Reportレポート

ベトナムの税金および税法の構成

2022/02/07

  • 米国公認会計士
  • 逆井 将也

はじめに
 多くの日系企業は高いコンプライアンス意識を有しており、法令に基づき納税することは当然のことと考えて対応している。それにもかかわらず、ベトナムにおいては税務調査で指摘を受けてしまう事例が後を絶たない。この背景にあるのは、ベトナム政府が法人税率低減や優遇税制の拡大を進める一方で、法規制が不明確な状態で担当官の個別な見解に基づき、税務調査を厳格化していることが一因と考えられる。そのため、本稿より数回に分け、各種税金の基礎的な解説、および注意すべき税務リスクを中心に説明していきたい。初回となる本稿では、税務の概要を把握するため、ベトナムの主な税金および税法の構成について説明する。

1.ベトナムの主な税金
 ベトナムには日本のような地方税はなく、国税のみとなっている。企業に影響がある税金としては、個人所得税、法人所得税、付加価値税、外国契約者税が挙げられる。以下、それぞれ概要を説明する。

<個人所得税(PIT)>
 個人の所得に対する税金である。滞在期間にかかわらずベトナム源泉所得があれば納税の義務があり、ベトナム居住者と非居住者で課税システムが異なる。居住者には全世界所得に対して5~35%の累進課税、非居住者にはベトナム国内源泉所得(不明な場合は全世界所得をベトナム滞在日数で日割計算した額)に対して一律20%の税率が適用される。四半期もしくは月次ごとに申告・納税を行い、居住者の場合は年次確定申告も行わなければならない。

<法人所得税(CIT)>
 法人の所得に対する税金である。課税所得は、総収益にその他所得を加えた金額から、損金算入が認められる費用および非課税所得、繰越欠損金を控除した金額となる。標準税率は20%、一部の事業内容や地域では免税・減税等の優遇税制が適用可能である。欠損金は最大5年間繰越可能である。四半期ごとの申告は不要だが予定納税を行い、課税期間終了日から90日以内に年次確定申告を行わなければならない。

<付加価値税(VAT)>
 日本の消費税と同じく物やサービスの取引に対して課される間接税であり、申告・納税義務は企業にあるものの、税金負担者は最終消費者である。標準税率は 10%、水や食料品等の必需品には税率5%、輸出取引に対しては税率0%が適用される。売上に対するVATから仕入に対するVATを控除した後の金額を申告・納税する「控除方式」と呼ばれる方法が一般的である。この場合、四半期の申告・納税のみ必要となり、年次確定申告という制度はない。なお、仕入に対するVATが売上に対するVATを超過している場合は、当該超過額を無期限に繰り越し将来の売上に対するVATと相殺することができる。VATの還付については一定の条件を満たした場合に可能である。

<外国契約者税(FCT)>
 ベトナム特有の税金であり、ベトナム国外の法人・個人がベトナム国内の法人・個人にサービスを提供した際に課される税金である。FCTはVAT部分と CIT 部分により構成されており、税率はサービス内容によって異なる。FCTが課される主な取引としては技術支援契約やロイヤルティ契約が挙げられるが、機械設備の輸入取引や親子ローンに対する利息等もサービスとみなされ課税対象となる点に注意しなければならない。また、ベトナム側が支払をした日から10日以内に申告・納税しなければならない点にも注意が必要である。

2.税法の構成
 ベトナムの税法は、上位規定から順に、基本法規となる「Law(法律)」、詳細規定の「Decree(政令)」、実務指針の「Circular(財務省令)」、上位規定の特別な取扱について規定した「Decision(財務大臣決定文書)」、個別案件に対する取扱を示した「Official Letter(公式文書)」から構成されている。原則は上位規定に基づき、下位規定で詳細規定が定められるが、曖昧な法令や未整備となっている法令については税務局担当者によって解釈が分かれることがある。そのため、法令が不明確な場合は、会計事務所等の専門家に法令解釈や実務上の扱いについて確認することをお勧めする。一般的な事例がない場合は、Official Letterによって税務局の意見を確認することが通例となっている。

おわりに
 上述の通り、ベトナムの税金はFCTのようにベトナム特有の税金があるものの、日本と大きくは変わらない。一方、法令が不明確な場合があるため、実務上の扱いについて慎重に確認していく必要がある。次回以降、複数回に分けて各種税金の基本事項と税務調査で指摘が多い事例について説明していきたい。

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