Reportレポート

2024/06/25

 製品の製造原価とは、製造業において製造工程で発生した費用の合計額を意味する。製品の製造原価は企業にとって非常に重要であり、利益を上げるための適切な販売価格を決定するための基礎となる。同時に、企業の経済効率と生産効率を測定することにも役立つ。本稿では企業における生産費用と製品の製造原価に関する基本的な内容をまとめている。具体的には次の通りである。

1. 製造費用の概要
多くの企業が採用している製造費用の分類方法で、最も一般的な方法は以下の3つである。
(1)目的や用途に応じた分類
直接材料費:製品を作るために使用する素材の費用。
直接労務費:直接的に製造に関与した人に支払われる費用。
経費:材料費や労務費に分類できない経費。工場建物や生産機械の減価償却費、生産活動にかかる電気代・水道代、生産管理スタッフ・工場管理スタッフの賃金等。
(2)生産量に応じた分類
固定費:生産量の増減に関わらず一定額発生する経費。工場賃貸料、生産機械の減価償却費、機械設備の維持費等。
変動費:生産量に比例して増減する経費。企業の生産量が少ない場合、変動費の金額は小さくなり、その逆も同様である。生産材料費、直接労務費。
(3)製品との関連性に応じた分類
直接費(直接コスト):特定の製品の製造に関して発生したことが明らかなコスト。生産材料費等。
間接費(間接コスト):製品を作るために間接的にかかる費用。事業運営をする上で全体的にかかる費用で、複数の製品にまたがって支払われるため、企業はこれらのコストを生産する製品に割り当てる必要がある。工場建物や生産機械の減価償却費、工場管理スタッフの賃金等。

2. 製造会社の製品原価の計算手順
 企業の特性や生産プロセスに適した原価計算方法を決定するには、多くの場合、製造会社は次の基本手順を適用する。
ステップ 1:製造費用の収集対象を特定する。費用が発生する場所 (工場、部門) または費用を負担する対象 (製品、製品グループ、注文) 等。
ステップ 2:製品の製造期間内の製造費用を把握する。
ステップ 3:ステップ 1・2 の関連費用を集計する。
ステップ 4:原価計算方法を決定のうえ、当該方法に基づき、対象期間中に生産された製品の原価を計算する。

3. 一般的な原価計算方法
 ベトナムは日本と異なり、詳細な原価計算方法に関する規定は存在せず、おおまかな計算方法が通達等で述べられているのみである。現状、ベトナムの製造会社ではさまざまな原価計算方法が採用されており、企業の生産プロセスや製品の特性に基づいた計算方法が選ばれている 。企業は、生産活動を開始する前に原価計算方法を確認・決定する必要がある 。なお実務上ベトナム法人では、グループで採用している原価計算方式を適用する場合が多い。
以下に例として、多くの製造会社で採用されている一般的な原価計算方法の概要を 3 つ説明する。
(1)単純総合原価計算
この方法は、以下の特性を持つ企業に適しており、電力会社、水道会社、鉱石・石炭・木材の採掘会社でよく適用される。
・生産技術が単純である
・品目の種類が少ない
・生産数量が多い
・製品の種類ごとに生産コストを分離できる
・生産サイクルタイムが短い
計算式:当期製品製造原価 = 当期総製造費用 + 期首仕掛品原価 - 期末仕掛品原価
製品 1 個あたりの原価 = 当期製品製造原価 / 当期に完成した製品の数量
(2)標準原価に基づく実際原価計算の配賦計算
 この方法は、同一の製造工程で同一の主原料を使用し、最終的にはサイズや品質の異なる同種の製品群が得られる企業に適しており、縫製会社、靴メーカー等でよく適用される。
計算式:当期に完成したすべての製品の実際原価の合計 = 当期総製造費用 + 期首仕掛品の費用 - 期末仕掛品の費用
完成品1個当たりの原価率(%)=(当期に完成したすべての製品の実際原価の合計 /合計配分基準)×100
合計配分基準 = 一個当たりの標準原価または予定原価 * 実際に製造された製品の数
製品群ごとの実際原価=製品群ごとの標準原価の合計または計画原価の合計×完成品1個当たりの原価率
(3)工程別原価計算
 工程別原価計算は、複数の加工・生産工程を経て製品の製造を行う会社に適しており、繊維会社、アパレル会社、家具製造会社等の企業で適用される。
 例として、第 1 工程でカッティング、第 2 工程でソーイング(裁縫)、第 3 工程でコーティングを行う繊維会社を想定する。この場合、まず第 1 工程の結果出来上がった半製品の製造原価を、会社で決定した原価計算方法(例えば前述の計算方法)に基づき計算する。次にその半製品が第 2 工程で材料として投入されることになるが、この際第 1 工程で計算した当該半製品の製造原価は、第 2 工程から初めて投入された材料等と併せて、第 2 工程における製造費用を構成することになる。その後は第 1 工程での計算と同様に各工程における半製品の製造原価を計算していき、最終完成品の製造原価を計算することになる。
 なお簡便的に、各工程の半製品の製造原価を計算せずに、各工程の製造費用のみを単純に合計して完成品原価を計算する方法も認められている。これは会社ごとの方針により、詳細な原価計算を行いたいのであれば前者の方法を採用することを推奨する。

まとめ
 上記が製造会社における生産費用と製造原価計算の概要である。実務上、企業に適した原価計算表を作成するためには、企業は製品の生産を開始する前に製品の原価計算方法を検討し、選択する必要がある。

以上

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