ベトナムの法人税③
2020/12/01
- 米国公認会計士
- 逆井 将也
はじめに
前回までは法人税の基本事項と優遇税制を中心に説明してきたが、本稿では法人税の実務上の留意点について説明する。ベトナムの法人税に対する税務調査は、日本に比べて融通が利かず、税務局が有利になるような法令解釈をされる傾向が強く、非常に多くの企業が税務調査で指摘を受け追徴課税や延滞税、罰金を課されている。税務調査で指摘を少なくするためには、常日頃から法令改正情報や税務調査の指摘事例をアップデートしていき、実務に落とし込むことが必要となる。本稿より2回に渡り、近年の法令改正や税務調査事例に基づき法人税の税務調査で指摘を受けやすいポイントについて説明する。
前半となる本稿では、業種や規模にかかわらず比較的多くの企業に該当する事項を中心に説明する。
1.損金算入条件
ベトナムの法人税①でも記載しているが、法人税の損金に算入するためには以下の条件すべてを満たさなければならない。当条件が非常に大切になるため、繰り返し記載させていただく。
a. 会社の事業活動に関係がある費用であること
b. レッドインボイスや契約書、社内規定等適切な証憑を提出できること
c. 付加価値税(VAT)込で 2,000 万ドン(約 10 万円)以上の支払は現金以外(銀行送金やクレジットカード払)で決済していること
各条件を満たしていないことで税務調査で損金を否認されることが非常に多いため、ベトナムの法人税①に記載の具体的な事例も併せて確認いただきたい。
2.法人税の税務調査で指摘を受けやすいポイント
(1) 出張費
出張費の支払方法は出張手当、旅費、宿泊代等の出張費を1日あたりの定額に概算し従業員へ請負支給を行う方法も認められているが、多くの企業では出張手当(日当)を定額支給し、その他費用を実費支給としている。出張手当(日当)や実費支給の費用が法人税上損金算入として認められるためには、以下のすべての書類を準備し、各要件を満たしておく必要がある。
a. 財務規則や労働契約書等の社内規定:出張手当の支給額、出張中に発生する旅費・宿泊代等の費用の支給方法を明記すること
b. 出張決定書:代表者の場合、代表者名義で自身に決定書を発行すること
c. 旅費等のレッドインボイス:海外出張の場合、外国の規定にしたがい証憑を取得しベトナム語翻訳を行うこと
d. 2,000 万ドン以上の支給額の場合は現金決済ではない支払証憑:航空券等従業員が個人のクレジットカードで支払う場合、社内規定において従業員が個人のカードで支払うことができる旨記載すること
e. 飛行機への搭乗券半券または電子航空券:ウェブチェックインにより航空券を回収できない場合は、出張決定書があれば認められるケースも増えてきている
社内規定や出張決定書を用意する必要があることを認識していない方も多いが、出張の多い会社にとっては出張費のインパクトは大きいため早めに用意いただくことをお勧めする。なお、上述の書類が不十分だった場合、法人税の損金算入を否認されるだけでなく、出張手当や実費支給の費用が個人の所得とみなされてしまい個人所得税の課税対象となってしまう点にも留意いただきたい。
(2) 福利厚生費
ベトナムでは社員旅行や旧正月のパーティー等のように従業員向けの社内行事を行うのが慣習となっている。このような福利厚生費用について、2014年以降福利厚生要素があるものとみなされれば、損金算入が可能となった。福利厚生の定義は法令上曖昧だが、以下のような費用は認められている傾向にある。
・社員旅行費用
・旧正月(テト)パーティー費用
・従業員に対するお祝い金やその家族に対する香典等の費用
・祝日の特別手当
・従業員およびその家族の医療費
・従業員の研修費用
・天災、事故、病気に遭った従業員に対する支援費用
・従業員の成績優秀な子どもに対して支払う報奨金
・旧正月(テト)の帰省手当
・生命保険、医療保険、その他非業務的な任意保険
上述のような福利厚生費用の年間総額について、会社の月次平均賃金までが損金算入限度額となる点に留意いただきたい。月次平均賃金は1年間で支払われた合計賃金を12で除して算出され、設立初年度のように会計年度が12ヵ月に満たない場合は、会計年度中に支払われた合計賃金を月割計算して算出する。また、上述の費用が損金として認められるためには、以下の書類を用意しておく必要がある。
a. 福利厚生の内容(目的・金額・対象者等)が明記された財務規定や労働契約書等の社内規定
b. 商品・サービス購入時のレッドインボイス(2,000 万ドン以上の場合は現金決済ではない支払証憑)
c. 労働組合(組合がある場合)または福利厚生担当者の提案書
d. 会社代表者による決定書
e. 各証明書(入院証明書、結婚証明書、死亡報告証明書等のコピー)
f. 対象となる従業員のリスト
(3) 贈答品購入費用
2016年発行のオフィシャルレターによって、従来不明確であった贈答品購入費用に関する損金算入条件が明記された。損金算入条件は以下の通りである。
a. 贈答品購入費用が会社の事業活動に関係があることを説明できること
b. 贈答品購入時のレッドインボイス・証憑等を取得すること(2,000 万ドン以上の支払に対しては現金決済ではない支払証憑を準備すること)
ただし、税務調査において、贈答品の価値に相当するレッドインボイスを贈答品の提供先ごとに発行しなければならないと規定した付加価値税に関する法令を持ち出されることがある。付加価値税の当法令は法人税の損金算入には直接的に関係ないはずであるが、贈答品提供先へレッドインボイスを発行していない際に損金否認する事例が地方税務局を中心に発生している。レッドインボイス上にレッドインボイスを相手に渡さない旨を記載すれば相手に渡す必要がないため、そのような文言を記載の上レッドインボイスを発行し、自社保管することを推奨する。
(4) 会社設立前費用
会社設立前に支払う必要のある各費用(事務所賃貸費用、光熱費、および設立コンサルへの代金等)について、親会社が立替払いし、設立後にベトナム法人の費用とするケースが多い。当費用を法人税上損金として認められるためには、法令上以下の証憑が求められるため、注意しなければならない。
・パターン1
a. 親会社発行の立替決定書
b. 各費用支払時のレッドインボイスや領収証(名義は親会社あて)
c. (2,000万ドン以上の支払の場合のみ)現金決済ではない支払証憑
・パターン2
a. 親会社とベトナム法人間の立替合意書
b. 各費用支払時のレッドンボイス(発行時は親会社名義で発行し、設立後にベトナム法人あてに修正してもらう必要がある)
c. (2,000万ドン以上の支払の場合のみ)現金決済ではない支払証憑なお、会社設立前費用を立替払いするにあたり、中央銀行の規定も頻繁に変更されるため、事前に銀行にも確認を取りながら計画を立てることを推奨する。
おわりに
ベトナムの法人税に対する税務調査は、法令上の損金算入条件を満たしているか、非常に厳格な調査が実施される。税務調査では、レッドインボイスや支払証憑を用意することはもちろんのこと、各費用に応じた根拠出所も求められてくるため、何が必要になってくるのか常日頃から確認する必要がある。次回は、すべての企業に当てはまる事項とは言えないが、指摘された際のインパクトが大きい事項を中心に説明していく。