Reportレポート

構造、技術の変更又は経済的理由により従業員を解雇する場合の留意点

2023/09/22

  • 米国公認会計士
  • 逆井 将也

はじめに
 構造、技術の変更または経済的理由により従業員を解雇する場合、使用者は従業員との労働契約を解除する際の通常の義務に加えて、労働者使用計画を立案し、従業員に失業手当を支払わなければならない。そこで、当該理由による解雇の際に会社が留意する点を以下の通りまとめた。

. 企業が構造、技術の変更または経済的理由により従業員を解雇できる条件
労働法の規定によると、以下の場合に構造、技術の変更または経済的理由とみなされる。

構造、技術の変更とみなされる場合 経済的理由とみなされる場合
(1)労働編成構造の変更、労働の再編成
(2)生産品または生産品の構造の変更
(3)使用者の生産や経営業種に応じた生産・経営の公定、技術、機械、設備の変更
経済的理由により多数の労働者が職を失う可能性がある。
(1)経済恐慌または衰退
(2)経済再編の場合、国家政策の実施
(3)国際的約束の実施

 上記いずれかの場合で従業員(2人以上)の雇用に影響を与える場合、使用者は次の義務がある。

義務 留意点
(1)労働者使用計画を立案・実施しなければならない。また、新たな業務に従事させる場合、継続的に使用するために労働者を優先的に育成する。 労働組合執行委員会との意見交換は、2019年労働法第63条2項c、第64条1項と政令145/2020/ND-CP号第41条1項に規定されている対話の形式で実施しなければならない。
(2)使用者が雇用の問題を解決することができず、労働者を解雇しなければならない場合、労働法第47条の規定に従い、失業手当を支払わなければならない。 この場合、労働者が構成員である労働者代表組織がある職場では、当該組織と意見交換をした後のみ解雇できる。また、30日前に省級人民委員会および労働者に通知する。

Ⅱ.構造、技術の変更または経済的理由により従業員を解雇する手順
 構造、技術の変更または経済的理由により従業員を解雇する場合、企業は、2019年労働法および政令 145/2020/ND-CP号の規定に従い手続きを実施する必要がある。詳細を以下の通りにまとめた。

ステップ1:職場における民主的規則をレビューし、対話に参加する企業代表者リストと従業員代表者リストを作成する。
 対話参加者の人数および構成は、政令145/2020/ND-CP号第38条に次のように指定されている。

使用者 従業員
生産、経営の条件、労働編成に基づき、使用者は対話に参加する代表者の人数および構成を決定し、民主的規則で規定する。その内、法的代表者を含め、少なくとも3人の参加者を確保しなければならない。
また、政令145/2020/ND-CP号第48号に基づき、職場で民主的規則の構築、発行に留意する必要がある。
生産、経営の条件、労働者の人数および男女平等の要素に基づき構成を確定するが、参加者は以下の人数を確保しなければならない。
・50人未満の労働者を使用する場合:最小で3人
・50人から150人未満の場合:最小で4~8人
・150人から300人未満の場合:最小で9~13人
・300人から500人未満の場合:最小で14~18人
・500人から1000人未満の場合:最小で19~23人
・1000人以上の場合:最小で24人

 企業は上記に従い使用者と労働者間の対話に参加する代表者名簿を策定する必要がある。この名簿は少なくとも2年に 1回定期的に更新され、職場で公表される。対話期間中、参加できない代表者がいる場合、使用者または労働者代表組織は、代表者の交代・追加を検討し、決定する。

ステップ2:労働者使用計画を立案する。
 まず、労働者使用計画は、以下の内容を含まなければならない。
・引き続き使用する労働者、引き続き使用するために再訓練する労働者、パートタイ ム労働に移行する労働者の人数および名簿
・定年退職する労働者の人数および名簿
・労働契約を終了しなければならない労働者の人数および名簿
・使用者、労働者および労働者使用計画の実施にあたり関連する当事者の権利 義務
・計画実施を保証する措置および財政源

