駐在員の帰任時における個人所得税申告納税に関する留意点
2022/11/30
- Vo Thi Nguyen Linh
はじめに
駐在員がベトナムでの長期間滞在を終え、帰任する際、ベトナムで個人所得税の申告及び納税を行う必要がある。特に非居住者・居住者によって申告方法に違いがあり、留意すべき点も多い。
本稿では、帰任時に必要となる個人所得税の申告(以下、「帰任時申告」)に関する留意点を説明する。
1.帰任時申告
駐在員が帰任直前年度において居住者としての申告を済ませていても、その後帰任する際は、再度帰任時における居住者・非居住者の判定に基づき、以下の通り帰任時申告が求められる。
帰任時においてベトナムの居住者と見なされる場合、ベトナム出国日より45日以内に、出国日までの全世界所得に対して累進税率(5~35%)を適用した金額で、帰任時申告及び納税を行う必要がある。
一方、帰任時において非居住者と見なされる場合、出国日までのベトナムで生じた課税所得に対して固定税率(20%)を適用した金額を、月次の場合は翌月20日まで、四半期次の場合は各四半期終了後翌月の月末までに、帰任時申告及び納税を行う必要がある。
2. 居住者・非居住者の判定
帰任時における居住者・非居住者の判定は、以下の図のように行われる。
条件 | 判定 | |||
個人 | ベトナムに183日以上滞在している場合 | 居住者 | ||
ベトナムに183日未満滞在している場合 | 課税年度内で183日以上の賃貸契約及びベトナムのレジデンスカードを有していない場合 | 非居住者 | ||
課税年度内で183日以上の賃貸契約もしくはベトナムのレジデンスカードを有している場合 | 課税年度内で海外の居住署名書を有していない場合 | 非居住者 | ||
課税年度内で海外の居住署名書を有していない場合 | 居住者 |
出所:資料を基に執筆者作成
帰任後もベトナムで賃貸契約を有しており、またレジデンスカードを返却せず、賃貸契約及びレジデンスカードの有効期間が課税年度内で183日を超える場合には、居住証明書3が必要である。一方、今後ベトナムに戻る予定がないという理由で、賃貸契約を解約し、レジデンスカードを入国管理局に返却している場合は、居住証明書の準備は不要である。この点を留意されたい。
3.申告期間
月の途中で帰任する場合、1カ月単位で申告を行う必要がある。例えば、2022年8月15日にベトナム赴任期間が終了し、帰任する場合には、ベトナム居住者として8月31日を課税最終日として申告する。
しかし、2022年8月15日にベトナム赴任期間が終了したとしても、例えば9月5日にベトナムを出国する場合、法律上明確な定めはないが、実務上出国月の最終日(このケースでは9月30日)を課税最終日として申告する必要がある。そのため、ベトナム赴任が終了する月の最終日までに、ベトナムを出国するよう計画を立てることを推奨する。
4.居住者になる場合の確定申告書類の準備
居住者として申告納税する場合、準備が必要な書類は以下の通りである。
(1)日本本社の署名押印が必要な書類
・年間所得確認書(日本法人より受給している給与・手当の確認書)
・保険加入状況証明書(日本の社会保険料控除に関する証明書)
(2)納税者の署名が必要な書類
・個人所得税年間確定申告書
・ベトナム滞在日数サマリー表
2020年より申告書類の原本の提出は不要になり、当該申告書類のスキャンファイルにて電子申告することが可能となった。原本を郵送する必要がなくなってから、書類の準備に要する時間は以前より減ったものの、計算や社内承認等に時間を要することが予想されるため、時間に余裕を持って準備を行う必要がある。
おわりに
以上、駐在員の帰任時申告及び納税手続き関する留意点を説明した。帰任時申告を行う際は、居住者・非居住者の判定や、申告所得の範囲を正確に把握することが重要となる。個人所得税については厳しい税務調査が行われることも多いので、事前に専門家へ相談されることを推奨する。
参考文献
2013年8月15日付Circular No.111/2013/TT-BTC
2015年6月15日付Circular No.92/2015/TT-BTC
2015年5月5日付Official Letter No.1693/TCT-TNCN