ベトナムの中古機械・設備の輸入における年数制限の緩和について
2022/02/09
- 米国公認会計士
- 鈴木 友紀
はじめに
ベトナムでは、中古機械・設備の輸入は政府が定めた基準を満たす場合にしか実施できない。2019年6月15日より首相決定 DecisionNo.18/2019/QD-TTg(以下「決定 18」)が施行され、規制が一部緩和・明確化された。本稿では、その概要と運用上の留意点について述べる。
I. 過去の状況と「決定 18」の概要
1.過去の状況
「決定 18」の施行前は、中古機械・設備の自社利用目的による輸入については、2015年11月13日付の科学技術省通達 Circular No.23/2015/TT-BKHCN(以下「通達 23」)において規制されていた。「通達23」では、自社利用目的で輸入できる中古機械・設備は、原則として製造から輸入時までの年数が10年を超えず、安全・省エネ・環境保護に関するベトナム国家基準(以下「QCVN」)、ベトナム技術規格(以下「TCVN」)または先進7ヵ国(G7)の規格基準(以下「G7 規格」)に適合しているものに限られていた。「通達23」は、制定当時社会的に問題視されていた近隣国からの粗悪な中古設備の流入防止を主目的としていたとみられる。しかし年数基準が偏重される運用が目立ち、原則に当てはまらない機械・設備の特別許可基準や手続が明確でなかった。適切に保守を行えば年数が10年を超えても正常に稼働する機械・設備は多く、そのような中古機械・設備を活用したいと考える多くの企業から規制緩和が要望されていた。
2.「決定18」の概要
決定18では、単独の「中古機械・設備」と、連結・固定された中古機械・設備一式としての「中古技術ライン」(たとえば生産ライン等)とに分類し、それぞれ以下の条件をすべて満たせば自社利用目的で輸入できることが定められた。
(1)中古機械・設備の輸入許可基準
① 原則として年数が10年を超えないこと。ただし付録1に記載された種類のものについては、年数が15年を超えず(例:木材の乾燥用設備)あるいは20年を超えない(例:金属加工用機械類、木材や硬質樹脂加工機、製紙用機械等)こと。
② 安全・省エネ・環境保護性能が「QCVN」に適合していること。「QCVN」が存在しない分野については「TCVN」、G7規格または韓国の規格に適合していること。
(2)中古技術ラインの輸入許可基準
① 安全・省エネ・環境保護性能が「QCVN」に適合していること。「QCVN」が存在しない分野については「TCVN」、G7規格または韓国の規格に適合していること。
② 設計上の仕様と比較して、残存能力(出力・生産力)が85%以上であり、かつ原料消費量・燃料消費量の増加率が15%を超えないこと。
③ 技術移転法の詳細について定めた政令Decree No.76/2018/ND-CPで禁止・制限された移転技術ではないこと。
④ 輸入するラインの科学技術がOECD加盟国の、少なくとも3ヵ国で実際に使用されていること。
「決定18」においては、製造から10年を超えても輸入できる中古機械・設備の種類と年数上限が明示され、中古技術ラインについて、規格や性能面の条件を満たしていれば年数は問われず、安全・省エネ・環境保護性能の判定基準として「QCVN」、「TCVN」および G7規格のほかに韓国の規格が加えられた。
また「通達23」と比較して輸入手続の規定や、年数上限を超えた中古機械・設備を輸入する際の、ベトナム科学技術省への嘆願手続、審査回答期限等が定められている。
一方で、「通達23」では存在していた中古部品の輸入に関する規定と販売目的での輸入についての規定は削除され、自社の生産活動での利用を目的とした中古機械・設備、技術ラインの輸入のみ認められる点が明確にされた。
3.留意事項
(1)「年数」の概念
「決定18」第3条によると、「年数」は製造年と輸入年(ベトナムの港に到着した年)の差によって決まると書かれているが、これは12ヵ月を 1 年と考える実年数ではなく、ある年の1月製造でも12月製造でも、製造年は同一という考え方である。たとえば年数上限が10年の中古機械について、2012年6月に製造されたものが2022年12月にベトナムの港に到着した場合、実年数では製造から10年6ヵ月経過しているが、法令上の年数は「10 年」となり基準を満たす。もしこの中古機械が2023年1月に到着すると、年数は「11年」と判定され、基準を満たしていないことになる。
(2)基準適合性の証明
輸入にあたって、中古機械・設備、技術ラインが輸入許可基準を満たしていることを説明するため、製造年や規格適合性についてのメーカー発行の証明書や鑑定書等の説明出所を用意する必要がある。鑑定はベトナム政府が承認した機関において実施でき、日本では現在日本海事検定協会のみが承認されている。
おわりに
「決定18」により、中古機械・設備、技術ラインの輸入規制の一部緩和や手続の明確化が図られた。本決定を契機に、手続の円滑化や、関係する産業分野の一層の収益改善と発展が期待される。中古機械・設備を輸入するか、技術ラインを輸入するかによって基準や必要書類が異なっており、運用 の実態も市や省により異なる場合があるため、本制度の実際の利用にあたっては関係当局や専門家への事前確認をお勧めする。