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労働安全衛生トレーニングの実施に関する留意点

2024/02/25

  • Ho Thi Y NhiI

はじめに
 ベトナムにおいて、労働安全衛生トレーニングの実施は、安全な労働環境の創出、生産および事業活動の効率性を確保する上で必要不可欠であり、雇用者の重要な義務の1つでもある。製造業の企業だけでなく、すべての業界・業種における企業の雇用者は、労働安全衛生トレーニングを実施する義務を負う。しかし関連規定を熟知し、順守している企業はあまり多くないのが実情である。そこで本稿では、労働安全衛生トレーニングに関する規定、および労働安全衛生に関する規定等の関連規定に関して、企業が注目すべき注意点を説明する。

1.労働安全衛生トレーニングの企画・実施
 外国法人の駐在員事務所などを含むすべての企業の雇用者1は、労働安全衛生トレーニングを企画・実施する義務がある2。労働安全衛生トレーニングは、外部の組織に外注するか、雇用者自らトレーニングを企画・実施するケースが考えられる3。前者と後者いずれの場合でも、トレーナーは以下に記載する各グループに対応するトレーニングの実施条件を満たす必要がある4。なお、トレーニング実施条件を満たしている企業は多くないため、外部のトレーニングサービスを利用しているケースがほとんどである。

2.参加対象者、トレーニング内容、トレーニング時間、定期的なトレーニング
 業務内容の特性や労働安全衛生要件等に基づき、トレーニングの参加対象者は以下の6つのグループに分けられる。また、通常トレーニングの内容は以下の5つのパートに分かれ、各グループにおいてそれぞれ異なる内容や時間でトレーニングを実施することになる。

パート1:労働安全衛生に関する方針および法令
パート2:労働安全衛生に関する業務
パート3:設備安全技術に関する専門的なトレーニング
パート4:労働安全衛生の基礎知識
パート5:職場における労働安全衛生に関する作業手順と具体的な要件についての対面トレーニング

各グループのトレーニング内容と時間は、以下の表のとおりである5
【各グループのトレーニング内容・時間】

M000111-178-1.png
出所:資料を基に執筆者作成

なお、業務内容・使用機器・技術等に変更があった場合や、休職から復帰した後、労働者は規定に従って、再びトレーニングを受ける必要がある8

3.労働安全衛生トレーニングに関するその他の注意点
(a)労働安全衛生トレーニングの報告義務
 雇用者は毎年、通達07/2016/TT-BLDTBXHの付録IIに規定されているフォームを用いて労働安全衛生トレーニングに関する報告書を作成しなければならない。そして翌年の1月10日までに、各地の労働局、労働・傷病兵・社会問題局、保健局に直接またはファックス、郵便、電子メールで提出する必要がある。

(b)労働安全衛生トレーニングの実施と支援費用
 労働安全衛生トレーニングを実施するための費用は雇用者が負担し、法人所得税法に規定されている条件を満たしている場合は、法人所得税の計算上損金算入することができる。また、上記グループ1、2、3、5、6のトレーニングの場合、雇用者は、法令に定められた条件9を満たしていれば、トレーニングを受ける対象者ごとに法令で定められた金額を超えない範囲で10、実際に発生した費用の70%の金額を、支援金として社会保険機関から受け取ることができる。

(c)労働安全衛生トレーニングに参加した労働者の給与
 労働者には、労働安全衛生トレーニングに参加した時間についても給与が支払われる11

(d)労働安全衛生トレーニング活動における行政違反の取り扱いに関する規定
 雇用者が、労働安全衛生トレーニングに関する規定を適切に順守しなかった場合、行政違反とされるリスクがある。一般的な違反内容は次のとおりである。
【違反内容・罰金】

M000111-178-2.png
出所:資料を基に執筆者作成

おわりに
 労働安全衛生トレーニングの実施・参加は、雇用者と労働者双方の義務であるが、多くの企業において、適切に実施されていないのが実情である。しかし、労働安全衛生トレーニングの重要性や行政処分のリスクに鑑み、雇用者は労働安全衛生トレーニングを適切に実施するべきである。

1 2019年労働法第3条第2項に定める雇用者の定義を参照
2 2015年労働安全衛生法第7条第2項b号
3 2015年労働安全衛生法第14条第1項、第2項、第4項
4 2015年労働安全衛生法第14条第7項、政令140/2018/ND-CP第1条により改正された政令44/2016/ND-CP第26条第1項
5 政令44/2016/ND-CP第17条、第18条、第19条、第21条、政令140/2018/ND-CP第1条第5項、第6項、第2条
6 ホーチミン市労働・傷病兵・社会問題局との非公式な確認に基づく
7 労働安全衛生法第74条
8 政令44/2016/ND-CP第21条第3項
9 政令88/2020/ND-CP第32条
10 政令88/2020/ND-CP第34条
11 政令145/2020/ND-CP第58条第6項
12 政令12/2022/ND-CP第6条、第25条第1項
13 政令12/2022/ND-CP第6条、第20条第2項

M000111-178
(2024年2月25日作成)

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