企業が年間200~300時間の時間外労働を要求する場合の留意事項
2023/07/20
- Do Thi Diu
はじめに
企業が従業員に時間外労働をさせるのは珍しいことではない。一方で、従業員の労働時間、休憩時間、健康とのバランスを確保するために、法律では、1日、1カ月、1年間の単位における時間外労働の上限が定められている。例えばベトナム2019年労働法では、時間外労働は年間200時間を超えないことと規定されているが、製造業など一部の業務に限っては200~300時間以内の時間外労働が認められている。本稿では、企業が年間200~300時間の時間外労働をさせる場合の留意点を中心に解説する。
1.時間外労働をさせる場合の条件
2019年労働法第107条の規定によると、使用者は、以下の条件を満たすことで労働者に対して時間外労働を要求することができる。
(i)労働者の同意を得ること。
(ii)労働者の時間外労働時間は、1日における通常の労働時間の50%を超えないと保証すること。1週間あたりの通常労働時間の規定を適用している場合は、通常の労働時間と時間外労働時間の合計が1日あたり12時間を超えないこと。1カ月あたりで40時間を超えないこと。
(iii)年間200~300時間以内の時間外労働が認められる場合を除き、労働者の時間外労働が1年あたり200時間を超えないこと。
1年間の時間外労働の上限を保証することは、使用者が従業員に時間外労働をさせるための条件の1つである。
2.年間200~300時間以内の時間外労働が認められている場合
通常、時間外労働は年間200時間を超えてはならないが、使用者が年間200~300時間以内の時間外労働をさせられる7つのケースがベトナムの法律によって規定されている。詳細は次のとおりである。
(1)使用者の業務が繊維・縫製・皮革・靴・電気・電子製品の輸出のための製造・加工、農業・林業・塩業・水産物の加工である場合。
(2)使用者の業務が電気の発電・供給、電気通信、石油精製、給排水である場合。
(3)使用者の業務が高度な専門、技術水準が求められる業務で、労働市場が十分な労働者を供給できないことを解決する場合。
(4)原料や製品の納品時期が確定している等の理由で遅延させることができない業務を解決する場合。天候不順、自然災害、火災、戦災、電力不足、原料不足、生産ラインの事故等により発生する業務を解決する場合。
(5)緊急かつ国家機関の公務活動に直接関連する客観的要因のため、遅らせることはできない場合(2019年労働法第108条に規定されている特別な場合の時間外労働を除く)。
(6)公共サービス、医療サービス、教育および職業訓練サービスを提供する場合。
(7)通常の労働時間が1週間あたり44時間を超えない企業における、生産・経営活動に直接関連する業務の場合。
上記(1)、(2)、(6)の場合、使用者は市・省の計画投資局に登録した特定業務に基づいて時間外労働をさせる。具体的には季節的な業務または必須業務を指す。
一方、上記の特定業務に登録されていない場合、使用者は(4)または(7)のケースを適用し、年間200~300時間以内の時間外労働をさせていることが多い。
3.年間200~300時間以内の時間外労働についての通知手続き
年間200~300時間以内の時間外労働をさせる場合、使用者は以下の通知手続きをすれば違法とはみなされない。2019年労働法第107条4項によると、年間200~300時間以内の時間外労働をさせる場合、使用者は省級人民委員会に属する労働機関に通知しなければならない。詳細は以下の通りである。
通知の形式:
政令145/2020/ND-CP号付録IVのForm 02/PLIVを使用した書面にて通知する。ただし実務上、年間200~300時間以内の時間外労働の実施を証明するために、労働機関によっては以下の追加書類を要求されることが多い。
・時間外勤務計画(使用者は通達15/2003/TT-BLDTBXHのForm No.03を参照できる。このFormは失効しているが、他の案内文書がまだ発行されていないので使用可能)
・労働者との時間外労働についての合意書(政令145/2020/ND-CP号付録IVのForm 01/PLIV)
提出先:
以下の地域の労働・傷病兵・社会問題局(工業団地・輸出加工区・経済特区外にある企業の場合)/工業団地管理委員会(工業団地・輸出加工区・経済特区内にある企業の場合)
・時間外労働を実施する地域
・企業の本店所在地(時間外労働を実施する場所が企業の本店所在地と異なる場合)
通知期限:
時間外労働を開始する日から遅くとも15日間以内に実施しなければならない。1カ月あたり40時間の時間外労働が上限とされるため、基本的に使用者は年間200時間を超える時間外労働について毎年6月以降に通知することとなる。
4.年間200~300時間以内の時間外労働をさせる際の違反行為に関するリスク
2019年労働法上、時間外労働に関する違反行為は、使用者に対して以下のような罰則が科されるリスクがある。
(i)年間200~300時間以内の時間外労働をさせることについて、通知手続きをしなかった場合、使用者は400万~1,000万ベトナムドン(VND)の罰金が科される。
(ii)規定された上限を超える時間外労働をさせる場合(本レポートの「2.年間200時間~以内の時間外労働が認められている場合」で示した7つのケースの対象外または300時間を超える時間外労働を行う場合)、使用者は1,000万~1億5000万VNDの罰金が科される。
税法上、年間200時間を超える時間外労働を違法に実施する場合、以下のようなリスクが発生する。
法人税については、通達78/2014/TT-BTC 第6条2項に基づき、200時間を超える時間外賃金の支払費用は、損金不算入扱いとなるリスクがある。
所得税については、通達111/2013/TT-BTC 第3条1項と2019年11月12日付税務総局発行オフィシャルレター4641/TCT-DNNCNに基づき、2019年労働法に規定された上限を超える時間外労働に対する割増賃金は、所得税の対象となるリスクがある。
おわりに
本稿では、企業が年間200~300時間の時間外労働をさせる場合の注意事項について解説した。企業は不要なリスクを回避するため、いま一度、労働に関する法令を順守するよう注意を払う必要がある。
参考法令
1.2019年労働法(法律番号 45/2019/QH14)
2.政令145/2020/ND-CP
3.政令12/2022/ND-CP