Reportレポート

企業の事業活動を停止する際の重要な注意点

2023/10/25

  • 米国公認会計士
  • 逆井将也

はじめに
 COVID-19パンデミックの悪影響により困難に直面したベトナムの企業の中には、経済が回復するまでの待機期間として、または会社清算手続きの準備を目的として、届出を行って一時的に事業活動を休止させているところが少なくない。しかし中には、経営状況が窮地に追い込まれていても、事業活動休止の手続きの存在を知らないために操業を継続し、困難が拡大してしまっている場合もある。そこで本稿では、企業の事業活動を停止する際の届出および重要な注意点について説明する。

1. 事業活動の停止とは
 事業活動の停止とはベトナム企業法(以下「企業法」という)においては定義されていないが、法律により許可された一定期間において、事業活動を一時的に停止しているという意味であると解される¹。法令上の定義としては存在しないが「休眠」と呼ばれることもある。

2. 事業活動を停止する際の注意点
2.1. 企業登録機関に対する活動停止通知義務
 企業法によると、企業は企業の所在地にある企業登録機関に対して、実際に活動を停止する日の3営業日前までに書面にて通知する必要がある。なお、通知した停止予定期間より前に活動を再開する場合も、再開日の3営業日前までに書面にて通知する必要がある。企業が事業活動を停止するにあたっての注意点は下記の通りとなる。

・事業活動を停止できる回数に制限はないが、1回の通知により認められる活動停止の最長期間は1年となっている²。1年後、企業が活動停止の延長を希望する場合は、上記の期限内に企業の所在地にある企業登録機関に対して書面による通知を送付しなければならない。

・企業が一時活動停止を申請すると、行政により当該企業の本社の他、すべての支店、駐在員事務所、経営拠点の法的状態が国家企業登記情報システムにおいて休眠状態に変更される³。企業は本社において活動停止の申請を行えばよく、各支店、駐在員事務所、経営拠点等でそれぞれ休眠の申請書類を提出する必要はない。

・通知した活動停止予定期間より前に活動を再開する場合は、企業の所在地にある企業登録機関に再開日の3営業日前までに書面により通知する必要がある。企業が通知した停止期間の終了日の翌日に事業再開を希望する場合には、企業は企業登録機関に対して何等の手続きも実施する必要がない。停止期間終了後、企業の法的状態は当局により通常の「活動中」のステータスに戻される。

・活動停止日・期間、および活動停止から1年経過前に事業を再開する際の再開日について企業が適切に企業登録機関に通知しなかった場合、または通知が遅れた場合、企業は VND10,000,000〜15,000,000の罰金を科され、さらに上述の事業活動の停止や再開の通知手続きを、遡って実施しなければならない。

2.2. 労働者および第三者に対する義務
a.労働者に対する義務
 活動停止期間中、企業は労働者との合意により、労働契約の履行の一時停止、給与の減額、解除などの措置をとることができる。

労働契約の履行の一時停止:企業は労働者との間で既存の労働契約の履行の一時停止または給与の減額について合意することができる。労働契約の履行の一時停止の場合、企業は、別段の合意がない限り労働契約履行の一時停止期間中に給与や手当を支払う必要がない。

給与の減額:労働者の合意があれば、労働契約上の給与を減額することも可能である。この場合、新たな給与は地域最低賃金を下回ってはならない。

合意解除:この措置をとった場合、企業は、労働契約を終了する際の従業員に対する退職金、年次有給休暇の未取得相当額の支払いなどの義務を完全に履行しなければならない。企業の事業活動停止が将来の事業再開に向けた戦略的なものである場合、労働契約の一時履行停止や減給について合意できれば、活動停止期間中の人件費を節約しつつ労働者との労働関係を維持し、活動停止期間の終了後には、よりスムーズに事業を再開できると考えられる。活動停止がどのくらい続くか不明な場合や、解散の待機期間中との位置づけではあるがまだ清算時期や清算の計画を決定していない企業については、特段の事情がない限り活動停止前に労働契約を合意解除する方が適している場合が多い。これらの措置をとらずに労働契約が維持される場合、企業は活動停止期間中も、既存の労働契約上の義務を履行し続けなければならない

b.第三者に対する義務
 活動停止期間中、企業は、企業と債権者、顧客との間に別段の合意がある場合を除き、第三者に対する債務・義務は自動的には免除されない。そのため、特に建物や事務所などの長期賃貸借契約を締結している企業は、活動停止期間中の賃料を減額するよう貸主と合意することをおすすめする。

