ベトナム国内企業が国外から融資を受ける場合の規制について
2020/12/25
- 米国公認会計士
- 鈴木 友紀
はじめに
在ベトナム日系企業における資金調達の方法は、主に現地での銀行借入、増資または日本の親会社からの借入(親子ローン)等に分けられる。本稿では、上述のうち親子ローンのようにベトナム現地法人が親会社等の国外企業から借入をする際の規制の概要を説明する。
1.国外からの借入規制の概要
ベトナムは外国為替や外貨の取扱について慎重な姿勢を貫いている。Decree No. 219/2013/ND-CPによれば、在ベトナム企業は法により許容される範囲で実需に応じて国外から融資(ローン)を受けられるが、このようなローンは中央銀行が管理監督すると定められている。期間を問わず国外から借入をするにあたっては、常に融資契約書(ローン契約書)を作成することが求められている。ローンはその借入期間に応じて「短期ローン」と「中・長期ローン」(以下「中長期ローン」)とに分類され、以下のように借入金の利用可能な用途や必要な手続が異なっている。 国外からの借入に関する規制の詳細は、主に通達 Circular No.03/2016/TT-NHNN(通達03)およびその 一部改正通達Circular No. 05/2016/TT-NHNN(通達05)に定められている。
(1) 短期ローン
短期ローンは借入期間が1年以内のローンを指す。借入期間が短いため用途は一般的に運転資金等に限られる。後述の通り短期ローンを期限内に返済できず、借入期間が1年を超えてしまった場合には中長期ローンとしての登録が求められ、登録の際には管轄当局が短期ローン組成の適正性を過去に遡って審査する旨が規定されている。
(2) 中長期ローン
借入期間が1年を超えるものは中長期ローンと呼ばれるが、借入金は運転資金に限らず設備投資等にも利用できる。ローン契約書において借入元本・支払利息の返済スケジュールを明記する必要があり、また中央銀行へのローン契約登録を行わなければならない。
a. 管轄1,000万米ドル(または相当額、以下同じ)を超える外貨の中長期ローンと、金額を問わずベトナムドン建の国外からの中長期ローン(注)は中央銀行本店の外国為替管理部門が管轄する。1,000万米ドルまでの中長期ローンは借り手であるベトナム現地法人の本社がある中央直轄市または省の中央銀行支店が管轄する。登録・報告はそれぞれこの管轄部門・支店に対して行う。 (注)ベトナムドン建のオフショアローンは現地規制により、中銀認可の取得等、特別な場合に限られる。
b. 中長期ローン契約の中央銀行への新規登録方法
中長期ローン契約を締結した場合、締結日から30日以内かつ借入金の引出前に登録をおこなわなければならない。短期ローンを更新して中長期ローンとした場合には更新契約の調印日から30日以内に、また 短期ローンを期限までに返済できず1年を超えた場合には、借入金の最初の引出日から1年が経過した日から30日以内に登録をおこなう必要があるとされる。ただし期限までに返済できなかった短期ローンについては返済猶予期間(10日)が設けられており、借入期間が実際に1年を超えてしまったとしてもこの返済猶予期間内に返済を行えば登録は不要である。
i) 新規登録手続の概要
登録・報告はオンラインまたは書面により行うことができる。 オンラインを選択する場合、中央銀行のベトナム語版ポータルサイト(www.sbv.gov.vn)からローン登録用ウェブサイトへのリンクを開くか、登録用ウェブサイト(www.qlnh-sbv.cic.org.vn)を直接訪問し、事前に利用者登録(3営業日要するとされる)を行った上で、実際のローン登録手続を行うことになる。オンライン登録では、登録用ウェブサイトの指示にしたがい必要な情報を入力後、データをプリントアウトして代表者サインと押印をした書類およびウェブサイト上で指定された証明書類をオンラインで提出するか、管轄当局の窓口に直接提出または郵送することとされている。
書面での登録・報告をする場合には、通達03付録1の様式に基づいた申請書に必要事項を記入し、これに所定の証明書類を添付して当局の窓口に直接持参または郵送により提出する。 提出書類の主なものは、①申請用紙(オンラインの場合はウェブ上の申請フォーム、書面提出の場合 は通達03付録1の様式)、②借り手である現地法人側の地位を証明する投資登録許可証(IRC)および企業登録許可証(ERC)等のコピー、③借入金の使途説明書類(事業計画や生産計画等)、④ローン契約書のコピーおよびベトナム語訳、⑤担保・保証がある場合は担保・保証書のコピーとベトナム語訳等があげられる。すべての書類には借り手である現地法人代表者のサインと押印をする必要がある。 登録するローンの具体的な内容や管轄窓口によって追加書類が必要な場合もあるため、法令の定めをよく理解した上で、事前に当局に対して具体的な確認を行うことが不可欠となる。
