不法解雇と法的リスクについて
2024/12/19
- Tran Ha My
はじめに
解雇は、雇用者と労働者間の労働関係が終了することを意味する労働者に対する最も厳しい処分である。したがって、解雇については法令で厳密な規定が定められており、不法解雇が行われた場合、雇用者は賠償金や行政罰等の法的リスクを負うことになる。そこで本稿では、解雇が不法とみなされる場合と、それに伴う法的リスクについて説明する。
1. 不法解雇とは
解雇は、労働者の重大な規律違反行為に対する懲戒処分の一つであり、法律によって雇用者に適用が認められている。解雇を行うには、次の4つの要件を満たす必要がある。
第一に、解雇が法定の事由によるものであり、かつ根拠が明確であること。
譴責、最長6カ月の昇給延期、降格といった懲戒処分については、雇用者が独自に違反行為を規定し、これらの処分を適用することが法律で認められている。しかし、解雇に関しては、法律で定められた具体的な事由が必要であり、雇用者が独自に規定することは認められていない。例えば、2019年労働法第125条において、職場での窃盗や横領、経営上の機密情報の漏洩などが解雇事由として定められている。したがって、解雇を行う前に、雇用者は、労働者が法定の解雇事由に該当する行為を行ったことを証明し、その根拠を明確にしなければならない。
第二に、解雇の原則および手続きを遵守すること。
解雇には、2019年労働法第122条、第127条および政令145/2020/NĐ-CP第70条で定められた手続きを遵守することが求められる。例えば、雇用者は労働者の過失や違反行為を証明し、懲戒手続きにおける各ステップ(記録作成、証拠収集、会議招集手続きなど)を適切に実施し、その内容を議事録として記録することなどが求められる[1] 。
第三に、時効期限内の処分であること。
解雇を含む懲戒処分には時効があり、違反発生日から6カ月以内に行わなければならない。ただし、財務や資産、機密情報漏洩に関する場合は12カ月となる。また、労働法第122条第4項では、妊娠中や産休中、12カ月未満の子を養育中、または拘留中の労働者には懲戒処分を行ってはならないと定めており、労働者が前述の状態にあることで処分の時効が切れた場合、または残りが60日未満となった場合、時効は時効終了日より最長60日まで延長できる[2]。
第四に、解雇を行う担当者が適切な権限を持つ者であること。
解雇を行うためには、会社の就業規則にてあらかじめ定められた者が実施する必要がある[3]。
これら雇用者が上記の4つの要件を満たさずに解雇が行われた場合、その解雇は不法とみなされる。
2. 不法解雇に伴う法的リスク
解雇処分は労働関係の終了を意味する。そのため、不法解雇が行われた場合、雇用者には一方的な契約終了の場合と同様の法的リスクが伴う。
第一に、労働者による異議申立てや訴訟のリスク
労働者が不法解雇を受けたと判断した場合、雇用者に対して異議申立てや訴訟を起こす可能性がある。これらは労働者が持つ基本的な権利である[4]。労働者は解雇決定書を受け取った日またはその内容を知った日から180日以内に「第一次異議申立て」を行うことができる[5]。 もし第一次異議申立てが受理されない、または適切に解決されなかった場合、労働者は労働傷病兵社会局の監察長に第二次異議申立てを起こすことができる[6]。 さらに、労働者は異議申立て手続きをスキップし、訴訟を起こすことも可能である。訴訟の時効は解雇決定日から1年とされている[7]。 異議申立てや訴訟が発生した場合、雇用者はその対応に多大な時間と費用を費やすことになる。
第二に、不法解雇に関連する雇用者の義務
雇用者は不法に労働契約を終了した場合、以下の義務を履行しなければならない[8]。
雇用者の義務
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ケース1: 雇用者が、締結済みの労働契約に基づいて労働者を再雇用する場合 | ケース2: 雇用者が締結済みの労働契約に基づいて労働者を再雇用するが、労働者が継続を希望しない場合 | ケース3: 雇用者が労働者の再雇用を希望しないことに対して、労働者も同意する場合 |
(i) 労働者が就業できなかった日数について、雇用者は給与を支払い、必須の各種保険料を納付する | ✔️ | ✔️ | ✔️ |
(ii) 労働契約に基づく2カ月分の給与に相当する最低限の追加支払いを行う | ✔️ | ✔️ | ✔️ |
(iii) 退職手当を支払う | ✔️ | ✔️ | |
(iv) 労働契約を終了するために、労働契約に基づく2カ月分の給与に相当する最低限の追加賠償額について合意する | ✔️ |
上記のケース1において、労働契約で締結した職位や業務がなくなった場合、雇用者は労働者に対して新たな職位や業務を割り当てる責任を負う。双方で協議の上、労働契約を適切に修正・補足する必要がある[9]。
上記の雇用者の義務 (i) に関して、現行法では「労働者が就業できなかった日数」の具体的な計算方法が明記されていないが、多くの裁判所は、不法解雇の決定書を受け取った日から裁判所の最終判決までの期間を「就業できなかった日数」とみなしている。労働争議の解決には通常数年かかることが多いため、裁判所が解雇を不法と判断した場合、雇用者は上記の期間にわたる給与や必須保険料を支払うことになり、コストの負担は大きい。
第三に、行政罰のリスク
解雇手続きを法令に従って行わなかった場合、雇用者は10,000,000~20,000,000 VNDの罰金が科される可能性がある[10]。 また、根拠なく懲戒処分を行った場合や懲戒処分の代わりに給与を差し引いた場合などには、40,000,000~80,000,000 VNDの罰金が科されることがある[11]。
おわりに
解雇は、企業の労働秩序と規律を保つために法的に認められた懲戒処分の一つである一方で、雇用者が法律を遵守せずに解雇を行うと、法的リスクを伴う。そのため、雇用者は懲戒処分を行う際、特に解雇を適用する場合には、法令を理解し、実施要件を十分に把握した上で、適切に対応することが必要不可欠である。
[1] 2019年労働法第122条
[2] 2019年労働法第123条
[3] 2019年労働法第118条第2項のi号
[4] 2019年労働法第131条
[5] 政令 24/2018/ND-CP号第 7 条第 1 項
[6] 政令 24/2018/ND-CP第 15 条第 1 項
[7] 2019 年労働法第 190 条第 3 項
[8] 2019 年労働法第 41 条
[9] 2019 年労働法第 41 条第 1 項
[10] 政令12/2022/NĐ-CP号第19条第2項のdd号
[11] 政令12/2022/NĐ-CP号第19条第3項のc号