外国人労働者の労働許可証取得に関する政令第70/2023/ND-CP号の改正点
2023/12/13
- Ho Thi Y NhiI
多くのベトナム企業、特に外資系企業にとって、外国人労働者の雇用は不可欠である。外国人労働者の雇用に関する詳細は政令第152/2020/ND-CP号(政令152)に規定されている。しかし2023年9月18日、政府は政令70を発行し、政令152の条項のいくつかを修正および補足した。本稿では、政令70における改正点の重要な部分について説明する。企業がベトナムで外国人労働者を雇用する際に法律を順守できるよう、役立ててもらえば幸いである。
1.専門家・技術者の労働許可証取得条件の緩和1
以前の政令152では、専門家・技術者として働く外国人労働者は、教育・訓練に「適切な」実務経験を有することが求められていた。外国人労働者の多くは、採用される職位に応じた十分または長年の経験を有しているものの、関連分野の学部等を卒業していないために、労働許可証を取得できないケースが多かった。そのため当該規定により、実務上、多くの不都合が生じていた。
この問題を解決するため、政令70では、外国人労働者に教育を受けた専門分野での実務経験を要求しないこととし、専門家および技術者の労働許可証の取得条件を緩和した。具体的には以下の通りである。
・専門家として働く外国人労働者の場合、外国人労働者は次の2つの条件を満たせば問題なく労働許可証を取得できる。
(i)大卒以上または相当の学位を持っていること
(ii)ベトナムで勤務する予定の職位に関連する少なくとも3年の職歴を有していること
・技術者として働く外国人労働者の場合、外国人労働者は次の2つの条件を満たせば問題なく労働許可証を取得できる。
(i)ベトナムで勤務する予定の職位に関連する少なくとも1年間の訓練を受けていること
(ii)ベトナムで勤務する予定の職位に関連する少なくとも3年の職歴を有していること
このように、大学における専攻とベトナムでの職務内容の一致は不要となり、ベトナムで働く予定の職位に適合した実務経験が重視されるようになった。政令70の改正により、企業はより多くの外国人労働者と面談する機会を得ることができる。これにより、適切な資格や実務経験を有するより多くの外国人労働者の中から選別することが可能となり、最適な外国人労働者を採用できる可能性が高まることが期待される。
2.エグゼクティブの役職定義の変更
以前の政令152では、役員(エグゼクティブ)は機関、組織、または企業の部門長もしくは管理者と定義されていた。しかし、この定義は抽象的であり、特定の役職について触れられていないため、勤務する予定の外国人労働者が、エグゼクティブであるかどうかの判断が困難であった。
この問題を解決するため、政令70では次のようにより広範囲かつ明確にエグゼクティブの定義が規定された。
(i)企業の支店、駐在員事務所、または営業所のトップであること
(ii)機関・組織・企業の少なくとも1分野を直接指揮するトップであり、機関・組織・企業のトップによる指示や指揮を直接受ける者であること2
上記の改正により、エグゼクティブの定義がより具体的かつ明確になり、エグゼクティブであるかどうかの判断が容易になった。例えば「営業部長」、「総務人事部部長」、「工場長」等の役職者は、(ii)企業の少なくとも1分野を直接指揮するトップであり、機関・組織・企業のトップによる直接の指示や指揮を受ける者という条件を満たすため、エグゼクティブに該当すると思われる。
3.ベトナム人労働者の雇用通知に関する手続きの追加
政令152では、外国人労働者の労働許可証取得の手続きを行う前に、外国人労働者を雇用することが予定されている職位に対し、ベトナム人労働者を雇用しない理由を説明・証明する書類の準備は不要とされていた。しかし、ベトナム人労働者の雇用を優先するという原則に基づき、ベトナム人労働者が雇用ニーズを満たせない場合にのみ、外国人労働者の雇用が許可されることになった。
そのため政令70では、ベトナムでの外国人労働者の雇用手続きを厳格化し、ベトナム人労働者の求人通知を実施する必要があると規定された。具体的には、2024年1月1日より、企業は労働・傷病兵・社会問題省雇用局のウェブサイトまたは地方の雇用サービスセンターのポータル3を通じて、雇用予定の職位にベトナム人労働者の求人を通知する手続きを行う必要がある。その後、条件を満たすベトナム人を採用できなかった場合は、労働許可証の申請時に外国人労働者を雇用する必要性について説明することとなる。
この改正内容は、異動する者や現地採用の外国人労働者を含め、外国人労働者が就くすべての職位に適用されることに留意が必要である。特にセンシティブかつ機密性の高い役職の場合、企業にとって多かれ少なかれ懸念を引き起こすと思われる。また、外国人労働者の採用の前に一度、ベトナム人労働者を求人する必要があって時間がかかるため、労働許可証の取得スケジュールに影響を及ぼすことが予想される。
