2024年社会保険法の主要な変更点 Part2
2024/10/20
- Vu Hai Yen, Tran Thi Thu Uyen
はじめに
前回の記事で2025年7月1日より施行の2024年改正社会保険法(以下「改正法」)について解説した。本稿も引き続き、今回の改正により変更された労働者の権利と雇用者の責任について解説する。社会保険加入対象者、社会保険料納付の基礎、社会保険の一時給付金等に加え、ベトナムにおける強制社会保険加入者の権利と罰則についても改正されている。雇用者と労働者が改正内容を正確に理解することで十分なメリットを享受するとともに、法令違反の防止にお役立ていただきたい。
1.社会保険料の滞納および納付回避行為に係る罰則の強化
雇用者による社会保険料の滞納および納付回避行為は労働者の権利にマイナスの影響をもたらす。改正法では滞納および納付回避行為への対応策をより具体的に規定している。詳細は以下の通りである。
2024 年社会保険法第40条および41条
「1. Enforced payment of the arrears plus an interest of 0,03%/day on the arrears to the social insurance and unemployment insurance funds.
2. Administrative penalties as prescribed by law.
3. Disqualification from commendation and awards.」
本条第 1 項には、今後明確な罰則が明記される予定である。行政罰金に関しては以下の通り規定されている。
政令第 12/2022/ND-CP:
+ 社会保険料を滞納した雇用者は、行政違反記録を作成する時点で、強制社会保険料総額の 12~15%の行政罰金が科される。しかし、75,000,000 VNDを超えないものとする (第 39条第5項)
+ 社会保険および失業保険の納付回避行為を行っているが、刑事訴追されていない雇用者は50,000,000 ~ 75,000,000 VNDの行政罰金を科される可能性がある (第39 条第7項)
組織に対する罰金は個人の2倍である (政令 12/2022/ND-CP第6条第1項)ことに加え、6ヵ月以上社会保険料を滞納した企業はウェブサイトの社会保険債務者リストにて公表される点にご留意いただきたい。
現在、企業の労働状況や社会保険の納付状況の調査が厳格化されており、調査対象は新設事業者や設立3~5年目の事業者へも拡大されている。2024年改正社会保険法は雇用者の社会保険料の滞納や納付回避行為に対する制裁の強化を目的にしていると考えられる。労働局と社会保険局より法令違反を指摘されるリスクを軽減するために、雇用者は社会保険に関する社内規定を十分に見直し、適切に運用する必要がある。
2. 特殊な社会保険対象者が享受可能な権利の明確化
2014年社会保険法は、外国で働くベトナム人労働者が社会保険により享受可能な権利を明確に規定していなかった。そのため改正法では第8条に以下の規定が追記された。
「In case a international treaty to which the Socialist Republic of Vietnam is a signatory has a specific period of social insurance participation by workers in Vietnam and overseas as a condition for receiving social insurance benefits, the social insurance payout in Vietnam shall be calculated according to the period over which social insurance is paid by the employee in Vietnam.」
外国で勤務し、過去から現在まで継続的にベトナムで社会保険料を納付しているベトナム人労働者は、ベトナムに帰国後、給付金を受け取ることが可能となった。
現在、ベトナムは韓国のみと社会保険協定を締結している。社会保険協定が締結される前に、労働者は両国で社会保険料を支払う必要があり、自国以外の社会保険加入時間を累積することはできなかった。そのため労働者は通常以上の社会保険料の納付が求められていた。社会保険協定の締結により、一方の国で働く他方の労働者は社会保険の二重支払いを避けることが可能となり、適切な社会保険の権利を得ることとなった。
一方で、現状、ベトナムと日本は社会保険協定を締結していない。そのため労働許可証と 12ヵ月以上の労働契約を有する労働者は強制保険の対象となる。
しかし、政令 143/2018/ND-CP 第2条第2項および政令 11/2016/ND-CP 第3条第1項に基づき、社内異動の条件を満たす外国人労働者は、社会保険と健康保険の納付義務対象外とされている。社会保険の対象の該否は発行された労働許可証に基づいて決定されるため、労働許可証を取得される際にはご留意いただきたい
3. 年金受給条件を満たさない労働者および社会年金の受給年齢に達していない労働者対する毎月の給付金
改正法公布前は、年金受給条件を満たさない労働者および社会年金の受給年齢に達していない労働者に対する制度が規定されていなかった。改正法第23条により、以下の2つに当てはまる場合には毎月給付金が支給される。
・退職年齢に達しているが年金を受け取るために十分な期間社会保険料を納めておらず、かつ社会年金給付を受ける資格がない場合。
・社会保険一時金を未受給もしくは請求中の場合毎月給付金が支給される。
詳細は下記の通りである。
2014 年社会保険法 | 2024 年社会保険法 | |
年金受給条件 |
+社会保険料を20年以上納付済み + 一般的な受給年齢:男性 60 歳、女性 55 歳 (2014年社会保険法第54条) |
+ 社会保険を15年以上納付済み + 一般的な受給年齢:男性61歳、女性56歳4ヵ月 (上記は2024年の定年である。以降、男性は2028年に62歳に達するまで毎年3ヵ月ずつ、女性は2035年に60歳になるまで毎年4ヵ月ずつ定年が延長される) (2024年改正社会保険法第64条と労働法第 169 条) |
上述の改正点はベトナム国民にのみ適用される。20年間社会保険に加入することで初めて年金を受給できるという条件について、国民は期間の長さに不満を持っており、社会保険加入に対する意欲が低下していたことが課題であった。改正法により、加入が遅れたケースや断続的に加入したケースにおいても、15年間社会保険料を積み立てることで毎月年金を受給できるようになる。上記給付金は、労働者が使用する保険代理店にて自分自身で手続きを行う必要がある。
おわりに
改正法は労働者の権利を拡大し、国内外の社会保険加入者に十分な給付を保証するとともに、雇用者に対して法令遵守を求める内容となっている。社会保険法は段階的に変化すると考えられており、今後の政令でより具体的な指針が示される可能性が高い。改正され次第、今後も引き続き情報を共有する。
参考文献
・2014年社会保険第
・2024 年社会保険法第
・政令第 12/2022/ND-CP
・政令 143/2018/ND-CP