「頻繁に」業務遂行しない理由で労働契約を終了させる際の注意点
2024/08/20
はじめに
雇用者が労働者との労働契約を一方的に終了する法的根拠の一つとして、「労働者が頻繁に業務遂行しない」ことが挙げられる。一方で、この規定を正しく適用して労働者との労働契約を合法的に終了している雇用者は多くはなく、実際は雇用者が十分な理由なく労働契約を終了したり、法的手続きを遵守しなかったりする事例が多い。本稿では、雇用者が法律に従って一方的に労働者との労働契約を終了するための重要な注意点をいくつか紹介する。
1.労働契約終了の根拠
現行の労働法では、雇用者が一方的に労働者との労働契約を終了できるケースは7つのみと規定されている。その中で、労働者が頻繁に業務遂行しない場合に労働契約を一方的に終了するためには、雇用者は少なくとも以下の条件を満たす必要がある。
a) 労働者との労働契約において、業務内容に関する合意があること。
b) 法令に従って、労働者の業務遂行度における評価規程を作成し、公布すること。
c) (a)に記載される業務内容を満たしていない労働者を、評価規程(b)に基づいて詳細な基準で評価できること。
d) (c)の基準に基づいて労働者が「頻繁に」業務を遂行しないことを証明できること。
2.労働契約の終了手順
雇用者は、労働契約終了の根拠が十分であることに加えて、労働契約の一方的な終了が法的手続きを遵守できているかを確認する必要がある。具体的な労働契約の終了手順として、次の 4つのステップがある。
ステップ 1: 労働者との面談を行い、労働者の業務遂行度を評価する。
労働法では、雇用者が労働者との労働契約を一方的に終了する前にこの手続きを実行することを義務付けてはいない。ただし、これは労働契約を一方的に終了できる法的根拠の準備段階と考えられている。
労働者の業務遂行度を評価するための面談内容は、業務が遂行されていないことについての結論も含めて議事録に記載されるべきであり、雇用者は合理的な期間内に労働者に仕事の成果を改善するための計画を提案することができる。その後、労働者が引き続き計画に従って労働要件を満たさない場合、雇用者は次のステップ 2 に進むことができる。
ステップ 2: 労働契約の一方的な終了について労働者に事前に通知する。
労働法により、労働契約の種類に応じて、雇用者は労働契約の一方的な終了を以下の期限までに労働者に事前に通知しなければならない[1]。
⚫︎ 無期労働契約の場合:少なくとも45日前
⚫︎ 12 カ月から 36 カ月までの有期労働契約の場合:少なくとも30日前
⚫︎ 12 カ月未満の有期労働契約の場合:少なくとも3営業日前
この通知は書面で作成し、労働者が法定期限内に通知を受け取るようにする必要がある。特に、雇用者は労働者に事前通知の義務を履行したことを証明するために、通知した証拠を保管すべきである。
ステップ 3:労働契約の終了決定書を発行し、労働者に送付する。
雇用者は、労働契約の一方的終了の決定に基づき、労働契約の終了日、労働契約の終了理由、労働者への福利厚生の支払義務などの主要な内容を含む労働契約の終了決定書を発行する。このステップについては詳しく規定されていないが、実務上は、雇用者が労働者との労働契約を正式に終了する決定を下すステップと考えられている。
ステップ 4:労働契約を終了する際に雇用者の義務を履行する。
雇用者は、労働契約終了日から 14 営業日以内に、終了日までの給与、未払年次休暇、退職金(ある場合)など、労働者の福利厚生に関連するすべての支払いを実施する責任がある。また、雇用者は社会保険料や失業保険の加入時期を確認し、保管している他の書類がある場合は原本とともに労働者に返却しなければならない。
3.その他の注意事項
3.1. 業務遂行度の評価規程の内容に関する注意
第一に、労働法には、労働者の業務遂行度を評価するための基準を作成する際の詳細な指針がない。雇用者は業務内容、労働資格、各企業の特性に応じて、独自の評価規程を作成するが、これらの規程は以下のような定量的な原則に基づいて構築される必要がある。
⚫︎ 特定の製品や結果に基づいてパフォーマンスを評価できる職種の場合 (営業・マーケティング・カスタマーケア部門など):評価基準は、売上、収益、顧客数などの具体的な業績指標(KPI)であること。
⚫︎ 製品や結果に基づいてパフォーマンスを評価できない職種 (法務・管理・人事部門など):評価基準は、労働者の業務の有効性を評価するための具体的な尺度であること。
第二に、「頻繁に」の基準について、労働法には、これを定義付けるための業務遂行の期間等に関する規定がない。そのため、雇用者は次の点に注意すべきである。
⚫︎ 週・月・四半期・年次毎など、作業の完成度を評価する期間を明確に定義する。
⚫︎ 特定の期間内に2回作業を遂行しないなど、「頻繁に」仕事を遂行しないという概念を明確に定義する[2]。
3.2. 業務遂行度の評価規程の公布手順に関する注意事項
雇用者が労働者の業務遂行度の評価規程を作成・公布する際、「職場の労働者代表組織と意見交換」をしなければならない [3]。意見交換は職場での対話の形式で行い、対話の内容は文書に記録し、職場に公表する必要がある[4]。原則として意見交換するだけでよく、労働者代表組織に対して承認を求める必要はないと考えられる。
一方で、労働者の権利を保護する観点から、「意見交換」とは職場の労働者代表組織から「承認を得る」ことであるとの見解もある。そのため、雇用者は、意見の相違から生じる不必要なリスクを排除するために、作成・公布のプロセス内に上記の見解も組み入れるべきである。
おわりに
労働法上、雇用者には、労働者が頻繁に業務遂行しない場合に一方的に労働契約を終了する権利が与えられている。ただし、雇用者が労働契約終了理由の正当性を証明できない場合や、上記の手続きに従わない場合は、「一方的かつ不法な労働契約の終了」とみなされ、雇用者に賠償義務が発生することに加え、雇用者の評判にも影響を与える。そのため、雇用者は当該規制を適用する際には、慎重に事例を確認し、検討・準備することを推奨する。
[1] 2019年労働法第36条2項
[2] 2013年7月1日に失効した政令第44/2003/ND-CP号の精神に基づく
[3] 2019年労働法第36条1.a項
[4] 政令第145/2020/NĐ-CP号第41条