Reportレポート

不誠実な情報提供を理由とした労働契約解除の留意点

2025/02/26

  • Ho Thi Y Nhi

はじめに
労働契約の締結時に、労働者が虚偽の情報を提供し、それが採用に悪影響を与えた場合、雇用者は労働契約を一方的に解除できるとする規定が2019年労働法に設けられた。この規定は、雇用者がそのような労働者との関係を能動的に解消できる新たな制度である。しかし、施行から一定期間が経過した現在でも、実際の適用例は限られている。そこで本稿では、この規定に基づいて一方的に労働契約を解除する際に、雇用者が留意すべきポイントを解説する。

1. 一方的な労働契約解除の根拠

労働契約を締結する際、労働者には雇用者に対して正確かつ誠実な情報を提供する義務がある。例えば、氏名、学歴、健康状態の証明書などの基本情報、職務経験、外国語能力証明書、職業資格証明書など雇用者が求める労働契約の締結に直接関連する情報が含まれる。これらは、雇用者が採用の可否を判断する上で重要な基準とされる。
2019年労働法第36条第1項g号は、労働者がこれらの情報を不誠実に提供し、それが採用に影響を与えた場合、雇用者が一方的に労働契約を解除できる権利を規定している。一方で、現行法では『採用に影響を与える不誠実な情報提供』の具体的な定義が明記されていない。そのため、雇用者が一方的に労働契約を解除するには、労働者が故意に虚偽情報を提供した、不正確な情報を提示した、または重要な情報を隠匿したことを証明し、さらにそれが採用決定に直接的な影響を与えたことを立証する必要がある。

2. 一方的な労働契約解除のフロー

2019年労働法第36条第2項では、雇用者が一方的に労働契約を解除する場合、契約の種類や業務内容に応じた最低限の通知期限を守る必要があると定められている。実務上、一方的に労働契約を解除する際は、以下の4つのステップを踏むことが一般的である。

(1) (2) (3) (4)
労働契約解除の根拠を確定 労働者に対する一方的な契約解除の事前通知 労働契約解除の通知 業務の引き継ぎと労働契約終了時の義務の完了

ステップ①:労働契約解除の根拠を確定
雇用者が一方的に労働契約を解除できるかどうかを判断する上で、最も重要なステップである。実務上、雇用者は労働者が不誠実な情報を提供し、それが採用に影響を与えたことを証明するため、さまざまな方法を適用する。例えば、労働者に対して文書での説明を求めたり、提供された情報を照合するために原本または公証済みコピー版を提供させたり、あるいは前職や資格証明書の発行機関に連絡して情報を確認することなどが考えられる。また、健康状態や実際の能力を再検査することも一般的な手段である。

ステップ②:労働者に対する一方的な契約解除の事前通知
雇用者が労働契約を一方的に解除する場合、以下の期限内に労働者に通知しなければならない。

対象

最低限の通知期限

無期労働契約で働く労働者 45日
12ヶ月から36ヶ月の有期労働契約で働く労働者 30 日
12ヶ月未満の有期労働契約で働く労働者 3 営業日
無期労働契約、または12ヶ月以上の有期労働契約で働く企業の管理者(会社の会長、社長または総社長など) 120日
12ヶ月未満の有期労働契約で働く企業の管理者(会社の会長、社長または総社長など) 労働契約期間の1/4
(例)8ヶ月間の労働契約であれば、期間終了の2ヶ月前となる。

法令には通知方法に関する規定はないが、雇用者は通知義務を確実に履行した証拠を残すために、文書の作成や電子メールでの送信など、保存可能な形式で通知することが望ましい。

ステップ③:労働契約解除の通知
一方的に契約解除する前の事前通知義務に加えて、労働契約を2019年労働法第45条に基づき解除する場合、雇用者は書面で労働者に通知しなければならない。実務上は、雇用者はこの通知義務を果たすため、「労働契約解除決定書」を作成し、遅くとも労働契約解除日までに労働者に送付することが一般的である。

ステップ④:業務の引き継ぎと労働契約終了時の義務の完了
労働契約終了前に、雇用者は労働者に業務の引き継ぎと会社から提供された道具や設備の返却を完了させるよう要求すべきである。また、労働契約終了の際には、雇用者は労働者に対し、労働契約終了日から14営業日以内に、労働契約終了日までの給与、未消化の年次有給休暇日数、退職手当(該当する場合)など、すべての福利厚生を支払う義務がある。さらに、雇用者は社会保険や失業保険の加入期間確認手続きを完了させ、労働者から預かっている書類の原本を返却するとともに、労働局や社会保険機関などの関係機関に報告する義務もある。

3. その他の注意点

3.1. 一方的な労働契約解除が禁止されている場合
法律は、病気や事故、業務に起因する病で治療または養生中の労働者、妊娠中の女性労働者、産前産後休暇中または1歳未満の子どもを養育中の労働者など、雇用者が一方的に労働契約を終了することができない場合の特例を定めている。したがって、労働者が上記の情報を不誠実に提供し、採用に影響を与えた場合でも、これらの特例に該当する労働者に対しては、一方的に契約を終了することは認められない。

3.2. 不法な一方的労働契約解除に伴う法的リスク
雇用者が正当な根拠なく労働契約を終了した場合、または労働者に対する一方的な契約終了について事前通知を行っていない、または法定の通知期限を守っていない場合、さらには契約終了が禁止されている労働者に対して一方的に契約を終了した場合(上記1、2、3.1を参照)、その契約終了は不法とみなされる。
不法な契約終了と認められた場合、雇用者は労働者を再び働かせる義務を負う。また、労働者が働かなかった期間の賃金の支払いと、社会保険(社会保険、健康保険、失業保険)の納付を行う必要がある。また、契約に基づく賃金額で賠償金を支払う義務も生じる。さらに、不法な契約終了は労働争議を引き起こす可能性がある。その解決には時間と費用がかかり、場合によっては雇用者の評判や信用に悪影響を与えることもあるため、注意が必要である。

3.3. 労働契約終了の確認過程における個人情報の取扱い
労働者が虚偽の情報を提供し、その情報が雇用者の採用決定に影響を与えたことを確認する過程で、雇用者は労働者の個人情報を取り扱うことがある。情報の確認や検証、送信といった活動には、労働者の個人情報が含まれる場合がある。つまり、労働者の個人情報処理活動が発生する。
ベトナムの個人情報保護規定に基づき、雇用者は個人情報を処理する前に、情報主体である労働者から同意を得る必要がある。そのため、雇用者は労働契約締結時に、労働契約終了の根拠を確認するために個人情報を処理することについて、あらかじめ労働者の同意を得ることを確実に実施しなければならない。

おわりに
本稿では、労働者が不誠実な情報提供を行ったことが理由の労働契約解除について、留意点を説明した。雇用者は労働契約を一方的に終了する前に、確固たる根拠を明確にし、その根拠を十分に裏付ける必要がある。労働争議のリスクを最小限に抑えることができるよう、本稿をご活用いただきたい。

参考文献:
・2019年労働法
・政令 145/2020/ND-CP号
・個人情報保護に関する政令 13/2023/ND-CP号

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