個人との業務委託またはサービス契約を締結するリスクと留意点
2022/06/20
- Le Anh Phuong
はじめに
通常、会社は労働者を雇用する際に労働者と労働契約を締結し、労働契約及び労働法と社会保険法に基づいて、労使関連の各種義務を負担する。しかし、実務上は労働契約ではなく、会社と個人の間で業務委託またはサービス提供形式の契約(以下、「サービス契約」という)を締結するケースがみられる。
本稿では、個人とのサービス契約の概要や、この契約形態のリスクと留意点を分析する。
1.サービス契約の定義
「サービス契約」とはそもそも現行労働法(2019年労働法)で規定された労働形態ではなく、ベトナム民法・商法に規定されている契約形態である。
以下はベトナム民法・商法の関連規定の抜粋である。
「サービス契約とは両当事者の合意であり、本契約書に基づきサービス提供側は業務を行い、サービス使用側は料金を支払う。」(2015年民法第513条)
「サービス提供は商業活動であり、サービス提供側はサービス使用側のために業務を行い、サービス使用側は合意に基づいて使用と支払いをする。」(2005 年商法第3.9条)
2.民法・商法が想定する契約当事者
2005年商法第2.3条によると、商業活動は特定の場合を除き、事業登録のある業者によって行われることとされている。つまり法令上、サービス契約は基本的に事業者間で締結し、会社と個人で締結することは想定されていないものと考えられる。
実務上、オフィス清掃、料理、短期間の通訳などの仕事について、会社と個人のサービス契約が締結されるケースが多いが、これらの仕事が上記「特定の場合」に該当し、サービス契約として認められるかどうかは、法令上不明確である。
個人とサービス契約を締結する場合、最も保守的なのは、一方当事者となる個人が法律に従って商人としての事業登録を行うことである。ただし、ベトナムでは個人が事業登録することは一般的ではない。
3.労働契約との契約形態の比較
2019年労働法第13.1条によると、労働契約とは、雇用関係の両当事者の有給雇用、賃金、労働条件、権利及び義務に関する労働者と雇用者の間の合意である。異なる名称であっても、有給雇用、賃金、一方の管理・運営・監督を合意した契約は労働契約とみなされる。
労働契約とサービス契約は、賃金/サービス料金に関する両当事者の合意があるという点で共通している。相違点は、労働契約には、雇用者による「管理、運営、監督」の権利義務がある一方、サービス契約には無いという点である。
また、サービス契約のサービス提供者に対しては、就業規則及び他の規則は適用されない。就業規則は労働契約を締結した労働者にのみ適用されるためである。
しかし、実務上サービス契約であるにもかかわらず、サービス使用者がサービス提供者に一定の規則の順守を要求し、業務内容を直接管理する場合が多くみられる。これは、外観上はサービス使用者が「管理、運営、監督」を行っているのかどうか分かりづらいこと、サービス契約とすれば、労働契約と異なり社会保険料の負担等の対象とならないことなどがあるためと推察される。
4.サービス契約が労働契約とみなされた場合のリスク
労働当局の査察(労働査察)などで指摘を受け、締結済みのサービス契約が労働契約とみなされた場合、サービス使用者(会社)には以下のようなペナルティを受けるリスクがある。
・サービス提供開始時点から遡って労働契約を締結する
・労働契約に従って、社会保険料の支払い(会社負担分)や、年次休暇・ボーナス・手当の支給を含む、労働者の権利についても、遡って履行する
・誤ったサービス契約の数に応じて、「労働契約を締結しない」行為に対して行政処分を受け、VND4,000,000~VND 50,000,000の罰金が科せられる
・「強制社会保険、健康保険、失業保険に加入しない」行為に対しても行政処分を受け、総額の18%から20%の罰金が科せられる
おわりに
以上が個人とサービス契約を締結する際の主要なリスクや留意点となる。実態として労働契約であるにもかかわらず、誤ってもしくは意図的にサービス契約として締結し、後日発覚した場合、重いペナルティが科される。このため、正しい契約形態を適用しないことに対するサービス使用者(会社)のリスクは高い。
実際、労働法では、労働契約の定義は契約上の名称だけでなく、本質的な要素に基づいて判断することとされているため、労働査察を受けた場合には発覚する可能性も高いと考えられる。
このため、企業はこの種の契約を締結する際には慎重に検討すべきである。できるだけ個人とのサービス契約は少なくし、関係法令に従い適切に労働契約を締結することを心がけていただけると幸いである。