Reportレポート

職場での対話を開催する際の留意点について

2021/10/15

  • Tran Thi Thu Uyen

はじめに
 ベトナムの労働法では、職場における良好な労使関係の構築を目的として、労使間での対話に関する内容が規定されており、定期対話や職場集会の実施が義務付けられている。本稿では、2019年労働法(以下「新労働法」)および政令No.145/2020/NĐ-CP号で明確化された詳細規定について、2012年労働法(「旧労働法」)からの変更点を中心に解説する。

1.職場での対話を開催する必要がある場合
 使用者は、労働者の人数および労働組合の有無に関係なく、職場での対話を開催しなければならない。新労働法の第63条2項によると、使用者は、以下の場合に職場での対話を開催しなければならない。

• 定期的な開催(少なくとも年1回)
• 使用者もしくは労働者の一方または双方の当事者が要求した場合
• 業務完成水準評価規則、構造、技術の変更または経済的理由による労働者使用計画の立案、賞与、賃金テーブル、賃金表の作成、就業規則の作成および業務の一時停止等の事例が発生する場合

 上記3点目の事例発生時の対話は、新労働法より追加された新しい内容である。この変更は、賃金、賞与、就業規則といった労使関係に影響を与えている問題に関して、使用者と労働者間の情報共有および意見交換を行うことを目的としており、これにより、使用者は労働者の考えや要望を把握し、企業運営に役立てることができる。

 上記の他、本規定では、使用者、労働者または労働者の代表組織が両当事者の権利、利益に関連するその他の問題に関して対話を行うことを奨励している。

2.職場での対話の内容
 上記1点目および2点目の対話の実施にあたり、各当事者は以下の内容から1つまたは複数を選択する。
・使用者の経営状況
・労働契約、集団労働協約、就業規則、規程、誓約、職場におけるその他の合意の履行
・労働条件
・労働者、労働者代表組織から使用者に対する要求
・使用者から労働者、労働者代表組織に対する要求
・一方または双方の当事者が関心を有するその他の内容

3.対話参加者の人数及び構成
 対話の参加人数および構成は、政令No.145/2020/NĐ-CP号の第38条で下記の通り定められている。

使用者:生産、経営の条件、労働編成に基づき、使用者の当事者は、法的代表者を含め、少なくとも3人の参加者を確保しなければならない。

労働者:生産、経営の条件、労働者の人数および両性の平等の要素に基づき構成を確定するが、参加者は以下の人数を確保しなければならない。
・50人未満の労働者を使用する場合:最小で3人
・50人から150人未満の場合:最小で4人~8人
・150人から300人未満の場合:最小で9人~13人
・300人から500人未満の場合:最小で14人~18人
・500人から1,000人未満の場合:最小で19人~23人
・1,000人以上の場合:最小で24人

 企業は上記に従い使用者と労働者の間の対話に参加する代表者名簿を策定する必要があり、少なくともこの名簿は2年に1回定期的に更新され、職場で公表される。対話期間中、参加できない代表者がいる場合、使用者または労働者代表組織は、代表者の交代、追加を検討し、決定する。

4.職場での対話の流れ
 法令No.145/2020/ND-CP号の第37条によると、職場での対話を実施するために、使用者は、民主的規則と呼ばれる規則を発行する責任を負う。民主的規則では、以下が具体的に定められなければならない。
・対話の原則
・参加者の人数および構成
・対話の開催方式
・参加者の義務
・他の内容(ある場合)

 民主的規則の発行は重要で、職場での対話を開催する前に実施しなければならない。
 政令No.145/2020/ND-CP号の第39、40、41条に基づき、職場での対話は以下の流れの通りに行われる。

・定期的な対話の場合:

 

・一方または双方の当事者が要求した場合:

 

・事例が発生する際に開催する場合:

5.職場での対話を開催する際のその他の留意点
 上記「1. 職場での対話を開催する必要がある場合」より、職場での対話は企業への義務となっている。違反する際の処分措置は政令No.28/2020/NĐ-CP号の第14条で以下のように定められている。

①職場での対話を行うための場所および他の物的な条件を保証しない使用者、法令の規定に従った民主的規則を実施しない使用者に対し、500,000ドンから1,000,000ドンの罰金を科す。
②労働者、労働者代表組織が要求した対話を実施しない使用者に対し、2,000,000ドンから5,000,000ドンの罰金を科す。現時点では、定期的対話、事例が発生する際の対話に対し、明確な措置は法令上規定されていない。ただし、上記の場合に対話を実施しない企業に対し、労働機関は上記第14条1.の通りに、関連規定に従う処罰形式を適用する可能性がある。

 実務上、事例が発生する際の対話は規定に従って行われていないことが多く見受けられる。こういった企業は行政処罰を受けるリスクに加え、以下の問題が考えられる。

・労働機関から承認が得られないリスク(例:労働者の意見を聴取するための対話を行わずに就業規則の登録をしている場合)。
・労働者の処分や労働契約を解約する際、労働者に訴えられるリスク。
・違反に対して発生するその他の義務(例:企業が対話を開催せずに、法令に反して労働契約の解約をしてしまった場合、企業は、労働者を再び受け入れ、賠償額、賃金および他の費用(ある場合)を支払う義務を負う)。

おわりに
 上記で述べてきた通り、企業は、職場での対話を効果的かつ合法的に開催するようご注意いただきたい。法令に基づいた定期的な職場での対話の実施および体制維持は、労働紛争による残念な結果を防ぐための最善策の一つである。
 また、適切な対話の実施により、労働者のモチベーション向上や、持続可能な生産、企業の成長の促進にも役立てていただきたい。

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