Reportレポート

外国人労働者に対する社会保険一時金給付制度の規定および注意事項

2023/05/19

  • Nguyen Thi My Ngoc

はじめに
 社会保険一時金給付とは、現在は社会保険料を納付しているものの、引き続き社会保険に加入する意志がない、又は、退職年金受給の条件を満たしていない労働者に対して、一定の金額を支払う制度である。この制度は、外国人労働者に対しても適用される。
 本稿では、外国人労働者および雇用者であるベトナム企業が、社会保険一時金給付に関する権利内容を理解するのに役立つよう、社会保険一時金給付制度の受給条件、受給額、受給するための申請書類、および手続きや注意事項について解説する。

1. 社会保険一時金給付の条件
 ベトナムにおいて勤務する外国人労働者は、下記の条件を満たしている場合、社会保険一時金給付を申請することができる。

(1)ベトナムの強制社会保険の加入対象であり、既に加入している外国人労働者
 ベトナムで勤務する外国人労働者は次の4つの条件を満たした場合、ベトナムの強制社会保険の加入対象となる(※1)。

 1)労働許可証を有している。
 2)ベトナムにおける雇用者と、1年以上の有期契約の労働契約書を締結している。
 3)定年退職年齢に達していない(2023年の定年退職年齢は、男性が60歳9カ月、女性が56歳)。
 4)企業内異動に該当しない。

 上記の条件によると、勤務形態が「企業内異動」である労働許可証(または労働許可証免除証明書)を所有する外国人労働者は、強制社会保険の加入対象外となる。したがって、ベトナムの社会保険機関からの社会保険一時金給付の受給対象外となる。

(2)次のいずれかの場合に該当する外国人労働者
 1)ベトナムの法令に基づく退職年金の受給資格年齢に達しているが、社会保険納付期間が20年未満である。
 2)生命を脅かす疾病を抱えている(例:がん、ポリオ、肝硬変、ハンセン病、重度の結核、エイズに進行したHIV感染症、および保健省が規定するその他の疾病)。
 3)退職年金の受給資格を満たしているが、ベトナムに既に居住していない。
 4)ベトナムの雇用者との労働契約が終了している、又は労働許可証の有効期限が切れているが、延長手続きを行わない予定である。

 上記のうち、3)と4)は、ベトナムでよく見られるケースである。典型的な例として、外国人労働者が任期満了のため、ベトナムの会社を退職して帰国する場合が挙げられる。また外国人労働者が、会社との労働契約を一方的な意思表示および合意により終了させる、又は外国人労働者の労働許可証の有効期限が切れているが、延長手続きを行わない場合である。

 そのため外国人労働者は、上記の2つの条件のいずれかを満たしていれば、ベトナムの社会保険機関に対して社会保険一時金給付を申請することができる。なお、外国人労働者に対する社会保険一時金給付制度は2022年1月1日より発効しているため、外国人労働者は、現時点でベトナムにおいて、一時金給付の手続きを行うことができる。

2.外国人労働者の社会保険一時金の受給額
 社会保険一時金の受給額は、社会保険の納付年数に基づいて計算され、強制社会保険に1年加入すると、加入期間の社会保険料の根拠となる平均給与2カ月分に相当する金額を受け取ることができる(※3)。

3.外国人労働者の社会保険一時金を受給するための申請手続きおよび書類
(1)申請書類
 ベトナムの会社を退職する外国人労働者が社会保険一時金を受給するためには、社会保険一時金給付の申請書が必要である。

(2)手続き
 労働契約に基づく勤務を継続しない、又は労働許可証の延長手続きを行わない、社会保険一時金給付を希望する外国人労働者は、労働契約の終了日、又は労働許可証の有効期限の10日前までに、社会保険一時金給付の申請書類を提出する必要がある(どちらの期限が先に到来するかは事前に確認する必要がある)。
 管轄地域の社会保険機関は、規定に従った不備がない申請書類の受領日から最大5営業日以内に、書類を審査する(※4)。申請書類が承認された場合、社会保険機関は社会保険一時金給付、社会保険料納付記録書、社会保険一時金の受給額に関する決定を下す。
 社会保険機関による申請書類の審査のため、外国人労働者が社会保険一時金給付の受給資格を満たしていることを証明する書類を追加で提出するよう要求されることがある。そのため申請書類の処理期間が、実際にはもう少し長くなる可能性がある。

4. その他の注意事項
(1)社会保険機関への受給申請書類の提出形式
 2019年の決定166/QD-BHXH号および2021年の決定222/QD-BHXH号の規定によると、現在の提出形式は次の通りである。

 ・電子取引を通じて提出する。
 ・公共の郵便サービスを通じて提出する。
 ・社会保険機関にて直接提出する。

 社会保険一時金給付の申請を希望する外国人労働者は、以上の形式から自身の状況に合った提出形式を検討・選択できる。また関連書類や申請結果は、選択した提出形式(上記の3つの形式)に応じて通知される。一方、社会保険一時金は社会保険機関で直接受け取るか、公共の郵便サービスや個人口座を通じて受け取ることになっている。

(2)受給申請手続きの他者への委任
 社会保険一時金給付の申請手続きを把握している外国人労働者、また実際に申請した経験がある外国人労働者が、実際には少ないのが現状である。その理由として、外国人がベトナムで行政手続きを実施するのを躊躇していることが挙げられる。外国人労働者自身で手続きを実施することが困難な場合、社会保険一時金給付の申請手続きに詳しいベトナムの他者等に委任することができる。ただし、委任する際はベトナムの法令に従った委任状が必要となる。

おわりに
 ベトナムで勤務する多くの外国人労働者は、ベトナムの強制社会保険の加入対象になっており、社会保険料を納付しているが、短い勤務期間で帰国してしまうのが現状である。こうした中、法律によって与えられた権利を最大限行使するためにも、外国人労働者は社会保険一時金給付制度の条件を適切に理解し、該当する場合は給付申請書類を提出することを推奨する。
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参考資料
1:政令143/2018/ND-CP号第2条
2:政令143/2018/ND-CP号第9条第6項
3:政令143/2018/ND-CP号第9条第7項および2014年社会保険法の第60条第2項b
4:政令143/2018/ND-CP号第15条第3項

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