Reportレポート

未成年労働者を雇用する際の留意点

2022/07/25

  • Do Thi Diu

はじめに
 現在、ベトナムの労働市場は新型コロナウイルスの感染拡大により多大な影響を受け、多くの企業(日系企業も含む)は人手不足に陥っていることから、製造業をはじめとした企業のニーズに応じて未成年労働者の雇用が認められている。しかし、通常の労働者と異なり、未成年労働者は特別な労働者に分類されており、2019年労働法では健康確保など労働者保護を目的として、未成年労働者を使用する企業に対してさまざまな規定を設けている。本稿では、未成年労働者雇用に関する留意点をまとめる。

1.未成年労働者使用の原則
 2019年労働法に基づいて、未成年労働者使用の原則は以下のように規定されている。

1.1. 未成年者は、その体力・知力・人格の発展を保証するため、健康を損なわない業務のみに従事できること
 上記を目的として、ベトナム政府は未成年労働者が従事する業務や適切な勤務場所を明確に規定する通達を発行した。企業はこの規定に従って未成年労働者を使用する必要がある。詳細は以下の通りである。

対象 業務内容 勤務場所
満15歳以上
満18歳未満
以下の業務に使用することを禁止する。

a) 未成年者の体重を超える重量物を持つ、肩にかける、持ち上げる
b) アルコール、酒、ビール、煙草、向精神薬またはその他の中毒性のある物質の生産及び取引
c) 化学物質、ガス、爆発物の生産、使用、輸送
d) 設備、機械の保守、整備点検
e)建築物の解体
f) 金属の溶解、鋳造、圧延、溶接
g) 潜水、遠隔地での水産物、海産物の漁
h) 未成年者の体力・知力・人格の発展に有害なその他の業務(詳細は通達09/2020/TT-BLDTBXH 号の付録IIIに規定されている。例えば、重量物を持つ、肩にかける、持ち上げる必要な業務、化学物質に関する業務など)

以下の場所で使用することを禁止する。

a) 水中、地中、洞窟内、トンネル内
b) 建設現場
c) 家畜の屠殺施設
d) カジノ、バー、ディスコ、カラオケルーム、ホテル、モーテル、サウナ、マッサージ、宝くじ、電子ゲームサービス
e) 未成年者の体力・知力・人格の発展に有害なその他の勤務場所。(詳細は通達09/2020/TT-BLDTBXH号の付録IVに規定されている。例えば、病気の原因となる生物、放射性物質、X線などの危険なものに接する場所)

満13歳から
15 歳未満の者
通達09/2020/TT-BLDTBXH号の付録IIにより、軽度の業務のみに従事できる(例えば、ソフトウェアプログラミング、手工芸品の製作などの伝統的な業務)。 上記と同様
13歳未満の者 13歳未満の者を雇用・使用することは原則禁止。13歳未満の者の体力・知力・人格の発展を損なわない芸術、体育、スポーツに関連する業務、かつ、労働・傷病兵・社会省の同意を取得できた場合を除く。 上記と同様

1.2 未成年労働者の労働時間や休憩時間

対象 労働時間や休憩時間 年次有給休暇
15歳未満の者 ・1日4時間、1週間に20時間を超えない。
・時間外労働、深夜労働は禁止。
同一の使用者のもとで 12カ月勤務した未成年労働者は、年次有給休暇を14日取得できる(労働契約に基づく賃金全額が支給される)。
満15歳から
18歳未満の者
・1日8時間、1週間に40時間を超えない。
・通達09/2020/TT-BLDTBXH号の付録Vに基づき、ソフトウェアプログラミング、手工芸品製作などの伝統的な業務においては時間外労働、深夜労働をすることができる。

 上記により、ベトナムの労働法は、未成年労働者の労働時間(特に残業時間)について厳しく規定している。そのため、企業は労務上のリスクを回避するために以上の点に留意する必要がある。
 さらに、通常の労働者の年次有給休暇日数は年間 12 日であるが、未成年労働者は年間 14 日である。そのため、企業は労働者が年間に全ての有給休暇を消化できるように調整する必要がある。

1.3. 企業は、労働者の勤務態度、健康管理、学習に関して関心をもって配慮する責任を有する
・健康管理について:通常の労働者に関して、企業は労働者名簿の作成は不要で、年間一回のみ定期健康診断を実施する必要がある。一方、未成年労働者に対しては、企業は定期健康診断を少なくとも6カ月に1回行わなければならない(2015年労働安全衛生法第21条に基づく)。加えて、企業は労働者名簿を作成し、氏名、生年月日、実施している業務、各定期健康診断の結果を記載し、権限を有する国家機関の要求があった際に提出する必要がある。
・労働や学習について:働きながら学習するまたは学習を希望する15歳未満の者に対して、企業は学習時間に影響を与えない業務に配置する必要がある。
なお、企業は短時間の休憩を15歳未満の者に与える必要がある。

