外国資本の有限責任会社における増資の形態
2025/01/26
- Nguyen Hong Thuan
はじめに
外国資本の有限責任会社(以下「外国企業」)における定款資本の増加(以下「増資」)は、事業の拡大や新たな設備投資のために必要となるプロセスである。増資は、会社の所有者が追加で出資する形態で進められ、特定の事業計画や戦略に基づいて実施される。本稿では、2020年企業法に基づく外国企業の増資形態と関連手続きについて説明する。
1. 有限会社における定款資本増加の形態
1.1一名有限責任会社の場合:
2020年企業法第87条では、一名有限責任会社の増資に関して以下の2つの形態が規定されている。
・形態1:会社所有者の追加出資
会社の所有者が資本金を追加出資し、引き続き100%の所有権を保持する。この場合、会社の法人形態(一名有限責任会社)は変更されない。
・形態2:他者からの出資を受け入れる
他者が出資を行う場合、既存の所有者は100%の資本割合を維持できなくなるので、会社の法人形態を「二名以上有限責任会社」または「株式会社」に変更する必要がある。
形態 | 特徴 |
所有者の追加出資 | 所有権100%維持、一名有限責任会社の法人形態を維持。 |
他者の出資 | 所有権割合が変動、法人形態を二名以上有限責任会社または株式会社に変更。 |
1.2 二名以上有限責任会社
2020年企業法第68条に基づき、二名以上有限責任会社における増資には以下の2つの形態がある。
・形態1:既存社員の追加出資
既存社員が現行の出資割合に応じて追加出資を行う。この場合、社員間の資本所有割合に変動はない。ただし、2020年企業法第52条に基づいて社員は出資権を他の社員に譲渡することができる。また、特定の条件下では、社員間の合意や出資不履行により、割合が変化する場合もある。
・形態1:新規社員の出資受け入れ
新規社員からの出資を受け入れることで資本金を増加させる。この形態では、社員間の資本所有割合が変動し、既存社員の支配権が希薄化するリスクがある。さらに、社員数が50名を超える場合、法人形態を株式会社に変更する必要がある。
形態 | 特徴 |
既存社員の追加出資 | 出資割合の維持が基本。ただし、特定条件下で割合変動の可能性あり。 |
新規社員の出資受け入れ | 増資と同時に支配権希薄化の可能性あり。社員数50名を超えると株式会社への変更が必要。 |
2.増資の主な手続き
2.1 出資登録手続き(M&A承認手続き)
以下の条件に該当する場合、外国投資家は投資管理機関へ出資登録が必要である。
・市場参入に制限がある事業を行う外国企業に出資し、外国投資家の保有割合を増加させる場合(※2021年政令第31/2021/ND-CP号付録IのB項参照)
・外国投資家の保有割合が50%以下から50%超に増加、または既に 50%超の場合にさらなる増加がある場合。
・外国投資家が特定地域(島嶼部、国境地帯など)の土地使用権を持つ外国企業に出資する場合。
2.2 企業登録情報変更の手続き
増資により企業登録情報(社員情報、資本比率など)に変更が生じた場合、10日以内に計画投資局へ通知が必要である。
2.3 定款の修正
定款に記載される定款資本の情報を修正する必要がある。修正の内容は通常、定款の付録により表示され、政府機関への通知は不要である。
2.4 投資登録証明書の修正
投資登録証明書を付与された投資プロジェクトを有する外国企業の場合、資本金を増加後に関連する投資登録証明書を修正する必要がある。
3.増資に関する注意事項
・決定権限
一名有限責任会社では、所有者が単独で増資の決定を下せるのに対し、二名以上有限責任会社では、社員総会の決議が必要となる。その決議は、会社定款に定めが有る場合を除き、会議に出席した社員の75%以上の賛成を得る必要がある。
・出資資産の種類
ベトナムドン、交換可能な外国通貨、土地使用権、知的財産権などのベトナムドンで評価可能な資産で行うことができる。ただし、それらの所有権が確認される必要がある点に留意いただきたい。
おわりに
増資は、会社の事業拡大や投資計画において不可欠なプロセスであり、今後も多くの企業が実施する可能性がある手続きの一つである。増資に関する法規制を遵守したうえで、最適な増資方法を選択し、経営戦略の推進につなげていただきたい。
参考文献:
・2020年投資法
・2020年企業法
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