Reportレポート

外国人労働者が社内異動の形態でベトナム企業に勤務する際の注意点

2024/04/02

  • Ho Thi Y NhiI

はじめに
 外国人労働者の活用は、多くのベトナム企業で一般的かつ不可欠なものとなっており、特に、親会社からベトナム子会社に社内異動させるケースが多い。これにより、ベトナム子会社は親会社や同じグループ企業での勤務経験がある経験豊富な人材を活用できる。また、内部の管理ルールや業務プロセス及び企業文化等に精通している外国人労働者がベトナム企業で勤務することで、親会社にとってもベトナム子会社の管理をスムーズに行うことができる。本稿では、外国人労働者が社内異動の形態でベトナム企業に勤務する際の注意点について説明する。

1.社内異動の外国人労働者の定義
 政令152/2020/ND-CP第2.1条では、「社内異動」はベトナムにおける外国人労働者の就労形態の1つとして規定されている。具体的には、社内異動の外国人労働者とは、以下の2つの条件を満たす外国人労働者と定義されている。
(1)ベトナムに子会社や駐在員事務所などの現地拠点を有している外国企業(以下「親会社」)で勤務している管理者、代表取締役社長、専門家及び技術労働者を、当該現地拠点に異動させる場合(なお当該親会社は、異動先の子会社と直接的な資本関係を有している必要がある)
(2)親会社で少なくとも12カ月以上連続している場合

 したがって、親会社で最低12カ月以上勤務していない外国人労働者、または親会社からの社内異動ではなく同じグループ内の他社から異動する外国人労働者については、ベトナムの法律上「社内異動の外国人労働者」とみなされないため、留意が必要である。

2.社内異動の外国人労働者を使用する場合の注意点
2.1 労働許可証発給申請プロセス
  外国人労働者がベトナムで合法的に勤務するためには、子会社が発行した労働許可証(または労働許可証免除証明書)を取得しなければならない。社内異動の形態で働く外国人労働者の許可申請プロセスは、次の3ステップを踏む必要がある。

◆ステップ1:外国人労働者の採用が見込まれる職位のベトナム人労働者の募集に関する通知
 ベトナム子会社(以下「雇用者」)は、外国人労働者の労働許可証の申請手続きを行う前に、外国人労働者の採用が見込まれる職位のベトナム人労働者の募集を、雇用局または各地方の雇用サービスセンターの電子情報ポータル上で通知する必要がある1。採用結果に基づき、採用基準に合致するベトナム人労働者がいない場合、雇用者は次の外国人労働者の労働許可証の申請ステップに進むことができる。

 なお、「ベトナム人労働者の募集に関する通知」は2024年1月1日以降適用され、社内異動の外国人労働者のみならず、ベトナムで就労するあらゆる職位・就労形態の外国人労働者に適用される必須の手続きである。これはベトナム人労働者の就労を優先するために設けられた施策であり、雇用者が独自に外国人労働者を雇用し、労働許可証を申請することはできない。ベトナム人労働者で雇用者のニーズを満たすことができない場合に限り、雇用者は外国人労働者を雇用することが可能である。

 また、下記ステップ2における書類の提出予定日より少なくとも15日前までに「ベトナム人労働者の募集に関する通知」を行う必要がある。

◆ステップ2:外国人労働者使用計画の確定
 外国人労働者の労働許可証の申請手続きを行うためには、雇用者は外国人労働者を使用する理由を説明し、外国人労働者使用計画を含む申請書類について管轄機関(労働傷病兵・社会省)の承認を受ける必要がある。書類の内容が詳細でない、または納得できるものでない場合、管轄機関は申請を拒否する権利を有する。したがって、雇用者は、資格要件、専門知識、経験など、外国人労働者を使用する必要性に関する詳細な情報と、その職位に外国人労働者を使用する必要がある理由を説明しなければならない。

 申請書類の提出期限は、外国人労働者の雇用予定日(外国人労働者がベトナムで就労する予定日)の15日前までとなっている2。しかし実務上は、書類作成の手続きに時間を要することから、親会社と雇用者間で外国人労働者の雇用計画について合意した後、外国人労働者がベトナムで就労する予定日の60日前までには申請書類を提出する必要がある。

