Reportレポート

ベトナムの法人税②

2020/10/05

  • 米国公認会計士
  • 逆井 将也

はじめに
 ベトナムでは投資を積極的に誘致している一部の業種や地域に対して優遇税制が採用されており、該当する企業にとって大きな魅力となっている。法人税の優遇税制は、免税・減税および優遇税率から構成されており、事業内容や設立地域により異なった内容となっている。一方で、優遇税制の法令は解釈に幅があるため、税務調査で担当税務官の判断に基づき優遇の不適用と指摘を受けてしまうリスクがある。本稿では一般的な製造業およびIT企業の優遇税制の概要と注意点について説明する。(参考:シリーズ第1回「ベトナムの法人税①」

1.製造業に対する優遇税制
(1) 製造業に対する優遇税制概要
 工業団地に入居する製造業に対する優遇税制は、2年間の免税、その後4年間の50%減税から構成されている。優遇期間は課税所得が発生した年度から起算される。ただし、初めて売上が発生して以来3年連続で欠損金が出ている場合は、売上発生後4年目より優遇期間の起算が開始されてしまうため注意しなければならない。なお、優遇税制とは関係なく、欠損金は発生した年の翌年から最大5年間繰り越し、課税所得と相殺することができる。欠損金の繰越期間と優遇税制の適用期間が重複する場合、欠損金から相殺後の課税所得に対して優遇税制が適用されるため、欠損金が多い場合等は免税や減税といった優遇税制のメリットを充分に活かしきれないこともある。そのため、操業開始数年間のスケジュールを検討する際には、欠損金の繰越期間と優遇税制の期間双方を考慮することをお勧めする。

(2) 拡張投資に対する優遇税制
 事業が順調に進むにつれて工場の拡張や増設等拡張投資を行う企業も多いが、製造業に対する優遇税制は新規投資に対してのみ認められ、拡張投資に対しては認められていなかった。しかしCircular78/2014/TT-BTCによって、2014年8月2日以降は以下の条件を1つでも満たせば、新たな拡張投資プロジェクトに対しても2年間免税、その後4年間50%減税の優遇税制が適用されることとなった。

a. 固定資産取得原価が200億VND以上増加(奨励地域の場合100億VND以上増加)
b. 固定資産取得原価が拡張投資前に比べ 20%以上増加
c. 生産能力が拡張投資前に比べ 20%以上増加

 既存投資部分と分けて拡張投資に対して優遇税制を適用する場合は、原則として既存投資部分と拡張投資部分の会計帳簿を分けて管理および課税所得額の計算をする必要がある。それが困難な場合、固定資産の取得原価比率で課税所得を按分することも認められており、実務上投資部分ごとの管理が難しいため、多くの企業がこの方法を採用している。

(3) 製造業以外の事業による売上がある際の注意点
 法人税優遇の対象となる収入は、優遇地域で発生した会社の事業に関する売上とされている。「優遇地域で発生した会社の事業に関する売上」の定義は、現行法令上明確にされていないため、地方税務局により当売上の解釈が異なる。たとえば、製造業の中には自社で製造・加工した製品を販売せずに、仕入れた部品等をそのまま他社に販売するような商社機能を持つ場合がある。その際には卸売もしくは小売の事業ライセンスを追加取得する必要があるが、卸売・小売事業に対しては、優遇税制は適用対象外と解釈される可能性が高い。そのため、卸売・小売事業の課税所得は製造業と別々に算出し、標準税率を適用して法人税計算されることをお勧めする。課税所得を別々に算出する方法は法令上以下のいずれかとなる。

a. 課税所得を、製造業の業務と卸売・小売の業務に分けて管理を行う
b. 会社全体の課税所得に、製造業の業務と卸売・小売の事業の収益あるいは損金の按分比率を乗じる

 ただし、実務上は事業ごとに分類が難しい損金(例:両部門にまたがる管理職の人件費)があるため、事業ごとに課税所得を分けることは難しい。そのため、一般的には各事業に分類可能な項目についてのみ勘定科目の補助科目を活用して管理して、分類が難しい項目については、分類可能な項目の収益あるいは損金の按分比率を乗じる方法が用いられている。

2.IT企業の優遇税制
(1) IT 企業に対する優遇税制概要
 IT企業に対しては、ベトナムが特に発展を促している業種であることから非常に魅力的な優遇内容となっており、優遇税率10%が15年間に渡り適用され、かつ4年間免税・その後9年間50%減税が適用される。優遇税率および免税・減税の起算の考え方は上述の製造業と同様である。
 なお、IT企業の中には現地法人設立段階や事業規模が小さい段階には、ラボ型開発の形態で進出している場合があるが、法人ではないため優遇税制のメリットが享受できない点に留意いただきたい。

(2) IT企業の優遇条件
 2020年8月19日より有効となったCircular 13/2020/TT-BTTTTにおいて、ソフトウェア開発のプロセスは次の通り定義されている。

1.要件定義:機能、特徴、コンテキスト等ソフトウェアの要件を決めることが該当する
2.分析・設計:要件の仕様、アルゴリズムの設定等が該当する
3.プログラミング・コーディング
4.検査・テスト
5.完了・梱包
6.インストール・移送・使用案内・メンテナンス
7.配布・販売・リース

 優遇税制が適用されるためには、上述のうち1もしくは2を必ず含むこと、および自社業務の各プロセスを証明する書類を有すること、開発するソフトウェアがCircular 09/2013/TT-BTTTTで規定されるソフトウェア製品のリストに含まれることが必要である。たとえば、CAD業務、ソフトウェア販売およびITコンサルティング等の事業は優遇税制の対象外とみなされ、当事業内容が優遇税制の対象になると誤認していた企業が税務調査で指摘を受けた事例もある。税務調査で指摘を受けた場合、過去の税額を標準税率で再計算し不足している税額を支払うことに加え、過去の申告時から指摘を受けた時までの遅延利息および罰金も追加で支払うことになるため相当高額な負担となってしまう。そのため、優遇税制を適用する際には事業内容を慎重に確認したうえ、税務専門家の意見を聞くことや、オフィシャルレターで管轄の税務局に意見を聞くことも推奨する。
 また、ソフトウェア開発を実施する企業には、以下の義務が課される。当義務に違反した場合、税務調査において優遇税制を否認される可能性も想定されるため留意いただきたい。

・ソフトウェア開発の優遇税制に関する証明書類の正確性について責任を負い、かつ業務が各工程に適合するか自社で確定する。
・ソフトウェアの情報および実施工程、適用税率について、情報通信省情報技術局に毎年報告する。
・ソフトウェアおよびソフトウェア開発活動が知的財産法およびその他関連法令に違反しないことを保証する。

 なお、ソフトウェア開発と優遇対象外となるほかの事業を両方行っている場合は、上述の2.(3)と同様に、課税所得を別々に算出する必要があるため注意しなければならない。

おわりに
 上述の通り、ベトナムの法人税の優遇税制は企業にとって非常にメリットが大きい。一方で、正しく法令と実務を理解していないことで、後の税務調査で優遇税制が否認される可能性もあるため、慎重に対応する必要がある。本稿では一般的な製造業と IT 企業に対する優遇税制を紹介したが、裾野産業やハイテク産業に対する優遇、経済特区における優遇等、より有利な優遇条件もあるため、該当企業は自社の優遇条件について正しく認識していただければ幸いである。次回は、法人税の税務調査で指摘を受けやすいポイントについてくわしく説明していく。

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