Reportレポート

新企業法において有限責任会社が留意すべき点

2020/12/29

  • 米国公認会計士
  • 逆井 将也

はじめに
 2020年6月17日に新企業法が発行されて、2021年1月1日から有効となる。改定された内容も多いため、有限責任会社の設立や運営にあたり注意すべき点についてまとめる。

1.行政手続きの簡略化
1.1.会社登記手続きの電子化
 従来の2014年企業法(以下「旧企業法」)において、新規に会社を設立する手順としては①国家企業情報ポータル(https://dangkyquamang.dkkd.gov.vn/)にてオンライン申請→②当局の承認→③申請書類原本を当局に提出→④当局から企業登録証明書(ERC)を取得という流れであった。新企業法においてはステップ③の申請書類原本の当局への提出が不要になり、企業設立申請書類のスキャンファイルを電子媒体で提出し、ハードコビーを社内で保管する形に変更となり、手続きが簡略化された。

1.2.社印の任意化
 旧企業法では、会社設立時にERCを取得したのちに社印を作成し、国家企業情報ポータルに通知をする必要があったが、新企業法により、社印の登録は必須ではなくなった。背景としては旧企業法のもとでは社印を重視していたがためにしばしば署名者の署名権限などその他の重要な事項の確認がおろそかになり、なりすましなどの詐欺が発生したという点がある。新企業法のもとでは、契約相手や署名者の署名権限の確認がより一層重要になると考えられる。また、新企業法においてはデジタル署名が使用できることが明記された。

1.3.その他の改定点
 旧企業法ではERC発行日から90日以内に資本金の振込を行う必要があった。新企業法においてもこの規定は変わらないが、現物出資の場合は、90日の期間に輸入、運送及び行政手続きの時間は含まないとされた。
 また、新企業法においては今まで必要とされていた法的代表者以外の管理者(委任代表者、取締役等)を変更した時の、国家企業情報ポータルにおける通知が不要になる。

2.社内の組織構成に関する変更点
2.1 監査役、監査委員会の任意化
 旧企業法では一名社員有限責任会社の場合は監査役の任命が必須であり、また二名社員以上有限責任会社で社員が11名以上の場合は監査委員会の設置が必須であったが、新企業法では国営企業を除き監査役や監査委員会の設置は任意になった。現状においても、実務上必要ないなどの理由から監査役・監査委員会を設置しない企業も多く、新企業法において実情に応じた改定がなされたと考えられる。

2.2 法的代表者について
 新企業法では社員総会の会長、会社の会長、社長及び総社長のいずれかが会社の法的代表者になると規定された。また、法的代表者が2名以上の場合は会社の定款にてそれぞれの代表者の権限及び義務を明記するか、そうしない場合は法的代表者全員が第3者に対して会社の代表として取引できる。後者の場合、いずれかの代表者が会社の代表として行った行為の結果は、法的代表者全員が責任を負うこととなる。当該規定により、代表者の権限やそれに対する会社の責任が明確化される。

2.3.社員総会議事録の署名
 二名社員有限責任会社では少なくとも年に1回社員総会を開催し、議長及び作成者の確認・署名のある議事録を作成することが旧企業法で定められた。新企業法では議長と議事録作成者が署名を拒否した場合は社員総会に出席した他の全ての社員が議事録に署名することができる。この規定の背景は、現状では議長又は議事録作成者が会議で決定した内容に同意せず議事録に署名を拒否した場合、議事録の有効性が担保されない、という問題点に対応するものと考えられる。

おわりに
 以上で説明したように、今回の企業法改正により行政手続きの簡素化が図られ、また実務上問題の生じていた規定の修正が行われた。現在、ベトナム政府は海外からの投資を積極的に呼び込む姿勢を見せており、今回の企業法改正では事業を行いやすい環境を整備するという意図がうかがえる。

参考文献
2014年11月26日付企業法68/2014/QH13号
2020年6月17日付企業法59/2020/QH14号

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