吸収合併に関する税務・税関上の手続きとその注意点
2023/06/19
- Mai Thi Dung
はじめに
企業にとって事業の存続と発展は常に重要なテーマであり、そのための事業戦略の1つとして財源、経営管理、技術力等のさまざまなシナジー効果が期待できる「吸収合併」がある。しかし、ベトナムで吸収合併を実施する場合、企業は、税務および税関に関する複雑な手続きを実施するために必要なプロセスを把握しておかなければならない。
本稿では、吸収合併を行う際に必要な手続きと、税務および税関の注意点について説明する。
1. 吸収合併の定義について
2020年企業法第201条により、吸収合併とは、「1つ又は複数の事業者がその財産、権利、義務及び法律上の利益のすべてを他の事業者に承継させることにより、吸収合併された事業者の経営活動を終了又はその事業者を消滅させること」と定義される。吸収合併では、合併当事者である複数の企業のうち、その財産・権利・義務・合法的利益の全部を移転させる側の会社(被吸収合併会社)は、これらを受け入れる会社(吸収合併受入会社)への移転登記の完了をもって消滅する制度である。複数の企業が1つにまとまることで、企業の競争力および規模が拡大する。
2. 吸収合併に関する「税関」手続きについて
吸収合併を実施する場合、被吸収合併会社は管轄税関局へ文面で報告する必要がある。また、吸収合併する決定日までの輸入原材料・資材・機械・設備・商品(以下「原材料等」)の使用状況に対する決算レポートを税関局に提出する。提出期限は決定日より90日以内となる。
税関局は、決算レポートを受領後、被吸収合併会社の事務所で、原材料等の確認・監査を実施する。確認完了後、被吸収合併会社は吸収合併受入会社へ原材料等を移転する。輸入原材料等を国内で使用する場合の手続きおよび追徴額については明確な規定がないため、当該取り扱いを適用する場合は、税関総局にオフィシャルレターを提出し、具体的な案内を要求することを推奨する。
吸収合併後、被吸収合併会社は吸収合併受入会社の拡張投資プロジェクトであり、さらにEPE企業(輸出加工企業)の規定や税制優遇制度を適用したい場合、それらの適格性があるかを確認する必要がある。企業法によると、吸収合併後、被吸収合併会社は消滅し、吸収合併受入会社が被吸収合併会社の権限および法的な便益を受けて、債務や支払い義務が発生する。そのため、新しい企業登録証明書(ERC)・投資登録証明書(IRC)を取得できないうちに税関手続きを実施する際には、吸収合併受入会社は自社の許可書(ERC・IRC)に基づいて実施する必要がある。実務上、税関手続きはケースごとに対応方法が異なる可能性があるため、管轄税関局に確認することを推奨する。
3. 吸収合併に関する「税務」手続きについて
吸収合併を実施する場合、被吸収合併会社の税コードを閉鎖するため、法人所得税(CIT)・個人所得税(PIT)確定申告手続きを実施する必要がある。手続きは以下の通りである。
ステップ1
・CIT確定申告手続きについて、「最後のCIT課税期間」を決定する必要がある。これは、会計年度の開始日から管轄当局が承認した吸収合併の決定日(または新しい企業登録許可書上の日付)までの期間を指す。これが3カ月未満の場合、企業は以下の2つの方法のどちらかを選択できるが、作成時間の短縮が期待できる(2)を推奨する。(1)前年度のCIT報告書と3カ月未満のCIT報告書を作成・提出する。(2)前年度分と合わせて15カ月を超えないCIT課税期間の報告書を作成・提出する。
・PIT確定申告手続きについて、「最後のPIT課税期間」を決定する必要がある。これは、1月1日から管轄当局が承認した吸収合併の決定日(または新しい企業登録許可書上の日付)までの期間を指す。 現在、政令123/2020/ND-CPに従って電子インボイスを使用しているため、インボイス使用状況のレポートを税務局に提出する必要はない。ただし、吸収合併時に被吸収合併会社が電子インボイスを使用しない場合、税務局に通知する必要があるかどうかを管轄税務局に確認することを推奨する。
ステップ2
被吸収合併会社は会計監査を実施し、監査済み財務諸表やCIT確定申告書・PIT確定申告書を合併決定日から45日以内に管轄当局へ提出する必要がある。さらに、税コードを閉鎖するための税務調査を受ける際、企業は税務局に提供する書類および証憑を準備する必要がある。
ステップ3
・付加価値税(VAT)還付を希望する場合、VAT控除方式を登録した企業に対して、税務局は企業の監査・調査を行うと同時に、VATに関する資料・データ・情報を確認する。法令上、企業はVAT還付申請書を提出しなくてもよいが、実務上は、税務局の見解によって異なるため、税務局に申請書の提出を要求するかどうかを直接確認した方がよい。
・VAT還付を希望しない場合、VAT還付可能金額は吸収合併受入会社のVAT控除項目に計上される(吸収合併受入会社のVAT計算方法も控除方式である場合、または吸収合併後、被吸収合併会社は吸収合併受入会社の独立した会計部門でVAT計算方法も控除方式である場合)。吸収合併受入会社がEPE企業である場合、VAT還付可能金額はCIT上の損金算入が可能である。
