Reportレポート

飲食業のベトナム進出と店舗展開に伴うライセンス取得の最新実務

2024/10/07

  • Pham Thi Ut

はじめに
 近年日系大手飲食チェーンの海外展開が積極化しているが、2023年からその動きがベトナムにおいて特に顕著である。しかし、製造業、商社、IT・サービス企業などの従来から多くの日系企業がベトナムに進出している業種と異なり、飲食業のベトナム進出とその店舗展開は許認可の取り方が複雑かつ選択肢も多様であるため、進出前に正しい情報を入手して入念に検討する必要がある。本稿では、これからベトナム進出を検討する飲食業の一助となるために、最新法令と実務の両面を解説する。

I. 飲食業の許認可取得の流れ
 飲食業のベトナム進出の一般的な流れは以下の通りである。
 (1) 運営会社の設立
 (2)飲食業ライセンスの取得
 (3) 各店舗の運営に関する手続の実施
 各ステップの手続および実務上の留意点は次章から解説する。

II. 各許認可と実務上の留意点
   1. 運営会社の設立
 業種に関係なく、外国企業がベトナムに投資して事業を行う場合、「投資案件」として「投資登録証明書」(IRC = Investment Registration Certificate)を取得しなければならない。その後、その投資案件を実施する「現地法人」の設立登録を行い、「企業登録証明書」(ERC =  Enterprise Registration Certificate)を取得する。
IRC申請時点で、投資金額や事業内容以外に、その事業を行う「適切な場所」の住所も登録する必要がある。例えば、製造業であれば工場、コンサルティング業であればオフィスとなる。そのため、IRC申請時点で事業内容と適切な場所の両方を検討する必要がある。

 飲食業を行う場合、以下の2つのパターンが考えられる。
 パターン① 1店舗目の場所が決まっていて、その場所で現地法人を設立する
 パータン② 1店舗目の場所は未定で、現地法人設立後に店舗の場所を決める
 パターン①の場合は、IRC/ERCの事業内容を最初の申請時点から「飲食サービス」とし、現地法人の場所は1店舗目の住所にすることとなる。
実務的には、進出企業にとって1店舗目の場所は事業計画的にもマーケティング的にも非常に重要なため、検討に時間をかけることが一般的である。そのため、先に現地法人設立し、人材採用やその他現地での立ち上げ準備を進めるためにパターン②を選択するケースが多くみられる。
 パターン②の場合、まずは店舗とは別にオフィスの賃貸契約をし、商社やコンサルティング等の事業内容で会社を設立する。その後、IRC/ERC取得後に飲食サービスを事業内容に追加する。
 商社やコンサルティング会社の設立手続は準備時間も含めて3ヶ月程度を要する。会社設立完了後に、銀行口座の開設、資本金の送金、現地従業員の雇用、駐在員のビザ・労働許可証取得等が可能となる。

   2. 飲食業ライセンスの取得
 上記パターン②で進めるにあたり、以下2つのオプションがある。
 ・オプションA:会社の登記住所を第1店舗の場所に移転
  手続の都合上「飲食サービスの事業内容の追加」および「会社の住所変更」をまとめて一緒に申請し、IRCとERCの両方を修正する。
 ・オプションB:会社の登記住所を変更せず、第1店舗を支店として登記

 多店舗展開を見据えている場合は、店舗とは別の場所でバックオフィス業務を行うため、オプションBが選択されるのが一般的である。留意点として、現地法人(本店)と支店(店舗)はそれぞれ別々の「投資案件」と見なされるため、別々にIRCを取得する必要がある。
 どのような事業活動がIRC取得が必要な投資案件に該当するか投資法上は明確ではないが、実務上は飲食店舗それぞれの出店が1つの投資案件と解釈されることが一般的である。特にホーチミン市では最近IRCのない飲食店舗が計画投資局に指摘された事例があったため、店舗(支店)のIRC取得を強く推奨する。

 現地法人(本店)と各支店(店舗)の各種登記関連証明書は下記の通りである。

 各店舗のIRC申請時には「投資案件」の投資資本金を申請書類に明記する必要がある。各店舗の投資資本金は現地法人(本店)の払込資本(定款資本)より出資されるので、まず現地法人(本店)の増資が求められる可能性が高い。つまり、最初に申請した資本金はあくまで「本店の投資案件」だけの資本金とみなされ、店舗を追加する際は更に現地法人(本店)が増資し、その増資分を新規展開店舗の投資案件に充てるべき、という考えである。

 オプションBの具体的な手続は以下の通りである。
(i) 現地法人(本店)のERC修正
 飲食事業を追加登録し、払込資本も増資する。但し、現地法人(本店)のIRC修正は不要。
(ii) 支店活動証明書(BOC = Branch Operation Certificate)の取得
(iii) 支店の投資案件IRCの取得

