Reportレポート

会計・税務上の工事契約にかかる収益・費用の計上について

2022/12/19

  • Le Thi Hoang Dung, Le Ngoc Quoc Bao

はじめに
 工事契約は、商品販売契約や通常のサービス提供契約と異なり、一般的に実施期間が長く複数の会計年度にわたって履行され、会計・税務で異なる規定が存在する。
 本レポートでは、ベトナム会計基準(VAS15号)及びベトナム法人税法の規定に基づき、工事契約にかかる会計及び税務上の取り扱いについて説明する。

1.ベトナム会計基準(VAS)上の工事契約に関する会計基準
1.1. 会計上の売上・費用の計上タイミング
 ベトナム会計上、工事契約の売上及び費用は、いわゆる工事進行基準もしくは工事完成基準を適用して計上する。2種類の基準には適用条件があるため、適用条件を 把握し、適切な計上方法を選択する必要がある。

〈工事進行基準適用時の留意点〉
 工事契約上、定められたスケジュールで工事代金の支払いを受けることができ、かつ財務諸表作成時点において実施した作業に対応する売上・費用が信頼性をもって計算できる場合は、いわゆる工事進行基準により売上を計上できる。
 実施した作業に対応する売上・費用が信頼性をもって計算されるためには、工事請負者は工事契約の工事原価総額の見積書、進捗状況をまとめた工事進行記録書、管理記録書などの資料を作成しておく必要がある。また、工事期間中に必要に応じて工事原価総額の見積もりを見直す必要がある。
 併せて、工事契約書にも支払いスケジュール、建設資産に対する双方の義務・権利、契約金額の変更要件及び支払期間・支払方法について明記しておく必要がある。
 工事進行基準により売上・費用を計上する際は、完成した作業量に対する発注者の承認及び請求書(debit noteもしくはpayment request)の発行は必要とならない。仮に発行されていたとしても、請求額に関わらず、請負者自身が見積もった作業量、作業項目に相当する売上・費用額を計上することになる。
 しかし当然ながら、工事代金の回収時には請求書(debit noteまたはpayment request)の発行が必要となる。

〈工事完成基準適用時の留意点〉
 工事契約上、完了し発注者の検収を受けた作業について支払いを受けることができることとされている場合は、発注者が検収した作業に対応する売上・費用を計上する。売上・費用の計上には発注者による署名付きの検収書が必要となり、そして計上される売上の金額は、工事契約上の請負金額となる。

1.2. 会計基準上の工事契約売上・費用の構成要素
〈工事契約売上の構成要素〉
 工事契約売上は工事契約書上の請負金額に、下記のような工事実施中に発生した収益の増減額を考慮する。
-発注者の注文項目が変更(追加または減少)され、当初の合意済みの工事契約売上が増減する。
-市場価格の変動により、原材料、人件費などの費用が増加または減少し、工事契約売上が増減する。
-当初のスケジュール通りに工事が進行できなくなったことにより、工事契約売上が減少する。
-当初のスケジュールより早期に工事が完了したことで、追加の報奨金を受け取ることになり、工事契約売上が増加する。
-発注者(または、その他の第三者)から、契約外で発生した費用の一部について還付を受ける場合で、還付金額が信頼性をもって計算でき、かつ、発注者が当該還付を承認しており還付金を回収できる可能性が高いと判断できる場合は、工事契約の収益とみなされる。

〈工事契約費用の構成要素〉
 工事契約費用の構成要素は下記の通りである。
-工事現場の人件費、物資の運搬費、機械の減価償却費、及び設計費用などの特定の工事契約に直接に関連する費用
-保険料や、建設工事にかかる全般的な管理費・設計費用・技術援助費用(特定の契約にかかる設計・技術援助費用を除く)で、個別の工事契約に配分可能なもの
-上記以外の工事関連費用(清掃費、整地費用、実現可能性調査費用、環境影響評価費用などの工事契約展開費用)で、工事契約に基づき発注者から工事請負者に支払われるもの

〈留意点〉
 合意済みの工事契約で規定されている収益以外で、追加の収入が発生した場合は、特定の工事契約に直接関連する費用を控除する必要がある。例えば、工事契約が完了した後、余剰資材及び機械設備などの売却により収入が発生した場合は、当該収益額を関連費用から控除する必要がある。
 また、販売費、工事契約の実施で使用されなかった機械設備の減価償却費、個別の契約に配分できない全般的な費用、及び発注者が工事請負者に支払う旨が工事契約に規定されていない契約展開費用は、工事契約費用として処理できず、販売費及び一般管理費として計上する必要がある。

2.ベトナム法人税上の売上・費用の計上
 税務上、工事進行基準と工事完成基準といった考え方は無く、税務規定に規定される書類・証憑を発行した時点で売上・費用計上が認められる。

2.1. ベトナム法人税上の工事契約売上の計上
 通達78/2014/TT-BTC第5条3項mによると、工事契約売上は検収済みの工事に対応する金額となる。すなわち、法人税上の売上計上タイミングは検収書における検収日となり、計上金額は発注者による署名付きの検収書に基づいて発行されたVAT電子インボイスの金額となる。
 2022年7月より、ベトナム全国において電子インボイスの 発行が求められるようになった。電子請求書の発行タイミングは、完成した工事の検収時点となるため、検収書の日付と同じ日付で電子インボイスを発行する必要がある。

2.2. ベトナム法人税上の工事契約費用の計上
 法人税上、工事契約費用の範囲は会計と同じである。ただし、法人税における一般的な損金算入要件として、事業活動への関連性、電子インボイス等の関連証憑の整備、ベトナムドン(VND)20mil以上の費用については非現金決済を行う必要がある。
 2022年7月からベトナム全国において電子インボイスの発行が求められるようになり、2022年6月30日以降は、紙のVAT(付加価値税)インボイスやコマーシャルインボイスの費用は損金不算入とみなされるため、留意が必要である。

おわりに
 以上、会計・税務上の工事契約売上・費用の計上方法について説明した。
 規定を理解することで、会計・税務それぞれにおける、売上と費用の計上の際に必要な書類を把握でき、実務上の混乱を回避することができる。また、税務上の売上及び費用の計上に必要な書類を網羅的に用意しておくことで、税務調査で指摘を受ける可能性が減り、結果的に法人税負担額の減少につながることが期待される。

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