2.3. 事業登録税納付義務、税務申告・納付義務
 活動停止の時点は、企業のニーズおよび実態に応じて企業が決定できる。そして、活動停止中の企業は、税務申告等を行う義務がないとされる。ただし、各税項目により規定が異なり、その活動停止時点により申告・納税の義務が生じる場合があるため、それぞれ理解し適切に対応する必要がある¹⁰

個人所得税(以下「PIT」):企業が活動停止中の申告期間において労働者に給与等を支給し個人所得税の課税所得が発生した場合、PITの源泉
 徴収・申告・納付が必要であり、各四半期(または月次)と確定申告の両方についてそれぞれに申告・納付の有無を判断する必要がある。企業が労働者に給与等を支給しない場合は、PITに関する上記の義務はない。

付加価値税(以下「VAT」):企業が各四半期(または月次)の申告期間を通して休眠する場合は申告・納付は不要となるが、申告期間を通して一時的にでも活動した場合は申告が必要となる。また、活動停止中に家賃などを支払い仕入VATが発生したとしても売上VATが発生しない場合は、翌期(翌四半期または翌月)に仕入VATを繰り越して申告する事ができる為、活動停止期間中の申告の必要はない。

法人税(以下、「CIT」):企業が会計年度を通して活動停止する場合は申告・納付が不要となるが、一時的にでも活動した場合または労働者に対する給与や家賃などを支払っている場合は申告・納付が必要となる¹¹。外資企業の場合、法人税申告にあたっては会計監査も必要となる。

事業登録料:サービス・商品販売、製造等の事業活動を行っている企業は毎年1月30日までに、事業登録手数料の納付が必要である。企業が暦年(1月1日~12月31日)を通して活動停止する場合、事業登録手数料の申告・納付は不要である。一方で企業が暦年を通して活動停止していない場合、つまり暦年で一時的にでも活動をしていた場合は、その年の事業登録手数料を申告・納付をしなければならない。

 以上から、税務義務の発生を極力抑える観点からは、暦年の丸1カ月・丸四半期・丸1年のスパンで事業活動を停止することが検討に値すると考えられる。

おわりに
 事業活動を停止することは、経営状況が困難な中で事業の再構築を行っていく際にも有力な選択肢であると考えられる。 ただし、実施にあたっては、企業は、法令等の違反を回避するため、活動停止の開始・延長・再開に際しての通知期限に留意するとともに、長期的な事業見通しに基づき労働者や第三者に対する義務、税金の申告納付義務なども考慮したうえで実施する必要がある。

以上


¹企業登記に関する2021年1月4日付政令01/2021/ND-CP第41条第1項
2企業登記に関する2021年1月4日付政令 01/2021/ND-CP第66条第1項
³企業登記に関する2021年1月4日付政令01/2021/ND-CP第66条第1項
企業登記に関する2021年1月4日付政令01/2021/ND-CP第66条第1項
計画・投資分野における行政違反に対する罰則を規定する2021年12月28日付政令122/2021/ND-CP号第50条第1項c号
労働法第46条第1項
労働法第34条第3項
企業法第206条第3項
企業法第206条第3項
¹⁰2019年税務管理法の詳細案内となる2020年10月19日付政令126/2020/ND-CP号の第4条第2項a号
¹¹法人税をガイダンスする財務省発行の2016年11月15日付通達302/2016/TT-BTC号第4条第3項

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