個人所有資産の賃借取引に係る税務上の留意点
2023/07/15
- Vo Thi Nguyen Linh
はじめに
企業が、外国人出向者用の住宅・店舗・倉庫・オフィス・車両といった、個人所有資産を賃借するケースは多い。個人所有資産を企業が賃借する際、賃貸収入に課される税金を借手側である企業が個人に代わり申告・納税する場合があるが、税法を適切に理解していないと、企業側で税務リスクが発生する可能性がある。本稿では、個人所有資産の賃貸収入に課される税金の申告・納税を、借手側の企業が代わりに実施する際の税務上の留意点について解説する。
1.課税対象の判定
Circular No.40/2021/TT-BTC(以下「Circular 40」)およびCircular No.100/2021/TT-BTCでは、次の2つの条件を同時に満たす場合、個人所有資産の賃貸収入に対して税金を申告・納税する必要があると規定されている。
①個人所有資産(宿泊サービスがない住宅、土地、店舗、工場、倉庫、車両、機械や設備など)を賃貸したこと
②暦年で賃貸収入合計額が1億ベトナムドン(VND)超、または複数期間にわたる前払いの形態で、一括前払金額を支払期間で除して計算した1年あたりの金額が1億VND超であること
従って、個人所有の資産に関連する賃貸収入の合計額が、年間(暦年)1億VND以下の場合は、課税対象外となる。また、賃貸期間が通年ではない場合は、1年あたりの賃貸収入が1億VND以下であれば、課税対象外となる。
課税対象となる賃貸収入が発生した場合、原則的に申告・納税の責任は個人が有する。しかし賃貸契約書に、賃貸収入に課される税金を借手側の企業が個人に代わって申告・納税する旨を記載した場合、Circular40のガイダンスに基づき、企業が代理で申告・納税の手続きを行う必要がある点について留意されたい。
2.課税所得・税金計算
賃貸収入に対して、個人所得税および付加価値税が課される。
・個人所得税= 賃貸収入 × 5%
・付加価値税= 賃貸収入 × 5%
上記の賃貸収入は税込みの金額である。また契約違反により、賠償金またはその他補償金を受領している場合、当該金額に対しては個人所得税のみ課税されることになる。
なお賃貸契約書に、賃貸収入が税抜きであることが明記されている場合、以下の公式によってグロスアップ計算を行い、税込みでの賃貸収入金額を算定する必要がある1。
3.申告・納税の方法および期限
企業が個人に代わって申告・納税を行う場合、下記いずれかの方法および期限となる。
①月次:期限は、賃貸収入が発生した月の翌月20日まで
②四半期次:賃貸収入が発生した四半期の翌四半期の初月の末日まで
③年次(暦年):翌年初月の末日まで
④賃貸収入が発生する都度:賃貸収入の発生日から10日以内
個人が自ら申告・納税をする場合は、上記③もしくは④の方法で行うことが求められているため、企業が代理で申告・納税をする場合も、実務上は同様の期間を選択するケースが多い。
賃料を一括前払で支払った場合、初回申告に限り、前払金全額を課税所得として税額を計算し、申告・納税することになる。また、賃貸契約の見直しを行い、契約金額・支払期間・賃貸期間などが変更された場合は、必要に応じて修正申告および納税を行う必要がある。
4.申告書類
・Circular40で規定されているフォームNo.01/TTS(賃貸収入に関する、個人所得税および付加価値税の確定申告書)
・Circular40で規定されているフォームNo.01-2/BK-TTS(賃貸資産の所有者、所在地、支払期間等の情報が記載された付録)
・(初回申告の場合のみ)賃貸契約書の写し、契約書の付録
※税務当局担当者から、写しの真正性の確認のために原本の提示を要求される場合がある。また、賃貸資産所有者の本人確認書類の写しの公証版を別途要求される場合もある。
また、個人に代わり申告・納税を行う企業は、申告書上で「法令に基づき代理で申告・納税する企業」を選択し、代表者の署名および押印もしくは電子署名を行う必要がある。
5.申告書類の提出先および納税先
申告書類の提出先および納税先は、代理で申告・納税を行う企業が所在する地域の税務局となる。
6.賃料を損金算入するための条件に関する留意点
法人税に関するガイダンスCircular No.96/2015/TT-BTCの効力発生年度である2015年度以降、個人から資産を賃借する際に、税務局からインボイスが発行されないこととなった2。そのため、企業が個人に支払った賃料および企業が負担した税金を損金算入するためには、下記の書類を準備する必要がある3。
・賃貸契約書および契約書の付録(賃貸契約書に、賃貸資産を有する個人に代わり申告・納税をする旨を明記する必要がある)
・賃料の支払証憑
・代理で申告・納税をした際の申告書・納税証憑(貸手である個人の賃貸収入が年間1億VNDを超える場合)
おわりに
以上、個人所有資産の賃貸収入に関する税金の申告・納税を、借手側の企業が代わりに行う際の税務上の留意点について説明した。上述のとおり、個人所有資産を賃借する場合、賃貸収入が税込みまたは税抜きなのかを契約書に明記すべきである。また、企業が当該税金の申告納税責任を負いたくない場合は、個人が申告納税責任を負う旨を契約書に記載することを推奨する。
参考文献
2021年6月1日付Circular N0.40/2021/TT-BTC
2021年11月15日付Circular No.100/2021/TT-BTC
2020年10月19日付Decree No.126/2020/ND-CP
2015年6月22日付Circular No.96/2015/TT-BTC
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1 Official Letter No.3822/TCT-DNL
2 旧規定では、賃貸収入が年間1億VDN超の場合、資産を所有する個人は管轄税務局に賃貸収入のインボイス発行申請を行い、借手へ発行する必要があることが規定されていた。
3 Circular No.96/2015/TT-BTC