1.4. 18歳未満の者を使用する際に、企業は父母または保護者の同意を得る必要があること
 現行の労働法に従って、上記の第 1.1項に属さない業務や勤務場所であれば、企業は未成年労働者と労働契約を締結することが認められている。しかし、以下の点に留意しなければならない。

番号 対象 企業側の契約者 労働者側の契約者 労働契約の内容 その他の留意点
1 満15歳から18 歳未満の者 企業の法的代表者あるいは法令の規定に従った委任者である。 満15歳から18歳未満の者 2019年労働法第21条により、業務、勤務場所、労働契約の期間など、通常の労働契約と同じ内容 未成年労働者の親など法定代理人による書面での同意が必要。

書面による同意は個別の書面または労働契約書上に明記することができる。簡便的に保存するため、労働契約書に明記する企業が多い。

2 15歳未満の者 企業の法的代表者あるいは法令の規定に従った委任者である。また、以下の条件を満たす必要がある。

a) 児童虐待の前科がない無犯罪証明書がある(発行日から労働契約の締結日まで6カ月を超えない)。

b) 通達09/2020/TT-BLDTBXH号の付録Iフォーム 02に基づいて、児童虐待の行為に対する行政罰・刑事罰が科されたことがない誓約書がある。

15歳未満の者及びその者の法定代理人。 2019年労働法第21条に記載された全て項目が含まれており、かつ以下の内容を明記する必要がある。

a) 氏名、生年月日、性別、居住地、電話番号(ある場合)、15歳未満の者の法定代理人の本人証明書またはパスポート番号

b) 家族と同居していない15歳未満の者の場合、その宿泊場所

c) 学習に関する条件の確保

未成年労働者の親など法定代理人の、労働契約書への署名による同意が必要。
3 13歳未満の者 2と同様 2と同様 2と同様 13歳未満の者との労働契約は、労働・傷病兵・社会省の承認が取得できた場合のみ、有効になる。13歳未満の者を雇用における申請書類・手順・手続きは通達09/2020/TT-BLDTBXH号第6条及び第7条において規定されている。

 上述した通り、通常の労働者(18 歳以上の者)については、自らの判断や責任で有効な契約を締結することができる場合は、労働契約の締結にあたり法定代理人の同意・署名が不要である。一方で、未成年労働者は自らの意思のみで契約締結はできず、親など法定代理人の書面による同意・署名が必要になるため、企業は労働法に従い、正確かつ十分な内容の労働契約を締結できるよう注意を払う必要がある。

1.5. 企業は、未成年者が文化、職業道徳を学習し、職業能力を訓練、増強、向上するための機会を作らなければならない
 18歳未満の者にとって、生活の優先的な活動は労働ではなく、学業である。企業は、未成年労働者の職業道徳の学習や職業能力の訓練のため、労働時間や業務に関して一定の条件を提示する必要がある。さらに、企業は未成年労働者の職務能力の訓練を通じ、その能力を向上する責任を負わなければならない。未成年労働者は日常生活における経験も少なく、職務能力も乏しいため、企業での職務能力の訓練により、企業の労働力の質を向上させ、また、それがベトナムの労働市場全体の人材の質を向上させることにも繋がる。
 上記に記載した留意点の外、企業は試用期間の規定、保険制度など通常の労働者と同様に未成年労働者の権利及び義務の遂行を確保しなければならない。

3.未成年労働者の使用に関する罰則規定
 政令12/2022/ND-CP号第29条に基づいて、企業は未成年労働者使用における違反行為によって100万ドンから7,500万ドンの罰金を科される。
 未成年者をその者の人格の発展において、有害な勤務場所での業務に使用する行為が該当し、重量物を持つ、毒性のある物質の生産や取引といった危険な業務に使用する行為に対しては、最高額の罰金が適用される。
 さらに、2017年改正刑法第1条(2015年刑法第296条改正)に基づき、違反の重大性に応じて、企業は3,000万ドンから2億ドンの罰金を科され、6カ月から12年の懲役に処せられる。

おわりに
 未成年労働者といった特別な労働者の使用に対して、特段の注意を払っていない企業も多い。そのため、上述した留意点を把握し、現行の規定に即した未成年労働者の使用計画の策定にあたり、本稿を参考にしていただきたい。

参考文献
・2019年労働法
・通達09/2020/TT-BLDTBXH号
・政令12/2022/ND-CP号

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