Reportレポート

ベトナムにおける労務査察の留意点について

2024/01/23

  • Ho Thi Y NhiI

はじめに
 ベトナムでは、労働法およびその他の関連法令を順守した事業活動が行われているかを確認するため、企業に対して、各地域の労働・傷病兵・社会福祉局(Department of Labor, Invalids and Social Affairs:DOLISA)による労務査察が定期的に行われる。労働・傷病兵・社会福祉省(Ministry of Labor, Invalids and Social Affairs:MOLISA)の統計レポートによれば、2018年の査察件数は6,979件、改善命令発行数41,446件、行政処分が1,076件、罰金額は合計32兆2340億VND(約1,500億円)であった。以前、労務査察に関しては「ベトナムにおける労務査察の留意点」(2019年5月22日付掲載)にまとめたが、現時点までに労働法の規制が一部変更されている。また、現在の政令によれば、労働分野における行政違反の罰則は、旧規定に比べて厳格化されている。

 本稿では、最新の法規制および労務査察に関する最近の見解・動向に基づいて、労務査察が実施される際の留意点を解説する。企業は留意点を認識し、リスク防止と適切な事前準備に役立ててほしい。

1.労働分野に関連する契約の種類
 労働当局が企業を検査する際、重点的に確認される項目の1つが労働契約書である。これに関連し、通常は試用期間中の労働契約書、署名済みの労働契約書、労働派遣契約書(あれば)、労働契約終了書、および労働者の福利厚生や手当制度に関する書類がよく確認される。さらに、2019年労働法および関連規制に基づき、以下の書類および内容は、労務査察で重視される傾向にある。

◆労働契約の内容
 現在、労働契約の形式について規制はないが、通達10/2020/TT-BLDTBXHに基づき、労働契約のすべての内容について、企業と労働者の合意があると保証する必要がある。また、労働契約において、給与・賞与の規定または就業規則などその他の社内規定を参照する場合は、労務査察に備え、適用根拠を明確に記載することが重要である。加えて、各種社内規定の作成状況を確認する必要がある。

◆個人と締結されたサービス契約書
 2019年労働法に基づき、労働関係を決定する範囲が拡大された。それにより、企業が個人とサービス契約を締結している際に、(i)報酬または給与の支払い、(ii)一方の当事者の管理、という2つの要素がある場合、現地採用による労働契約書とみなされるリスクがある。その際、企業は契約締結の時点から、労働者に対して、労働制度や社会保険等の義務を履行しなければならない。

◆職業学習・職業実習の契約書
 職業学習・職業実習に関する契約書は保険強制加入の対象ではないため、最近の労務査察では、この契約書の検査を重視する傾向にある。特に企業が注意すべき点は、①職業学習・職業実習の契約書の期間が3カ月を超えてはいけないこと、②職業学習・職業実習の内容が企業の事業活動に即していなければならないこと、③契約書の期限後も労働者を使い続ける場合は、両当事者が労働契約書を締結しなければならないこと、である。

◆労働者を海外へ派遣する契約書
 スキル向上を目的として、インターンシップの形態で労働者を海外へ派遣する企業、または親会社と個人契約書を締結する労働者は、2020年に施行された外国にベトナム人労働者を派遣することを定めた法令に留意する必要がある。企業は、当該法令の条件を満たすことに加え、この特例に対する当局機関への登録・報告手続きおよび社会保険加入手続きを順守しなければならない。これらの項目では、違反行為および程度に応じて、100万VNDから1億5000万VNDの範囲で行政罰金が科せられる。

2.労働規律と物的責任
 旧規定と異なり、現行法令では、企業が労働者と労働契約書を締結し始める時点から就業規則を作成する必要がある。労働者が10人以上の場合は書面で就業規則を発行し、労働当局に登録しなければならない。さらに、2019年労働法では、①職場でのセクシュアルハラスメント(セクハラ)予防、職場でのセクハラ行為への対処手順および手続き、②労働契約と異なる業務に一時的に労働者を異動させる場合、③労働規律処理権限を持つ人、という新たな3つの内容について就業規則で定めなければならなくなった。就業規則以外にも、労働当局は、規律処理の根拠・手続きを検査するために、労働規律処理書類(あれば)および物的責任賠償書類(あれば)の提出を要求する。

