Reportレポート

プロジェクトオフィスに関する会計・税務の留意点について

2022/07/28

  • 米国公認会計士
  • 逆井 将也

はじめに
 プロジェクトオフィスとは、ベトナム企業と建設契約を締結する際のベトナムにおける外国企業の運営形態の1つである。現地法人または支店等のその他の設立形態と比較し、簡易的な会計帳簿の作成や税務申告が認められており、運営面での管理もしやすいことから、ベトナムで建設事業を行う際にプロジェクトオフィス設立を選択するケースも多い。そこで本稿では、プロジェクトオフィスの会計税務の留意点を中心に解説する。

1.会計上の留意点
 プロジェクトオフィスは建設局の許認可を受けて設立され、設立後には税務コードが付与される。会計帳簿はベトナム会計基準(VAS)に基づき作成が必要となる。ベトナム会計基準の適用にあたり、以下の点に留意いただきたい。

・事業開始日から90日以内に、管轄税務局にベトナム会計制度の適用通知を行う。
・税務局に通知した納税方式に基づき会計帳簿を作成する。
・請負契約毎に収益・費用を管理する。
・国の重要なプロジェクトまたは国の予算によりプロジェクトが実施される場合、決算書の会計監査を受ける義務がある。その他のプロジェクトオフィスは、決算書の会計監査を受ける義務はないが、ベトナム政府としては監査を受けることを奨励している。

2.付加価値税(VAT)及び法人税(CIT)上の留意点
 付加価値税(VAT)と法人税(CIT)の申告・納税について、以下の3つの方式がある。
・申告方式:現地法人と同様の方式で、控除方式に従ってVATを申告・納税する。課税所得を確定するために売上・費用を計上する。
・直接方式:売上に規定の税率をかけてVATとCITを計算し、申告・納税する。
・ハイブリッド方式:申告方式と直接方式の折衷方式で、申告方式に従ってVATを計算し、直接方式に従いCITを計算し、申告・納税する。

 各方式の概要は以下となる。

内容 方式①:申告方式 方式②:直接方式 方式③:ハイブリッド方式
適用対象 外国請負業者は、下記の全ての条件を満たさなければならない。

  1. 1. ベトナムに恒久的に施設を有すること、またはベトナム居住者であること
  2. 2. 請負契約または下請負契約に基づくベトナムでの事業期間は183日以上であること
  3. 3. ベトナム会計制度を適用する事。税務コードを登録し、税務局から税務コードを付与される。
方法①の適用条件のいずれかを満たさない場合に適用する。 外国請負業者は、下記の全ての条件を満たさなければならない。

  1. 1. ベトナムに恒久的に施設を有すること、またはベトナム居住者であること
  2. 2. 請負契約または下請負契約に基づくベトナムでの事業期間は183日以上であること
  3. 3. 会計法に基づき会計帳簿を作成すること。税務コードを登録し、税務局から税務コードを付与される。
制度適用 ベトナム会計制度を適用する。売上および費用を計上し、現行の標準税率に基づき、納税額を計算する。 ベトナム会計制度を適用しない。売上に対して規定の税率を適用し納税額を計算する。 ベトナム会計制度を適用する。仕入インボイスと売上インボイスに基づき、VAT額を計算する。売上に対して規定の税率を適用し、CIT額を計算する。
VATの申告 月次/四半期ごとに申告・納税する。 月次/発生都度申告・納税する。 月次/四半期ごとに申告・納税する。
CITの申告 四半期ごとに仮納税を行い、年末に確定申告を行う。 月次/発生都度申告・納税する。プロジェクト完了時に決算処理を行う。 月次/発生都度申告・納税する。プロジェクト完了時に決算処理を行う。
VATの計算 ・VAT額 = 売上VAT – 仕入VAT
・VATの標準税率は10%
・VAT = 商品・サービスの金額 × 税率
・VAT額 = 売上高 × 規定の税率
・建設事業に対する適用税率:3% (資材・機械・設備の供給を伴う場合)、5% (資材・機械・設備の供給を伴わない場合)
・VAT額 = 売上VAT – 仕入VAT
・VATの標準税率は10%
・VAT = 商品・サービスの金額 × 税率
CITの計算 ・CIT額 = (売上額 – 損金参算入可能な費用) × 税率
・CITの標準税率は20%
・CIT額 = 売上額 × 規定の税率
・建設事業に対する適用税率は2%
・CIT額 = 売上額 × 規定の税率
・建設事業に対する適用税率は2%
メリット ・プロジェクト毎の利益を明確に管理できる。
・仕入VAT額が売上VAT額よりも大きい場合、VAT還付を受けられる。
・費用・手間・時間を軽減できる。 ・CIT申告の手間を軽減できる。
・仕入VAT額が売上VAT額よりも大きい場合、VAT還付を受けられる。
デメリット ・会計記帳や税務申告が必要なため、費用・手間・時間がかかる。
・プロジェクトオフィス閉鎖時に、税務調査を受ける必要がある。
・ベトナムに恒久的施設を有する企業が、プロジェクトオフィスを設立する場合は適用できない。
・売上高に対して規定の税率を適用し税額を計算するため、多くの場合、他2つの方法より納税額が高くなる。
・VAT の還付が受けられない。
・会計記帳や税務申告が必要なため、費用・手間・時間がかかる。
・プロジェクトオフィス閉鎖時に、税務調査を受ける必要がある。

3.個人所得税(PIT)上の留意点
 PIT 申告における留意点は以下の通りである。
・プロジェクトオフィスから直接所得が支払われる個人に対して、プロジェクトオフィスは源泉徴収を行い、個人所得税フォームで月次/四半期ごとに申告・納税する必要がある。
・国外から所得が支払われる個人の場合、個人で税務局に個人所得税申告・納税する必要がある。

4.その他の留意点
・税務調査について
 これまで、プロジェクトの運営中に税務調査が実施されるケースはほとんどなく、一般的には付加価値税の還付請求をした際に、税務調査が実施される場合が多い。
 ただし、近年では税務局の調査も厳しくなる傾向にあり、今後はプロジェクト運営中に税務調査が実施されることも予測される。

・プロジェクトの終了について
 プロジェクトオフィス閉鎖時には、税務調査を受ける必要がある。そのため、例えば、プロジェクトの機械や設備、その他の資産や債務処理、税務申告および決算処理、ライセンスの返却等の手続き等を、プロジェクト完了前に整理しておくことが望まれる。
 なお、プロジェクトの規模にもよるが、閉鎖手続きには、早くて6か月程、場合によっては3年以上要する こともある。

おわりに
 上述した通り、プロジェクトオフィスは現地法人と比較して、会計や税務面において、簡易的な方法が認められており、閉鎖時の清算手続きも比較的容易且つ短期間で済む場合が多いことから、ベトナムで建設事業を行う際には、プロジェクトオフィスの設立を選択するケースも多い。一方で、プロジェクトオフィスは、プロジェクト毎に設立が必要となり、完了後には閉鎖手続きを実施しなければならないため、継続的にプロジェクトの受注を見込んでいる場合には、現地法人とプロジェクトオフィスどちらの設立が望ましいか、それぞれのメリットやデメリットを理解し、適切な進出形態を検討いただきたい。

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