ベトナムの付加価値税(VAT)の概要と法改正の主要ポイント
2025/02/25
- I-GLOCAL CO., LTD.
- 米国公認会計士
- 渡 柚輝
ベトナムにおいて企業は月次または四半期ごとに、税務当局への付加価値税(以下、「VAT」)の申告・納付が必要である。VATの基本的な概念は日本の消費税と同様だが、留意すべき点がいくつかある。例えば、仕入税額控除の適用に際し、証憑として適格なVATインボイスがなければ税務当局より指摘される可能性が高い。また、VAT還付のためにはVAT申告とは別にVAT還付申請を提出する必要がある。
本稿ではVATの概要と2024年11月26日に可決された改正法の主要ポイントを解説する。なお、VAT還付については複雑かつ重要な論点のため、次のレポートで個別に解説したい。
1. 付加価値税(VAT)の概要
ベトナムのVATの概要は以下の通りである。
付加価値税の対象 | ベトナム国内で提供される商品・サービス |
VATの納付者 | ベトナム国内でVAT課税対象となる商品・サービスを製造・販売・輸入する組織・個人 ※輸出加工企業(EPE)は除く |
申告時期 | 設立後12ヵ月未満 or 前年度売上額が500億VND(約3億円)未満の場合: 四半期ごと(各四半期の翌月末までに納付) |
前年度売上額が500億VND(約3億円)以上の場合: 月次(各月の翌月20日まで) |
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税率 | 標準税率は10% ※特例措置で2025年6月までは8%に減税中(一部サービス・商品を除く) 税率5%:生活必需品や特定の製品・サービス |
納付するVATの計算方法は以下の2つの方法があるが、一般的には控除方式が採用される。
・控除方式:受領したVATから仕入VATを控除する方法
・直接方式:課税対象となる課税対象価額に法令によって定められた税率を乗じて計算する方法
控除方式で仕入VATを控除するためには法令上、以下の条件を満たす必要がある。
・適格なVATインボイス、輸入品に係るVATの支払い領収書、または外国組織や組織・個人・外国人に代わって支払われたVATの領収書のいずれかが保存されていること
・(取引額が2,000万VND(約12万円)以上の場合)非現金決済で取引が実施されていること
また、実務的には以下の条件を満たしていない場合、当局より指摘される可能性がある。
・課税対象となる業務活動に関連していること
・契約書、通関書類、引渡書などの取引実態を示す証憑があること(特に輸入品の場合)
VATインボイスを適切に取得できていないことやVATインボイスに記載の社名が誤っていることなどにより、上記条件を満たさない場合、当局から指摘され、仕入VATとして認められないケースが発生している。取引時には必ずVATインボイスを取得し、VATインボイスに記載されている情報の適切性について確認することが重要である。
2. 日本の消費税との主な違い
ベトナムの付加価値税と日本の消費税について、税の性質はほとんど同じだが、実務手続きにおいていくつか差異が見られるため、主な事項を以下の表にまとめる。
項目 | 日本 | ベトナム |
決済の手段 | 現金or非現金問わず | (取引額が2,000万VND(約12万円)以上の場合)非現金決済 |
税務申告時期 | 年に1度確定申告 | 毎月または四半期ごとに申告 |
納付方法 | 前年度を踏まえた予定納税あり | 発生した税額を申告対象期間の 翌月納付 |
還付 | 超過分があれば確定申告時に還付 | 別途還付申請を行う必要あり |
還付に必要な期間の目安 | 2ヵ月 | 還付申請提出先の各省、申請額、担当官により違いあり (ハノイ:2 – 10か月ほど; ホーチミン:2 – 3年ほど) |
日本では確定申告と合わせて超過額の還付が受けられるため、還付を前提とした予算組みをすることが多い。一方で、ベトナムで還付を受けるためには、VAT申告とは別に申請をする必要があり、各種資料の提出と合わせ、当局への質問対応が必要となる。また、現状ハノイでは2 – 10か月ほどで還付手続きが完了するところ、ホーチミンでは還付手続きが完了し、口座に振り込まれるまで2 – 3年ほどかかることが少なくない。そのため、ベトナム法人の予算組みを行う際はスムーズなVAT還付を前提とされないことを推奨する。