◆ステップ3:労働許可証の発行申請(または労働許可証の免除申請)の実施
 外国人労働者を雇用する許可が管轄機関から下りた後は、雇用者は、労働許可証の発給申請の場合は外国人労働者がベトナムで就労を開始すると見込まれる日の15日前までに、労働許可証免除証明書の申請の場合は10日前までに、申請書類を管轄機関に提出しなければならない。特に、社内異動の外国人労働者の場合、申請3には以下の書類を添付する必要がある。
(1)親会社が、外国人労働者を雇用者側の会社で就労させることを決定したことが分かる書類(一般的に「任命状」と言われる)
(2)外国人労働者がベトナムで勤務する前に親会社で12カ月以上連続して勤務していたことが分かる親会社側での書類

 なお、実務上は簡便化のため、「任命書兼実務経験証明書」として1つの書類にまとめることができる。

2.2 給与の支払い
 ベトナムの法律上、社内異動の外国人労働者に係る給与や労働契約の締結に関する詳細な内容は規定されていない。ただし、多くの国家機関及び公務員は、社内異動でベトナムに来ている外国人労働者に対し、本質的に外国企業(親会社)の労働者であるという暗黙の見解を持っている。したがって、原則的には、これら外国人労働者に係る給与支払いや労働契約の締結は、外国企業(以下「親会社」)によって実施・管理する必要があり、雇用者は社内異動の外国人労働者に対する給与の支払いや、労働契約を締結することはできないと考えられる。

 しかし実際には、多くの雇用者は、主に以下のような理由により外国人労働者に対して勤務時間と労力に応じた給与を支払っている状況である(親会社に代わって外国人労働者に給与の全部または一部を立て替えている場合もある)。
・個人所得税の関係上、ベトナムでの労働から生じる所得を明確に特定するため
・外国人労働者がベトナムで日常生活用の資金を確保するため

 このように法律と実務にずれが生じている状況にあることから、雇用者は、社内異動の外国人労働者への給与支払いに関連するリスクを最小限に抑えるため、事前に国家機関(労働・傷病兵・社会省)に、予定している給与支払いスキームで問題ないか確認することを推奨する。加えて、以下の対応が求められる。
・雇用者が外国人労働者に給与を支払い、また当該給与を負担する場合、外国人労働者と労働契約を締結する必要がある(労働契約を締結しない場合、法人所得税上、給与費用全額が損金不算入とみなされるリスクがあるため、留意を要する)
・雇用者が親会社に代わって外国人労働者の給与を立て替えるが、当該給与を負担しない場合には、子会社と親会社との間で、立て替えに関する契約を締結する必要がある

2.3 社会保険と健康保険
 ベトナムの法律上、社内異動の形態で働く外国人労働者は、強制社会保険4と健康保険5の納付義務対象外とされている。
 雇用者は上記2.1のステップ3で記載した任命書兼実務経験証明書及び労働許可証(または労働許可証免除証明書)など、就労形態を証明する書類を保管する必要がある。

おわりに
 社内異動の形態で外国人労働者をベトナムで勤務させる際には、留意すべきさまざまなベトナム独自の条件や規制及び具体的なプロセスなどが存在する。したがって、雇用者が社内異動の外国人労働者を雇用する必要がある場合、当該規制や実務上の慣行を明確に理解することが求められ、外国人労働者の雇用に関するベトナム法令を順守しなければならない。ベトナム子会社における人材ニーズに迅速に対応するためにも、ベトナムにおける外国人労働者の勤務開始日の少なくとも約4カ月前までには、外国人労働者の雇用に関する計画を立案することを推奨する。

1 政令70/2023/ND-CP第1条2項
2 政令152/2020/ND-CP第4条1項a項
3 政令152/2020/ND-CP第9条
4 政令143/2018/ND-CP第2条2項a項
5 2020年1月31日付保健省のオフィシャルレター第389/BYT-BH及び2020年2月18日付ホーチミン市社会保険のオフィシャル第288/BHXH-QLT

M000111-179
(2024年4月2日作成)

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