4.複数の勤務地で働く外国人労働者に対する新たな規定4
実務上、同じ役職でベトナム国内の複数の勤務地で働く外国人労働者も少なくない(例えば、現地法人と支店や駐在員事務所の両方で市場開拓の専門家として勤務するケース等)。以前の政令152では、各勤務地に対応する労働許可証を申請する必要があると規定されていた。そのため、複数の勤務地で働く外国人労働者は、複数の労働許可証を有する必要があった。これにより、複数の労働許可証の申請手続きに時間がかかり、ベトナムでの業務にも支障が出ることから、課題点の1つとされていた。
政令70では、複数の勤務地で働く外国人労働者の労働許可証の申請について、いくつかの規定が追加された。具体的には以下の通りである。
(i)外国人労働者が同じ省または市の複数の勤務地で働く場合、その省または市の労働局に労働許可証を申請すること
(ii)外国人労働者が異なる省または市の複数の勤務地で働く場合、労働省に労働許可を申請すること
ただし、政令70に基づき、企業は次の点に留意する必要がある。
(i)労働許可証の申請書にすべての勤務地の情報を記載すること
(ii)企業は、外国人労働者の勤務開始日から3営業日以内に、労働省に政令70フォームNo.17/PLIに従った電磁的方法(電子メール、ウェブサイトへの入力等)にて、外国人労働者の情報を報告すること(現時点では、具体的な電磁的方法の規定や、労働省に対する労働許可証の申請手続きに関する公式なガイダンスは公表されていない。そのため、企業は情報の更新の有無に注意を払い、必要に応じて管轄当局に直接確認する必要がある)
(iii)複数の勤務地が同じ省や市であるか異なる省や市であるかにかかわらず、外国人労働者の役職が勤務地ごとに異なる場合は、役職ごとにそれぞれの勤務地における労働局に労働許可証を申請すること
以上の通り、同じ役職で複数の勤務地で働く場合、複数の勤務地が同じ省・市の場合は労働局に、異なる省・市の場合は労働省に申請のうえ、1つの労働許可証を取得すればよいこととなった。
5.労働許可証の取得に関する規定の変更
(1)政令70では、管理者またはエグゼクティブの職位における労働許可証の取得にあたり、次の3つの書類を用意する必要があると新たに規定されたため、留意が必要である5。
(i)企業の定款または組織・企業の運営規定
(ii)企業登録証明書(ERC)または設立ライセンス、または同等の法的価値のあるその他の文書
(iii)組織・企業の決議または任命の決定を示すもの(任命書等)
(2)以前の政令152では、専門家および技術者の職務経験を証明する書類として、外国企業が承認した「実務経験証明書」のみが認められていた。
しかし実務上、すでに退職した企業の場合、その退職済みの企業に対して「実務経験証明書」を申請することは困難である。さらに公証手続きのほか、ベトナム語への翻訳と認証手続きが必要であるため、外国人労働者や企業は準備に多くの時間を費やしていた。しかし政令70の改正により、実務経験証明書に加え、過去の労働許可証も実務経験を証明する書類として有効であるとされた6。当該改正により、過去ベトナムで勤務したことのある労働者は、有利に申請手続きを進められることになった。
(3)外国人労働者の本人認証書類(パスポート)に関して、以前の政令152では、ベトナムで公証されたパスポートのコピー、または領事館で認証されたパスポートのコピーの翻訳または公証書の提出を求められていた。しかし政令70の改正により、労働許可証の新規発行・再発行・更新手続きにおいて、赴任先の企業の認証済みパスポートのコピーを使用できるようになった7。認証の方法は以下の通りである。
(i)確認書を作成する(企業の社長の署名と、社印の押印が必要)
(ii)上記の確認書にパスポートの全ページのコピーを添え、全ページに割り印をする
おわりに
政令70は、ベトナムで勤務する外国人労働者の労働許可証取得手続きにおける課題点を解決するために発行された規定である。企業は当該規定の内容を十分に把握し、外国人労働者の労働許可証を申請する際、順守する必要がある。ただし、一部の規定については、管轄機関から具体的なガイダンスが公表されていないため、各地域の実情を確認し、必要に応じて管轄当局に確認しながら書類を作成、手続きを行う必要がある。
¹政令第70/2023/ND-CP号第1条1項a)、c)
²政令第70/2023/ND-CP号第1条1項b)
³政令第70/2023/ND-CP号第1条2項
⁴政令第70/2023/ND-CP号第1条3項
⁵政令第70/2023/ND-CP号第1条5項b)
⁶政令第70/2023/ND-CP号第1条5項b)
⁷政令第70/2023/ND-CP号第1条13項g)
M000111-176
(2023年12月13日作成)