Reportレポート

外国人労働者を労働契約の履行形態で採用する際の注意点について

2024/05/18

  • Ho Thi Y NhiI

はじめに
 外国人労働者の採用は、多くのベトナム企業、特に日系企業をはじめとした外資系企業にとって不可欠なものになっている。親会社から派遣される外国人労働者を活用することに加え、多くの企業は、外国人労働者をベトナムで直接採用している。この場合の外国人労働者は「ベトナムにおいて労働契約の履行形態で勤務する外国人労働者」と呼ばれる。しかし、このような形態で、外国人労働者を雇用することに関する規定や注意事項を十分に理解している雇用者は多くない。本稿では、雇用者がベトナム法令の規定を把握し、順守できるよう、労働契約の履行形態で外国人労働者を雇用する際の注意点について説明する。

1.労働契約の履行形態で勤務する外国人労働者の定義
 ベトナムの法律上、外国人労働者は社内異動(1年以上の実務経験があり、親会社からベトナム子会社に派遣される外国人労働者)、労働契約の履行、経済契約の履行(外資パートナー企業とベトナム企業との間の経済契約の合意に従って勤務する外国人労働者)など、さまざまな形態によってベトナムで勤務することができる1

 特に、ベトナムにおいて労働契約の履行形態で勤務する外国人労働者とは、ベトナムにおける雇用者に採用され、労働契約を締結し、雇用者の管理下で給与を支払われる外国籍の人を指す、と理解されている。

2.ベトナムにおける外国人労働者の使用条件
 外国人労働者を雇用する場合は、社内異動・現地採用を問わず、原則として2019年労働法第152条に定める条件を満たさなければならない。具体的には以下の通りである。

条件①:雇用者が外国人労働者を使用できるのは、雇用者の生産・事業ニーズを満たすベトナム人労働者を確保できない場合に限られる。

 したがって雇用者は、外国人労働者を採用する前に、外国人労働者の採用が見込まれる職位のベトナム人労働者の募集を、雇用局または各地方の雇用サービスセンターの電子情報ポータル上で通知する必要がある2。採用基準に合致するベトナム人労働者がいない場合、雇用者は外国人労働者の採用手続きを進めることができる。

条件②:雇用者は、ベトナムで就労する外国人労働者を採用する前に、管轄機関に対し、労働使用需要について説明し、書面による承認を得なければならない。具体的には、雇用者がベトナム人労働者を使用する代わりに外国人労働者を雇用する必要性を、管轄機関(労働・傷病兵・社会省)に説明する。これは、ベトナムで勤務する外国人労働者の労働許可証の申請手続きにおいても重要なステップとなる。

 要するに、雇用者は、外国人労働者を自由に使用できるわけではなく、真に必要性があり、ベトナムの管轄機関から承認された場合にのみ、使用できることになる。外国人労働者の採用条件に関する規定は、ベトナム国家の「ベトナム人労働者の就労を優先する」という精神を部分的に反映したものである。したがって雇用者は、人材活用計画を作成するために、外国人労働者の採用条件に関する規定を明確に理解する必要がある。

3.外国人労働者を労働契約の形で活用する際のプロセス概要
3.1.労働許可証発行の申請
 労働契約の履行形態で勤務する外国人労働者の労働許可証の申請手続きは、基本的に3つのステップで構成されている。

ステップ1:外国人労働者の採用が見込まれる職位に対するベトナム人労働者の募集に関する通知
ステップ2:外国人労働者使用計画の確定
ステップ3:労働許可証の申請

 経済契約の履行や社内異動などの形態で勤務する外国人労働者の労働許可証の申請手続きと比較すると、労働契約の履行形態で勤務する外国人労働者の労働許可証の申請手続きは、ステップ3における書類の準備が簡単になるため、実施に要する時間は短くなる。

3.2.外国人労働者との労働契約締結義務
3.2.1 労働契約の締結と労働契約書の提出義務
 他の就労形態と異なり、労働契約の履行形態で働く外国人労働者の場合、労働許可証の発行後、雇用者と外国人労働者は、勤務予定日までに書面で労働契約書を締結する必要がある。締結後、雇用者は、労働契約書の原本または公証コピーを労働許可証発行機関に提出しなければならない3

3.2.2 労働契約の内容
 労働契約の内容は、通達10/2020/TT-BLDTBXHの第3条に規定された主な内容を含む。また、雇用者は、外国人労働者の労働契約期間が労働許可証の有効期間(最長2年)を超えてはならないことを、認識する必要がある4。なお、労働契約期間が発行された労働許可証の期間内であれば、雇用者は外国人労働者と複数回、有期労働契約を締結することができる。この点はベトナム人労働者と異なっており、ベトナム人労働者に対する有期労働契約は最大2回までしか締結することができない。また、外国人労働者との労働契約には、外国人労働者の労働許可証に関する情報を記録しなければならず、賃金単位はベトナムドンまたは外貨となる。

3.3.社会保険と健康保険
ベトナムの法律上、外国人労働者は以下の4つの条件を満たせば、社会保険の加入対象となる5

i.1年以上の労働契約を締結していること。
ii.労働許可証を持っていること。
iii.社内異動の形態で働いていないこと。
iv.ベトナムの法律による定年年齢に達していないこと。

また、外国人労働者が雇用者と1カ月以上の労働契約を締結している場合、健康保険の納付義務対象外とされている6

 したがって外国人労働者が労働許可証を取得し、雇用者と労働契約を締結した後、外国人労働者が社会保険・健康保険の加入対象か否かを確認し、ベトナムの社会保険機関に外国人労働者の社会保険・健康保険の申告・加入手続きを行う必要がある。

おわりに
 ベトナムの労務に関する法令には、外国人労働者を労働契約の履行の形態で採用・使用するための具体的な条件やプロセスに関する規則が定められている。したがって、雇用者が外国人労働者を採用するニーズがあり、事業活動における人材活用に迅速に対応するために適切な計画を策定する必要がある場合、当該規定を明確に理解し、順守する必要がある。

1 政令152/2020/ND-CP第2条第1項
2 政令70/2023/ND-CP第1条第2項
3 政令152/2020/ND-CP第11条第3項
4 労働法第151条第2項
5 政令143/2018/ND-CP第2条第1項、第2項
6 健康保険法の一部の条項を改正および補足する法律第1条第6項

M000111-181
(2024年5月18日作成)

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