ii) 新規登録の所要期間
中央銀行からの登録可否の回答は、オンライン登録の場合は原則として12営業日以内、書面提出の場合は15営業日以内に出される。ベトナムドン建の中長期ローンについては回答の受領まで最大45営業日かかる。回答の結果次第ではローン契約自体を変更し再締結・再登録申請をしなければならないため、登録完了までに想定外の時間を要する可能性がある。一方で登録が承認されたにもかかわらず6ヵ月超にわたって借入金の引出が実行されない場合等は登録が自動失効するため、時間的に余裕を持ちながらも、現実的な見通しに基づいてローンの準備をすることをお勧めする。 法令上はオンライン登録が推奨されており、オンラインを利用する方が中央銀行側の対応期限が短く 設定されている等のメリットがあるようだが、一旦オンライン登録を選択すると以後は原則として常にオンラインで登録・報告をしなければならず、書面での登録ができなくなる。実務では書面登録が主流であり、オンライン手続の詳細が必ずしも周知されていない現段階でオンライン登録を選択すると、不明事項の確認に手間取り却って登録までに余計な時間がかかる可能性がある。システム障害等で物理的にオン ライン手続ができない時には暫定的に書面での手続が許容されているが、原因によっては復旧後に自社の責任で登録内容を再度ウェブサイトに入力しなければならず、不便さを感じることも予測される。オンライン登録の選択にあたっては十分な事前確認が推奨される。
c. 変更登録
すでに登録された中長期ローンの内容に何らかの変更が生じた場合は、変更内容に応じて概ね30日以 内に中央銀行に対し変更登録や通知を行わなければならない。変更登録手続は新規登録と似ているが、 通達03において具体的な変更内容ごとに登録・通知の別や手順、必要書類が定められているため、直接法令をご確認いただきたい。 なお軽減措置が存在しており、借入金引出日や利息支払日が登録スケジュール通りに実行されない場 合については、実施日の変動が登録された日程の前後10日以内であれば借入金の預入金融機関に対して通知するだけでよく、また借り手住所の同一直轄市・省内での変更や取扱銀行の変更等の場合は、変更登録が不要とされている。
(3) 短期ローン、中長期ローンの共通の留意事項
a. 報告
ローン契約の実施状況については、四半期に一度中央銀行に対して状況報告をおこなわなければならないとされている。報告期限は、ローン契約の期間やオンライン報告・書面報告の区別なく1月、4月、7月、10月の各5日までである。短期ローンについては報告義務の存在が看過されがちであるが、短期ローンの借入期間が長期化し中長期ローンとして変更登録を行うこととなった場合には、中央銀行により短期ローン期間中の報告状況がチェックされることもあるため、留意が必要である。
b. 罰則等
ローンの報告や登録を行わなかった場合の罰則としては過料のみが存在しているが、特に中長期ローンについては、登録を行わないと実務上の不都合も生じうるので適切な対応が望まれる。すなわち登録を行わないと当該中長期ローンに関する中央銀行の証明書が発行されないため、将来の税務調査において書類不備と判定され、借入金を元手に購入した資産の減価償却費や借入利息の損金算入が否認される可能性が高い。また、ベトナム側の金融機関口座での資金受取については金融機関の審査も比較的緩やかな傾向がみられ、借入自体は実行できることが少なくないと思われるが、返済のための海外送金にあたって金融機関から中央銀行の証明書を求められた場合には、これを提示できず送金できなくなる可能性も否定 できない。
(4) その他の規制・留意事項
IRCを取得して活動を行っている外資企業については、総投資資本金と定款資本金の差額(借入資本)の範囲でのみ中長期ローンを組むことができるとされているため、借入額がこれを超える場合にはIRCの変更が必要となる。借入枠は為替に影響される点も留意が必要である。IRC を取得していない企業については、借入が可能な金額は中央銀行の承認次第とされている(通達 Circular No.12/2014/TT-NHNN)。
おわりに
以上のように、ベトナムでの海外からの借入に関しては登録手続が求められるため、時間的な余裕を確保し、実需に基づいた計画をする必要がある。本稿では言及していないが、利息の海外への支払時に課せられる外国契約者税(5%)や、海外借入に限らずローンの支払利息損金算入額に制限が存在する等の問題もあることから、ベトナム現地法人が借入をするにあたっては複眼的で慎重な検討が欠かせない。国外からの借入の計画や実施にあたっては、関連法令を十分に確認するとともに、取引金融機関や会計事務所等とよく相談いただくことをお勧めする。