Reportレポート

ベトナム駐在員の一部手当に対する税務メリットと留意点

2024/08/19

  • 米国公認会計士
  • 渡 柚輝

大手企業がベトナムに駐在員を派遣する場合、日本と比較しベトナムの個人所得税率は高く、かつ課税所得対象も広いことから、手取り給与額(ネット給与)を保証し増加した所得税額を会社が負担するケースが少なくない。また、ネット給与保証に加え、家賃や学費など多様な手当を付与しているケースもよく見られる。しかし多くの手当は所得税の課税対象となり、企業の負担する駐在員の所得税の増加に繋がるため、可能な限り非課税とすることが理想である。
ベトナムでは一部の手当は所得税が非課税、もしくは一定の上限が定められているが、実際にはそのような税務メリットを享受できていない、または税務調査で指摘されてしまうことがよくある。本社からの任命書や現地法人との労働契約書に適切な記載がされてない、または支給方法が適切でないことが主な原因である。
本稿では、金額が大きく重要性の高い手当について、実際の税務調査事例をもとに、適切な対応について解説する。

 

1. 税務調査でよく指摘される事例と対応策
まずは税務調査で日系企業が頻繁に指摘されている事例を挙げ、どのような手当が焦点となっているかを確認する。

1.1 子女の学費および住宅手当を正しく申告していないケース
子女の学費および住宅手当は直接会社からサービス提供者(学校や物件オーナー)に支払われている場合に税務メリットを享受することができる。一方で、一部の日系企業は手当を現金で支給してしまっている。
また住宅手当は全額非課税とできず、「実際に会社が負担した住宅手当」と「住宅手当を除く総所得の15%」のいずれか少ない金額を課税所得に含めることは認められているが、全額非課税として税務申告をしているケースも見受けられる。
子女の学費や住宅手当は金額が大きく、税務調査で指摘されると追徴課税も高額になってしまうため、特に留意が必要である。

1.2 適切な証憑を取得してないケース
各種手当の税務メリットを享受するためにはVATインボイスが必要となるケースが多い。しかし、VATインボイスの取得を怠っている、また取得していても、宛先が会社名ではなく駐在員の個人名となっている等、内容に不備があるケースが散見される。
税務調査時のVATインボイス不備による追徴課税リスクを回避するため、社内におけるインボイス取り扱いルールの運用を徹底する必要がある。

1.3 課税所得となる手当を非課税として申告しているケース
課税所得となる手当を非課税として申告し、税務調査で指摘されるケースも多い。特に留意すべき手当は以下の通りである。

・ 風邪などの軽度な病気に対する医療費(重度な場合は非課税となる場合もある)
・ 年2回目以降または帰任時の航空券代(赴任時または年1回は非課税)
・ 記名式のゴルフ会員権の減価償却費や年会費
・ ゴルフのプレー代
・ VATインボイスの宛先が個人名のその他スポーツ関連費用
・ 駐在員のみを対象とした健康診断費用や個人所得税申告代行サービス料
・ 学費以外の学校への支払い(入学金やバス代等)

 

2. 税務メリットを享受できる主な手当
税務メリットを享受できる各種手当とその条件は以下の通りである。

全額非課税となる手当
手当 条件1 条件2 条件3 条件4 留意事項
駐在員の子女の学費 下記のいずれかに明記
・任命書
・労働契約書等
会社がサービス提供者に直接支払い 会社名を宛名としたVATインボイス 学費以外の各種学校費用(入学金、給食費、バス代等)は課税対象
車両手当 会社が保有、またはリース契約する車両である 通勤に伴う車両代・運転手人件費等を現金支給する場合、および家族の使用分の費用は課税対象
・医療費(社員及びその家族の生命を脅かす病気に係る治療費のみ)
・語学訓練費用
・労働許可書およびその関連費用
語学訓練費用は、税務調査で課税されてしまうケースもある
個人所得税申告サービスの手数料 社員全員が対象 駐在員のみが対象であれば課税
健康診断費用 社員全員が対象またはWP取得を目的とした場合 駐在員のみを対象とした場合、課税対象
医療保険料 費用を現金支給した場合、および駐在員の家族の保険料は課税対象
ゴルフ会員権および年会費 会社名または不特定多数の従業員を宛名としたVATインボイス 無記名の会員権である(記名式は課税) ゴルフのプレーフィーはどのような場合も課税対象
娯楽費
・テニス
・スポーツクラブ
・エステティック
赴任時の引越費用(荷物運搬費用や駐在員の家族の交通費等を含む) 一括で支払っていれば全額。複数回に分かれていれば初回分。 帰任時の引越費用は課税対象(ベトナムへ納税義務がある年の翌年に支給すれば課税対象外)

 

一定の上限を超えた金額は非課税となる手当
手当 前提条件 課税対象額 留意事項
住宅手当(光熱費含む) 下記のいずれかに明記
・任命書
・労働契約書等
かつ
会社が物件オーナーに直接支払い
かつ
会社名を宛名としたVATインボイス
以下のいずれかの低い金額
・会社が負担する住宅費(家賃、水道光熱費、その他関連サービス費用を含む)
・住宅手当を除く総所得の15%

 

一定の上限まで非課税となる手当
手当 条件 非課税上限額 留意事項
一時帰国費用 下記のいずれかに明記されている
・任命書
・労働契約書等
かつ
会社名を宛名としたVATインボイス
年1回の往復航空券 2回目以降の帰国費用は課税対象
出張手当 社内規定等で定められている 社内規定等で定められた金額
昼食手当 下記のいずれかに明記されている
・任命書
・労働契約書
・社内規定等
社員食堂等で昼食を提供する 支出された費用全額
本人に直接支給 730,000VND/月

 

3. 税務調査で指摘された場合の罰則
税務調査で個人所得税の申告漏れが発覚した場合、以下の罰則が発生する。

申告漏れの(重)加算税 滞納税額の20%(重加算税の場合、最大で滞納税額 x 3)
延滞税 0.03% x 遅滞日数 x 滞納税額
行政処分 最大2億VND(120万円相当)

悪質と判断された場合、重加算税を課されてしまう。一例として、駐在員の日本給与の未申告があげられるため留意が必要である。また、上記の罰則は損金不算入である。

 

駐在員の手当ての多くは所得税が非課税、または一部のみ課税となっているが、上述の通り、駐在員を派遣する際の任命書や労働契約書の記載内容および支給方法によって、その税務メリットを正しく享受できていないことが少なくない。ベトナム税務当局が厳格に調査してきているポイントでもあることから、後に多額の追徴課税が生じてしまうことも起きている。法令や調査実務が頻繁に変わる分野でもあるため、適切な専門家等に確認しながら十分な対策を取ることを推奨したい。

本レポートに関する
お問い合わせはこちら