3. 法改正の主要ポイント
2024年11月に改正付加価値税(VAT)法(第48/2024/QH15号)が可決され、2025年7月1日より施行される。本改正により日系企業が留意すべき主な事項は以下の通りである。
・輸出加工企業(EPE)へ向けた0%税率が適用できる「輸出サービス」の厳格化
既存の法令用件に新たに「輸出生産活動に直接使用される(商品・サービス)」という文言が追記された。これまで、EPEの性質から会計、監査、オフィス賃貸などのサービスも輸出性があると解釈され、EPEがベトナム国内企業から受けるサービスの多くがVAT0%と見なされていた。
今回の改正により、EPEを対象にしたサービスなどについても輸出生産に直接関与しない場合は0%税率の対象外となる。ただし、現状どのようなサービスなどは対象外となるか、厳密には定義されておらず、今後の動向に注視する必要がある。
・輸入した商品をそのまま輸出する場合、還付対象外(EPEへの販売を除く)
ベトナムの法令上、三国間貿易の仲介人となることの難しさから、輸入した商品をそのまま輸出するという実質的な仲介ビジネスを実施している法人が見受けられる。これまでは当該取引に関する仕入VATについても還付が認められていたが、今後は還付対象外となることが明確になった。
・投資期間に対するVAT還付の申請期限の設定
製造業などを営む企業が購入する設備などのVATに関する還付に申請期限(売上計上開始の1年後(試作品販売や財務収益は除く))が設定された。
これまでは投資プロジェクトが完了するまで還付申請が可能と解釈されることが多く、実務上も累積額が3億VNDを超えた場合、随時還付申請をするケースが見られた。しかし、今後は適時還付申請を行う必要があり、提出が遅れると還付が受けられないこととなる。特に2024年6月以前に売上計上し、投資期間のVAT還付申請を未実施の法人は2025年6月までに申請しない場合、還付が受けられない点、留意する必要がある。
・拡張投資に対する還付の認可
新規プロジェクトの設備投資に関する還付申請はこれまでも認められていたが、拡張投資の還付については拡張投資の内容次第で否認されることもあった。今回の改正で既存プロジェクトの生産能力向上や設備のアップグレードのような拡張投資も還付対象となることが明確化された。
・仕入VAT控除要件の厳格化
これまで仕入VAT控除のために2,000万VND以上の取引について非現金決済が必須とされてきたが、今回の改正で購入金額に関わらず、非現金決済が求められるようになった。
また、輸出における仕入VAT控除・還付を受けるためには、以下の書類の提出が必須となる。(商品の性質などにより一部差異あり)
・ 輸送書類(船荷証券、運送契約書など)
・ 商品受領証明書(受領書や買い手のサイン入りの受領確認書など)
・ 商品検査証明書(品質証明書や検査期間発行の合格証明書など)
・ 電子証跡(電子インボイスやシステム上の取引記録など)
VATは原則すべての取引に発生するため、企業に対するインパクトは大きくなる。そのため、VATに関する法令変更は企業活動に重大な影響を及ぼす。
今回の法改正で、VAT還付手続きに必要な書類がある程度明確化されたが、今後も引き続き担当官次第で追加書類を求められることが想定される。また、法改正直後は当局が手探り状態で対応を進めるため、還付完了までの期間が延びることが見込まれる。VAT還付は、特にベトナム南部において非常に手続きが複雑化・長期化しており重要な論点となっている。次のレポートでは今回の法改正による影響も踏まえて、VAT還付の現状と今後の見通しについて解説する。
なお、法改正に合わせた実務プロセスの見直しやVAT還付の実施については、その複雑性から適切な会計・税務の専門家に相談されることを推奨する。
【問い合わせ先】 I-GLOCAL CO., LTD.
担当:渡 柚輝 yuzuki.watari@i-glocal.com
ホーチミンオフィス +84-28-3827-8096 ハノイオフィス +84-24-2220-0334