Reportレポート

内地引渡輸出入(On the spot輸出入)に関する規定と最新の当局動向を踏まえた留意点

2025/02/23

  • Nguyen Thai Quoc Nam

はじめに
政令第 08/2015/NĐ-CP号(以下政令第08)により、内地引渡輸出入(以下、「On the spot 輸出入」)という形態が認められた。On the spot 輸出入は、時間と輸送コストの節約だけではなく、税務上の優遇措置というメリットも享受できる。一方でベトナム法人がOn the spot 輸出入に関する税務上のリスクを回避するために留意すべき事項がいくつかある。本レポートはOn the spot 輸出入に関する現行規定と当局動向を踏まえた留意点をまとめる。

1. On the spot 輸出入

1.1 On the spot 輸出入の定義
On the spot 輸出入は、輸出入の取引形態の一つである。売買契約書上はベトナム法人が生産・製造した製品を外国貿易業者に輸出し、外国貿易業者が支払いを行う。しかし実際の取引は外国貿易業者の指示で当該商品をベトナム国内の第三者取引先に引き渡す形態である。

1.2 On the spot 輸出入に関わる当事者
On the spot輸出者(ベトナム国内での輸出企業): 外国貿易業者の指示で第三者取引先に商品を引き渡す会社
On the spot輸入者(ベトナム国内での輸入企業):  外国貿易業者から商品を購入するが外国貿易業者の指示によりベトナム法人から商品を受け取る会社。

1.3 On the spot輸出入の商品
政令第08/2015/NĐ-CP号の第35条では、以下をすべて満たす場合、On the spot輸出入の商品とみなされることが規定されている。
(a) 加工品、レンタルまたは貸与された機械、設備、余剰の原材料、加工契約書に基づくスクラップや廃棄物等。
(b) 国内企業、輸出加工企業、非関税区内の企業との間で取引される商品等。
(c) ベトナム法人とベトナムに拠点を持たない外国貿易業者との間で取引される商品で、ベトナム法人が外国貿易業者の指示により第三者取引先に商品を引き渡されるもの。

(*)外商管理法上、ベトナムに拠点を持たない外国貿易業者とは、ベトナムで投資・事業の活動を行っていない、またはベトナム国内に駐在事務所や支店を持っていない法人を指す。
(*)On the spot 輸出入に該当する商品を輸出商品と同様に処理するためには、輸出税関申告書と輸入税関申告が提出され、通関手続きが完了している必要がある。

2.On the spot 輸出入の税務

2.1 輸出税と輸入税
2016年の輸出入税法に基づき、On the spot 輸出入は通常の輸出入商品と同様に、輸出入税の対象となる。そのため、2016年の輸出入税法および特別優遇税率に関する政令第126/2022/NĐ-CP号の条件を満たす場合、特別優遇税率の適用が可能となる。

2.2 付加価値税(VAT)

a) VAT 0%
法令上、VAT 0%の適用対象としてOn the spot 輸出入を含む輸出商品が規定されている。税務総局は2024年12月17日付のオフィシャルレター第6007/TCT-CS号を発行し、VATに関する方針について以下の通り案内した。
・ベトナム法人が外国貿易業者の指示に基づき、ベトナム国内の輸出加工企業(EPE)に商品を引き渡す場合は、適切な契約書や銀行決済証憑を有することで、VAT 0%の適用が認められる。
・税務総局により外国貿易業者がベトナムに拠点を持つと判断された場合、いわゆるOn the spot 輸出入に該当するスキームはVAT 0%の適用対象外となる。

b) On the spot 輸出入の商品に対する仕入VATの控除・還付条件
ベトナム法人がOn the spot 輸出入取引に関するVATの控除・還付を受けるためには、以下の条件を満たす必要がある。
・売買契約または委託加工契約に、ベトナム国内で商品の引き渡す旨が記載されている。
・On the spot 輸出入の税関申告書について通関手続きが完了している。
・インボイスの宛名にベトナム国内の輸入者情報および納品先が記載されている。
・銀行決済証憑
・ベトナム法人が外資企業の場合、投資証明書(IRC)の登録内容に従って適切にOn the spot 輸出入が実施されている。
・外国貿易業者はベトナムに拠点を持たない。
なお、2024年2月20日付の税務総局のオフィシャルレター第558/TCT-CS号では、On the spot 輸出入に関する申告書が政令08/2015/NĐ-CP の規定に従って提出されていない場合、VATの還付が認められないことが案内されている。

2.3 外国契約者税(FCT)
ベトナム国内の購入者(On the spot 輸入者)は、外国貿易業者への支払い時に、法人税1%のFCTを申告する必要がある。
例:ベトナム法人のA社、外国貿易業者のB社、ベトナム国内のC社がOn the spot 輸出入を実施する場合、C社はB社に代わりFCT(CIT1%)を納付する義務がある。

3. On the spot 輸出入に対するインボイス
On the spot 輸出入の取引において適用されるインボイスはVATインボイスである。2011年5月6日付の税務総局発行通達第 3856/CT-TTHT号では、以下の通り案内された。
On the spot 輸出入における請求書には、販売者の欄に名称、住所、税コード、購入者の欄に外国貿易業者の名前、「売買契約書の契約番号…日付…月…年…ベトナム国内の納品先情報」が記載されている必要がある。

4. その他の留意点
2023年5月29日付で税関総局(以下TCHQ)通達第2587/TCHQ-GSQLおよび通達第 2588/TCHQ-GSQLが発行され、On the spot 輸出入に関する規定が改正された。TCHQはOn the spot 輸出入に関する規定の廃止および当該取引を国内取引と見なした代替手続きの制定を提案している。今後、現在のOn the spot 輸出入を実施する場合、外国貿易企業はベトナム国内企業と代理店契約を締結し、当該契約に基づいた税務対応を実施する必要がある。
本提案は現在、正式に承認されているわけではないが、関係当局の動向を注視しつつ自社のビジネススキームに対する影響を慎重に検討すべきである。

おわりに
On the spot 輸出入はメリットが大きい取引形態だが、昨今の当局動向から、今後、本スキームが実施できない可能性がある。ビジネススキームを変更するにあたり、会計・税務上の影響も適切に評価する必要があるため、適宜専門家に相談しながら進めることを推奨する。

参考文献
・2023年12月31日付の財務省発行通達219/2013/TT-BTC(付加価値税実施のガイダンス)
・2015年3月25日付の財務省発行通達38/2015/TT-BTC(輸出入税及び税関手続きのガイダンス)
・2016年4月6日付の国会発行輸出入法第107/2016/QH13
・2022年12月30日付の政府発行政令第126/2022/NĐ-CP(特別優遇輸入税率表のガイダンス)

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