最新法令に基づく企業と労働者との秘密保持契約の留意点
2024/07/20
- Nguyen Thuy Trang
はじめに
ベトナムにおいて、企業利益を守るために、企業は労働者と競業避止義務および情報の秘密保持に関する契約を締結することができる。以前、弊社は労働者との秘密保持契約に関する注意点についてのレポート*を執筆したが、現在では、2019年労働法および関連資料にて、秘密保持契約に関する具体的な規定が明記されている。本稿では、最新法令に基づく秘密保持契約および契約締結時の注意点を解説する。
*https://www.i-glocal.com/service/write/pdf/igl_globalInformation_202009_1.pdf
1.営業秘密の概念
営業秘密の概念は、ベトナム知的財産法において、「財政的投資や知的投資から得られた情報であり、開示されておらず、かつ事業において利用可能な情報」と規定されている。
以下3点が法律によって保護される営業秘密の条件である。
(1)常識的ではなく、また容易に取得されない情報
(2)事業活動で使用されるときは、情報を所有・使用しない者よりも、その所有者に対して有利性がある情報
(3)開示されておらず、また容易に入手できないよう必要な措置を講じてその所有者が秘密を保持している情報
2019年労働法に基づき、営業秘密の保護に関する規定は、企業が労働者と労働契約を締結する際に、労働者に義務付けられるものである。同時に、労働者が営業秘密に直接関連する業務を行う場合、企業は労働者と営業秘密の保持に関する内容や違反行為などに対する賠償義務について、書面で契約する権利がある。
2.秘密保持契約の内容についての注意点
現行法では、秘密保持契約の具体的な内容に関する規定はないが、労働・傷病兵・社会問題省の通達第10/2020/TT-BLDTBXH号には、契約書の作成時に参考となる主要な内容について記載されている。詳細は以下の通りである。
(1)営業秘密のリスト
企業は、労働者に営業秘密の保護義務を順守させるために、企業が所有している営業秘密を特定し、必要に応じ説明を添えて詳細なリストを作成する。
例:情報技術分野の企業の場合、プログラミング手順やコードなどが含まれる。
(2)使用範囲
労働者がしてはいけない情報漏洩行為をリスト化し、使用範囲については時間経過とともに更新が可能である旨の規定を設ける。
(3)保護期間
労働者の保護義務の開始時点および終了時点を具体的に規定する。現行法では年数に制限がないため、労働関係終了後の期間(労働契約終了時点から3年間など)も含め、保護期間を決定する。
(4)保護方法
第三者への情報漏洩の禁止、競合他社での勤務の禁止、同業種会社設立の禁止のいずれか1つまたはすべてを検討し、契約を締結する。
(5)労働者の権利および義務
両当事者の利益を考慮し、調和のとれた契約にする必要がある。具体的には、秘密保持に関して一定の制限を課す代わりに、労働者は特定の利益および契約内容を履行できなかった際の賠償責任を希望できることとする。利益について、管理職など特定の労働者の場合は、労働契約終了後に労働者の秘密保持のために金額を支払うこと、あるいは当該労働者を社内でより高いポジションに配置させ、それに応じた給与を決定することなどを検討できる。責任について、違反した場合、労働者は退職前の12カ月分の給与の30%から50%に相当する額の賠償責任を負うといったことを検討できる。
実際には、企業と労働者の利益バランスを確保するために、秘密保持契約の策定には一定の制限が必要である。第一に、「契約書への署名の時期」である。労働契約書へ署名する前に秘密保持契約書に署名することで、労働者は利益と損失を考慮し、自身に適した解決策を選択できる。一方で、企業は、労働者が契約を履行する過程で、実情に応じて契約内容を更新できる。
第二に、「営業秘密の保持期間と場所」である。営業秘密の情報価値は、労働者のポジションや業務内容によって異なる。現行法では、秘密保持契約の内容が優先されるため、企業は各労働者との契約において具体的に営業秘密の保持期間と場所を規定する必要がある。
第三に、「契約の有効性」である。2005年のホーチミン市における判例第69号によれば、「秘密保持契約は労働契約とは独立した有効性がある」と判断された。したがって、労働契約が終了したとしても、秘密保持契約の内容は有効であることに留意する必要がある。
3.契約違反に対処する手続き
労働・傷病兵・社会問題省が発行した通達第10/2020/TT-BLDTBXH号の第4条第3項に基づき、労働者が秘密保持契約に違反した場合、企業は労働者に賠償を請求する権利がある。詳細は以下の通りである。
a)労働者が労働契約期間中に違反行為をした場合は、労働法に基づいて解雇および損害賠償の手続きが実施される。実際、労働契約期間中に労働者が犯した違反行為について、企業が労働者の過失と被った損害を証明できれば、違反行為を処分できる。
b)労働契約の終了後に労働者の違反行為が判明した場合は、民法またはその他の関連法令に基づいて、賠償の請求・賠償訴訟の提起を実施する。
秘密保持契約に関連する紛争の処理として、仲裁または裁判所のどちらの管轄下に属するかは複数の見解がある。実務上、一部の裁判所ではこれを民事紛争とみなし、両当事者が仲裁で解決することに合意した事例がある。実際に、ベトナムでは秘密保持契約に関連する多くの紛争が発生している。一例として、判例第69号では、ベトナム国際仲裁センター(VIAC)の仲裁において、労働者A氏が労働契約終了後の競業避止義務に関する契約に違反したことに対し、B社が要求した2,000万ドンの賠償金がすべて認められた。これに伴い、企業と労働者の合意によって秘密保持契約が締結された場合、法的効力が認められると同時に、労働者の違反行為に対し、企業は賠償の請求を検討できると評価している。
結論
秘密保持契約を締結することは、企業の情報漏洩を最小限に抑えるための効果的な手段である。2019年労働法では、秘密保持契約に関する規定が完全には明確化されていない点が多い。そのため、効果的な秘密保持契約を準備するために、企業は民法、知的財産法、競争法などの関連法令を参照するとともに、専門家の意見や実務事例を調査することを推奨する。
参考
・2019年労働法
・2019年知的財産法
・通達第10/2020/TT-BLDTBXH号
・2005年のホーチミン市における判例第69号
M000111-183
(2024年6月13日作成)