、知的所有権の侵害、雇用主の財産・利益に関して重大な損害を引き起こす行為、特別に重大な損害を引き起こす可能性のある行為、または就業規則に規定されている職場でのセクシュアルハラスメントを行った場合

(i)雇用主の機密情報の漏洩、知的所有権の侵害行為について
雇用主は違反行為を判断・確定するため、資産・営業機密・技術機密の具体的な定義および企業の知的所有権リストを就業規則に規定する必要がある。また、情報セキュリティ規制もこれらの内容と同一で規定することができる。なお、労働関連法令では、これらの行為による物的損害の請求に関する条件は規定されていないため、雇用主は被った物的損害を証明する義務はない。実務上、損害を確定する目的は、雇用主による労働者への損害賠償を確定するためである。

(ii)雇用主の財産・利益に関して重大な損害を引き起こす行為、特別に重大な損害を引き起こす可能性のある行為について
現在、労働関連法令では、これらの損害金額を確定するための一般的な基準が規定されていない。したがって雇用主は、就業規則において解雇処分の根拠となる損害金額を具体的に特定しておく必要がある。これは雇用主が、事業の特性、ビジネスモデルおよび規模等に応じて、「重大」または「特別に重大」のいずれかに該当する損害金額を定義するということである。この場合、以下の3つの条件を満たす必要がある。
・損害金額は、合理的な金額である
・損害金額は、企業の事業の特性・ビジネスモデル・規模等の実際の状況と一致している
・事業所における労働者代表組織(ある場合)の意見を参考にする

また、各地方の労働機関における非公式なガイダンスの見解によれば、損害金額は下記のように定義されている。
・重大な損害:労働者が働く地域で政府が公表した10~15カ月分の最低賃金と同様の価値
・特別に重大な損害:労働者が働くその地域で政府が公表した15カ月分以上の最低賃金と同様の価値

(iii)就業規則に規定されている職場でのセクシュアルハラスメントについて
職場でのセクシュアルハラスメントという定義は、2019年労働法で新しく規定されたものである。それに従い、雇用主は労働規律処分の根拠として、この内容について就業規則の付録を作成しなければならない。雇用主は、セクシュアルハラスメントについての内容およびその処分形式を作成する際、労働関連法令の規則および労働・傷病兵・社会福祉省、ベトナム労働総同盟(VGCL)、ベトナム商工連盟(VCCI)が発行した職場でのセクシュアルハラスメントに対する行動規範を参照することができる。

ケース3:昇給期間の延長または免職といった規律処分を受けた労働者が、同規律処分が解消される前に再犯した場合
2019年労働法第125条第3項によると、再犯とは規律処分がまだ解消されていないうちに再び同じ違反行為をすることである。したがって、雇用主はこの再犯の場合にのみ、解雇処分を適用できる。具体的には、昇給期間の延長の場合は6カ月以内で、免職の場合は3年以内である。

ケース4:労働者が正当な理由なく30日間に合計5日、または365日間に合計20日仕事を放棄する場合
法令上、正当な理由とみなされる場合は、以下の通りである。
・自然災害、火災
・労働者本人の病気、親族の病気(医療機関による診断がある場合に限る)
・就業規則が規定するその他の場合

 したがって雇用主は、上記の日数の仕事を放棄した労働者に対し、解雇の規律処分を適用する権利を有するが、その場合には労働者の違反行為を証明する明確な根拠が必要である。この根拠とは、休暇および休暇申請手続きに関する社内規定、タイムレコーダーによる実労働時間、または企業の勤怠管理システム等である。

2.解雇による労働規律処分の実施原則
違反を確定するための明確な根拠があることに加え、規律処分会議が法律に基づく処理プロセスに従い実施される場合のみ、規律処分の決定は合法とみなされる。雇用主が別途規定する必要があるセクシュアルハラスメントを除き、その他の違反は以下の手順に従って処理されなければならない。

ステップ①:労働者の違反行為を立証する
・違反を即時に発見した場合:違反の記録を作成し、労働者が所属する労働者代表組織(ある場合)に通知する。
・違反後に発見した場合:労働者の違反行為を証明する証拠を収集する。

ステップ②:労働規律処分の会議を開催する(労働規律処分の時効内)
・労働規律処分の会議の日から少なくとも5営業日前に、雇用主は、労働規律処分会議の内容、時間、場所、対象者の氏名、違反行為等を会議に出席する関係者に通知する。
・会議に出席する関係者は、労働者、労働者が所属する労働者代表組織(ある場合)、労働者が15歳未満の場合は労働者の法定代理人である。
・通知した時間と場所で労働規律処分会議を開催し、議事録を作成のうえ、当該会議中に出席者の署名がある状態で議事録を承認する。

ステップ③:労働規律処分の決定書を発行する
労働規律処分の決定書は、以下の規律処分の時効内に、処分権限のある者によって発行される。
・雇用主の財産・利益・営業機密・技術機密に直接関連する違反行為の場合:労働規律処分の時効は違反が発生した日から12カ月
・その他の違反行為の場合:労働規律処分の時効は違反が発生した日から6カ月

ステップ④:労働規律処分の決定書を公表する
労働規律処分の決定書は、会議に出席する関係者に送付する。

おわりに
 譴責(けんせき)、6カ月を超えない昇給期間の延長、免職、解雇という4つの労働規律処分の中で、解雇は最も重い規律処分であり、最終的には雇用関係の終了になるため、多くの潜在的なリスクを伴う。そのため労働法では、労働者の権利を最大限に保護することを目的に、労働規律処分の対象となる違反行為を限定し、厳格な手順を規定している。したがって雇用主は、この解雇形式の規律処分を適用する際には、法令上問題がないかどうか慎重になるべきであり、必要に応じて管轄の労働機関と相談することを推奨する。

参考
・2019年労働法
・政令145/2020/ND-CP号

M000111-180
(2024年4月16日作成)

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