ステップ4
税務調査・監査後、税務局は税務調査の議事録や行政罰金の決定書(ある場合)を発行する。被吸収合併会社は未完了の税務義務(申告や納税など)を全て履行する必要がある。未完了の税務義務を吸収合併受入会社に譲渡する場合、フォーム39/TB-DKTを作成して税務局に提出する。その後、吸収合併受入会社が譲渡された税務義務を履行しなければならない。
ステップ5
被吸収合併会社は、税務義務をすべて完了した日から3営業日以内に税務局からの税コード閉鎖の通知書を受ける。
※留意点:2018年11月12日付のオフィシャルレター74982/CT-TTHTにより、税コード閉鎖の通知書を受けるまで、被吸収合併会社は税コードを使用してインボイス発行や税務申告ができるが、政令・通達といった法的な文書に規定されていないため、実施する前に管轄税務局に確認する必要がある。
4. 税務上および会計上の注意点について
a)吸収合併時の資本譲渡に対する税務申告
吸収合併時に資本譲渡取引がある場合、合併後の出資比率に変化が生じるが、その際、資本譲渡取引から生じる税金を申告する義務がある。 課税所得の確定時点は、譲渡契約書に基づく資本所有権の譲渡時点である。資本譲渡取引による税金は、次のように計算される。
CIT=(販売価格-譲渡された資本の仕入価格-関連費用)×20%
販売価格は、被吸収合併会社の純資産価値(Net Assets)を下回ってはならず、また、市場価格との適当性が必要である。資本譲渡については、合併するための税務調査・監査時に確認される可能性があり、その際、市場価格への適当性を証明できないと、税務局が強制的な販売価格を適用するリスクがある。そのため資本譲渡前に、販売価格の適当性の鑑定評価を鑑定評価会社等に依頼することを推奨する。
また、被吸収合併会社の税引後利益の未配当が多額である場合、資本譲渡の販売価格およびCITへの影響が大きい。従って、被吸収合併会社は、吸収合併前に財務や税務の納税義務を完了してから税引後利益を配当した方がよい。ただし、配当後に債務および資産に関するその他義務を実施できることを保証する必要がある。
なお、被吸収合併会社の出資者がベトナム企業であれば、吸収合併受入会社の投資家に資本譲渡する場合、当取引に対してインボイスを発行する必要があるが、VATの対象外となることに留意する。
b)吸収合併後の会計通貨
合併後、被吸収合併会社に関する取引の会計通貨は、吸収合併受入会社の会計通貨に従う。吸収合併受入会社の会計通貨が外貨である場合、通達200/2014/TT-BTC第4条による条件を満たしているかを再確認する必要がある。条件を満たさない場合、吸収合併受入会社は外貨をベトナムドン(VND)に変更する必要がある。
c)吸収合併後の吸収合併受入会社における会計原則
合併後、吸収合併受入会社は、次の原則に従って最初の会計期間に会計帳簿へ記帳し、財務諸表を提示する必要がある。
・会計帳簿:被吸収合併会社の資産、負債および資本金に関する会計帳簿上の残高は、吸収合併受入会社の会計帳簿の資産、負債および資本金に関する会計帳簿上に当期発生として記帳する。
・貸借対照表:合併前の被吸収合併会社の資産、負債および資本金の残高は、吸収合併受入会社に生じたものとして記録され、「年末データ」の列に表示する。
・損益計算書およびキャッシュフロー計算書:合併時から最初のレポート期間の終わりまでのデータのみを「今期」の列に表示する。
d)吸収合併後のCIT優遇
設立された企業または合併による投資プロジェクトを持つ企業は、合併後にCIT優遇の適用要件を引き続き満たす場合、合併前のCIT優遇の「残り期間」のみを継承することができる。従って、合併前の被吸収合併会社または投資プロジェクトが失効した場合、吸収合併受入会社は被吸収合併会社または投資プロジェクトからのCIT優遇を受けることはできない。
e)吸収合併後の譲渡損失
合併前に被吸収合併会社に発生した損失は、発生した年度ごとで詳細に管理し、合併後の吸収合併受入会社の所得と同年に相殺するか、損失が発生した翌年から5年以内に継続的な損失繰越を引き続き移転する。
おわりに
上記の通り、吸収合併は複雑なプロセスで、時間がかかり、関係する企業の財務に影響を与える可能性が高い。合併時に迅速に手続きを実施し、できるだけコストを削減できるように、企業は吸収合併前に税務や税関等における事前確認や問題点の洗い出しを行うことを推奨する。
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参考法令:
‐2020年企業法
‐2019年税務管理法
‐通達78/2014/TT-BTC
‐通達96/2015/TT-BTC
‐通達200/2014/TT-BTC
‐通達39/2015/TT-BTC
‐2018年11月12日付のオフィシャルレター74982/CT-TTHT
‐2017年4月11日付のオフィシャルレター4742/BTC-TCHQ