この項目では、違反行為および程度に応じて、200万VNDから8,000万VNDの範囲で行政罰金が科せられる。

3.外国人労働者の労働許可証
 外国人労働者の労働許可証においては、①労働許可証または労働許可証免除証明書を取得していない外国人労働者の使用、②労働許可証の発行後に締結済みの労働契約書を労働当局に送付しなかった場合(現地採用の場合)、③労働許可証の記載内容(勤務地や役職等)の誤り、の3点が頻繁に指摘される内容である。

 この項目では、違反行為および程度に応じて、200万VNDから1億5000万VNDの範囲で行政罰金が科せられる。また、労働許可証を未取得のままベトナムで働く外国人は、ベトナムから強制送還される。

4.社会保険、医療保険、失業保険
 「ベトナムにおける労務査察の留意点」(2019年5月22日付掲載)でも紹介した、労働者に対する社会保険、医療保険、失業保険に加入する際の留意点に加え、企業は、外国人における社会保険・医療保険の強制加入についての規定にも注意する必要がある。

 規定によると、労働許可証および12カ月以上の期間の労働契約書を保有する外国人労働者は、内部異動の形で働く場合(駐在員)または定年退職の条件を満たす場合を除き、強制保険の加入対象となる。外国人労働者がこの強制社会保険・医療保険の免除対象である「内部異動」の職務形式であるかどうかは、通常、労働許可証に基づいて判断されることに留意する必要がある。

 この項目では、違反行為および程度に応じて200万VNDから1億5000万VNDの範囲で行政罰金が科せられる。加えて、未払い・不足分の強制保険金額および規定に基づく利息を支払わなければならない。

5.給与表、給与・賞与規定、賃金テーブル
 給与項目の検査では、①給与表、②給与および賞与の規定、③賃金テーブル(任意の月を選択できる)および給与計算に使用される書類等が頻繁に確認される。現在の規定では、企業が賃金テーブルを労働当局に提出することは要求されていないが、社内規定として作成し、労務査察が実施される際には公表する必要がある。

この項目では、違反行為および程度に応じて、100万VNDから1億5000万VNDの範囲で行政罰金が科せられる。

6.定期労働報告書
最新の規定に基づき、労務査察の際に厳格に検査される、企業の主要な報告義務を以下の通りまとめる。

【労務関連における企業の主要報告義務】

レポート名 期限 フォーム
半年 年次
労働者の使用状況の報告 6月5日の前 12月5日の前 政令145/2020/ND-CPのフォーム 01/PLI
外国人労働者の使用状況の報告 7月5日の前 1月5日の前 政令70/2023/ND-CPのフォーム 07/PLI
労災状況の報告 7月5日の前 1月10日の前 政令39/2016/ND-CPの付録 XⅡ
労働衛生安全の報告 なし 政令07/2016/TT-BLDTBXHの付録 Ⅱ
失業保険の加入状況の報告 なし 1月15日の前 政令28/2015/TT-BLDTBXHのフォーム 33

出所:資料を基に筆者作成

これらの項目では、違反行為および程度に応じて、200万VNDから2,000万VNDの範囲内で行政罰金が科せられる。

7.労働時間、休憩時間
 就業規則および社内規定に定められた労働時間および休憩時間に基づいて、労働当局は企業の実務状況を検査する。2023年、いくつかの地方労働当局は、時間外労働が多く発生している企業への検査を強化した。度々指摘される違反行為としては、許可される時間を超えた時間外労働がある、十分な時間外労働の賃金が支払われていない、あるいは年間200時間から300時間までの時間外労働があるが規定通りに労働当局に報告していない、といった事例である。

この項目では、違反行為および程度に応じて、400万VNDから1億5000万VNDの範囲で行政罰金が科せられる。

結論
 今回は、最新の法令と弊社が企業の労務査察対応を支援した実務経験に基づいて、労務査察の留意点をまとめた。企業は今一度、各種社内規定や書類に不備がないか、また労働者の権利および安全が適切に確保されているか確認することを推奨する。不備がある際には、法令に従って適切に対応し、将来の労務査察における指摘リスクを軽減できるよう、本稿を活用してほしい。

M000111-177
(2024年1月22日作成)

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