 ここで一つ例をあげる。
 合計3千万円の資本金で、2店舗(1店舗あたりの資本金は1千万円)展開することを想定する。この場合、最大の留意点は最初の本店のIRCとERC 申請時に3千万円全てを申請せず、各店舗の資本金分を除いた金額(この場合は1千万円)のみで申請すべきという点である。店舗用の2千万円はERCの増資を申請後、店舗IRCにて申請する。

 なお、店舗の場所はオプションA、Bにかかわらず以下に留意する必要がある。

・出店場所の種類により、オプションAの本店IRCの修正およびオプションBの支店IRCの取得難易度が変わる。
 店舗が路面店の場合、当該地域(例えば、ホーチミン市の場合は各区)の都市計画への合致や治安および交通への影響等が厳しく審査され、手続期間が延び、場合によっては否認される可能性がある。
 店舗がモール内の場合、モールの建設認可時に飲食店も考慮し認可されているため、路面店より取得難易度が低くなる。

・物件の法的書類(土地使用権証明書、物件所有権証明書、建設許可証、承認済設計、貸主の経営許可等)を許認可発行機関に提出する必要があり、賃貸契約時に全ての書類が揃っていることを貸主に事前に確認することを推奨する。

   3. 店舗運営に関する手続
 飲食業のライセンス登録完了後、開業までに主に3つの対応が求められる。
 ①食品安全条件の充足に関する証明書の取得
当該証明書の申請するためには店長と料理人の食品安全研修を実施し、完了確認書を提出する必要がある。実務上は、店長が外国人である場合は外部へ委託し、代理で研修を実施することも認められている。
 証明書の有効期間は3年で、その後更新手続を実施する必要がある。

 ②店舗内の酒類提供の登録
 管轄基幹(区の人民委員会)に酒類提供に係る登録(店舗内での提供)が必要となる。(アルコール度数により手続内容が異なる)
また、酒類の輸入に関するライセンスは取得が非常に難しいため、ベトナム現地の酒類輸入業者から購入するのが一般的である。

 ③店舗の消防法準拠証明書の取得
店舗の新装工事をするにあたり消防法の各種条件を満たしていることの証明書を取得する必要がある。(店舗の面積により手続内容に違いあり)
店舗工事業者が実施するケースも多い。

   4. その他留意事項
 その他の留意事項として、主なものを列挙しておく。

 ①労務
 店舗でアルバイトを雇用する際、ベトナム労働法に基づきパートタイムの労働契約書を締結する。基本的にパートタイムに対しても有給休暇や社会保険加入等は正社員と同様に取り扱う必要がある。一方、法令に定められていない制度(各種手当の支払等)の適用有無は会社が決定できるため、社内規定で明確化しておくべきである。
また、外国人従業員は労働許可証を取得する必要がある。特に料理長として労働許可証を取得するには「3年以上の料理長の経験を持ち、かつ大学卒業」という条件を満たすことが求められる。ただし、大卒の条件を満たさない場合、料理長のタイトルで労働許可証の取得はできず、一般の料理人として申請することとなる。なお、一般の料理人の条件は「3年以上の料理人の経験を持ち、かつ専門学校以上卒業」もしくは「5年以上の料理人の経験を持つこと」である。

 ②税務
 税務上、仕入費用を損金算入にするためには原則としてVAT(付加価値税)インボイスを取得する必要がある。特に市場や小規模業者から材料等を調達する場合、VATインボイスを発行してもらえないケースが多い点に留意すべきである。
一方、会社が顧客へVATインボイスを発行する際、当日以内に各会計毎に発行しなければならない。

 ③顧客の個人情報の取り扱い
 2023年7月に発効された個人情報保護の政令13/2023/ND-CP(政令13号)に基づき、個人顧客の氏名や電話番号等のデータを取得し保管している場合、適切に管理することが求められている。個人情報保護規定を作成し、公安省に提出する等の各種手続を実施する必要がある。

おわりに
 本稿では、飲食業がベトナムに進出する際に必要な手続を法令と実務面から説明した。特に多店舗展開する場合、各店舗が投資案件とみなされIRCを申請する必要があるため、スピーディーに店舗展開するには法令と実務の正確な理解と入念な計画が不可欠となる。ベトナム人名義でローカル企業として展開する事例や、外資系企業で登記するものの各店舗のIRCを取得しない事例もあるが、今後法令違反の取り締まりが厳しくなる可能性が高く、中長期的に運営に支障が出ることが想定される。そのため、本校を参考に保守的に各種許認可の取得を検討されることをお勧めする。

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