新通達に伴う、ベトナム現地法人設立時における親会社立替金の最新実務②
2020/05/21
- 中村 祐太
はじめに
前回のレポート「新通達に伴う、現地法人設立時における親会社立替金の最新実務①」で説明したように、現地法人設立時の立替金については、何通りかの精算方法がある。いずれの場合も必要 な手続を行わないと、設立後に立替金の精算ができない、あるいは現地法人側で付加価値税上の控除や法人税上の損金算入ができない可能性がある。そこで本稿では立替金処理にかかる税務上の要件および留意点について説明する。
1.立替金の税務上の要件
親会社が現地法人の立替で支払った費用につき、現地法人から親会社への清算後、現地法人側で法人税上の損金算入、付加価値税上の控除を受けるためには以下のすべてを満たす必要がある。
(1)現地法人設立前の立替費用金の要件
✓事業関連性がある費用である(ベトナム現地法人設立に関する費用)
✓親会社発行の立替決定書がある(親会社が立替払いする場合)
✓親会社から立替払いを委任された組織・個人との委任状がある(第三者が立替払いする場合)
✓立替払いした組織・個人名義の十分なレッドインボイスおよび関係書類がある
✓2,000万VND以上の場合、立替えた組織・個人が非現金決済している
✓現地法人設立後、親会社と締結された契約書を継続する場合、親会社から現地法人へ契約を変更する付録を作成している。
(注)参考文献:
ハノイ市税務局発行2018年4月17日付オフィシャルレターOffice Letter 20057/CT-TTHT
ホーチミン市税務局発行2018年6月20日付オフィシャルレターOffice Letter 5973/CT-TTHT
以上の条件を満たしていない場合、税務調査等で指摘を受け、付加価値税上の控除や法人税上の損金算入ができないといった事態につながってしまう。特に親会社発行の立替合意書等漏れやすいので注意が必要である。
また、立替費用の精算手続に関して、銀行によって運用が異なるため、事前に取引銀行に確認いただくことを推奨する。
2.税務上の留意点
(1)法人税・付加価値税上の留意点
法人税上の損金算入、付加価値税上の控除を受けるためには「二.立替金処理の税務上の要件」で示した要件が必要となる。
レッドインボイスや契約書に関しては特に注意が必要である。ベトナムで用いられるレッドインボイス(公式な領収書)は日本のインボイスに比べて記載が必要な項目が多く、必要な項目をすべてベトナム語で正しく記載する必要があり、不備があると法人税上の損金算入が認められない可能性がある。また、レッドインボイスは2022年ごろを目途に電子インボイスの利用が必須化される予定である。
また、立替金の精算方法(資本金への振替、借入への振替、子会社から親会社への債権と相殺等)について、その旨を契約書上に明記する必要があり、明記されていない場合、付加価値税上の税額控除のほかに、法人税上の損金算入も受けられない可能性があるため、ご留意いただきたい。
(2)外国契約者税上の留意点
外国契約者税(以下「FCT」)とは、ベトナム国外の法人や各種団体および個人が、ベトナム国内の法人や各種団体および個人にサービスを提供した際に課される税金である。立替で支払われた費用がベトナム国外の事業者に対するものである場合、FCTの課税対象となる可能性がある。また親会社が、立替を行った金額に加え立替手数料等を現地法人から徴求する場合、親会社が現地法人に対して立替サービスを提供しているとみなされ、FCTの課税対象となるため注意が必要である。
FCTを納付するためには、FCT用の税コードを取得する必要がある。FCT用の税コードは投資登録証明書の取得後に取得でき、FCTの納税申告手続はFCT対象となる各サービス代金の支払日から10日以内に行う必要があるのでご注意いただきたい。
(3)出張経費の立替にかかる個人所得税上の留意点
親会社の役員等の出張に関しては、現地法人設立のためのものや、現地法人設立後についても設立記念の式典等への出席にかかるものが想定される。そのような出張の経費(交通費・宿泊費等)を親会社から現地法人に請求する場合も、「二立替金処理の税務上の要件」を満たしていれば、現地法人側で付加価値税上の控除、法人税上の損金算入は可能であるが、その役員らの個人所得税は原則、ベトナムでの課税対象となり、出張経費等に関して非居住者として20%課されることになる。そのため、出張経費は親会社の負担とし、また国外関連者への寄付金とされないため現地法人の視察目的等とすることも検討いただきたい。
おわりに
上述の通り、立替金関連の手続は通常の税務上の手続に加え、追加で必要な書類や注意すべきポイントがいくつかあるため、正しく認識していただければ幸いである。また個別の手続に関しては十分な知識を有する外部の専門家等に相談をして、遺漏のないよう進めることを推奨する。