 次に、労働法の規定に従って、分類した従業員のリストに基づき、使用者は計画を実行するための予算を準備する。そのうち、使用者が従業員に支払う最大の費用の1つは、失業手当である。失業手当の支給額と計算方法は次の通りに定められている。

支給額:労働者に対して勤務1年ごとに1ヶ月分の給料相当の失業手当を支払う。
計算方法
 失業手当 = 失業手当算出のための労働期間 × 失業手当計算のための賃金額
注意
・受給額が給与の2ヶ月未満の場合、受給額は2ヶ月の給与に切り上げる。
・受給算定用の勤務期間 = 実際に働いた合計期間 - 失業保険加入期間 - 使用者から以前の失業手当が支払われた勤務期間 (ある場合)
・受給算定用の勤務期間は年単位で計算される(12ヶ月)
  – 1ヶ月以上 6ヶ月未満の場合、6ヶ月に切り上げ
  – 6ヶ月以上 12ヶ月未満の場合、1年に切り上げ

通常、企業は失業保険未加入期間に対して手当を支払う。試用期間、病気休暇、出産休暇(ある場合)などは失業保険未加入期間となる。
 実務上、構造、技術の変更または経済的理由により従業員との労働契約を終了する手続きは非常に複雑であるため、弁護士やコンサルティング会社に委託する場合が多い。したがって、使用者は失業手当に加えて、当該コンサルティング費用も予算として検討する必要がある。

ステップ3:企業の所有者は、構造、技術の変更計画の実施に関する決定書を発行する (構造、技術の変更の場合)。

ステップ4 : 労働者使用計画草案の内容について労働組合執行委員会と意見交換する。
 労働者使用計画を立案する際、使用者は職場の労働者代表組織がある職場で当該組織と意見交換をしなければならない。意見交換の手順は以下のとおりである。


 労働法によると、労働者使用計画は労働組合執行委員会の承認を得る必要はないが、労働組合執行委員会からの反対意見は従業員側との対立のきっかけにもなり得る。従業員の退職手続きが長期化する可能性もあるため、当該ステップは慎重に実施する必要がある。

ステップ5: 労働者使用計画を承認する。

ステップ6: 労働者使用計画を公表する。

ステップ7: 従業員を解雇することについて省級人民委員会に通知する。
 従業員を退職させる前に、使用者は30日前に省級人民委員会に通知する義務がある。法律には省級人民委員会に従業員の退職を通知する形式に関する具体的な規定はない。ただし、法律を最大限に遵守するために、書面で通知し、労働者使用計画および次のような関連文書を送付することをお勧めする。
・労働使用計画を立案する際の対話の議事録
・所有者と社員総会の労働使用計画の承認決定
・従業員を退職させる前の意見交換の議事録
・労働に関する権限を有する国家機関の案内文(ある場合)

ステップ8: 従業員を解雇する前に労働組合執行委員会と意見交換する。

ステップ9: 労働者に書面で労働契約終了の通知を送付する。

ステップ10: 労働者使用計画を実施し、失業手当を支払い、従業員に関する費用を清算する。
 労働契約終了日から14営業日以内に、使用者は以下の責任を負う。
 ① 従業員が権利を有する以下の項目をすべて清算する。
  ・従業員に給与を十分に支給する。
  ・未消化の年次有給休暇について給与を支払う。
  ・失業手当を支払う。
  ・その他従業員に未払の手当等を清算する。
 ② 社会保険、失業保険の費用を納入する期間を確認する。また、従業員の関連書類を保管している場合には、従業員に返却する必要がある。従業員が要求する場合、従業員の労働過程に関連する各資料の写しを提供する。

おわりに
 本稿では、構造、技術の変更または経済的理由により従業員を解雇する場合の留意点をまとめた。弊社の経験上、上記のすべての必要な手続きを完了するまでには6~12ヶ月かかる。本ケースに該当する企業は、法令に則った労働者使用計画を立案 実施し、従業員の権利を保障した上で、必要な手続きをスムーズに実施できるよう、本レポートをご活用いただきたい。

参考法令
・2019年労働法
・政令145/2020/ND-CP号

以上

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