労働法下における女性労働者保護制度についての注意点
2021/09/16
- 米国公認会計士
- 逆井 将也
はじめに
2021年1月1日に施行された労働法(法第45/2019/QH14、以下「労働法」)およびその実行案内文書となる政令ならびに通達においては、平等権の保障と女性労働者の不利益解消のため、女性労働者の身体保護と母性保護の規定が拡充されたことが留意点の一つとなっている。旧法と比較して一層詳細な規定が設けられ、会社として具体的な制度の実施が求められることとなった。
以下、女性労働者の権利保障を確実に実現するため会社に課せられた義務の具体的な内容と、さらに踏み込んだ女性労働者保護のために適用が推奨される制度について説明する。
1.女性労働者の権利確保のための制度を実施する会社の義務
➀女性労働者の妊娠出産期間における権利保障
第一に、会社は以下の場合に女性労働者を深夜労働、時間外労働、長距離出張に従事させてはならないとされる。
i. 妊娠して7ヶ月目以降。高地、奥まった地、遠隔地、国境地帯、島嶼部で労働する場合は6ヶ月目以降。
ii. 労働者の同意がある場合を除き、12ヶ月未満の子を養育している場合。
第二に、電磁波や電波の強度・周波数測定、工業用ミシンの操作等の重労働、有害、危険な職業および特に重労働、有害、危険な職業(通達第11/2020/TT-BLDTBXH号のリストにある業務)や、放射線照射機器の操作、塗装や溶接等、生殖能力や妊娠中の子の発育に悪影響を与える職業通達第10/2020/TT-BLDTBXH号のリストを参照されたい)に就く女性労働者から通知を受けた場合、妊娠時から12ヶ月未満の子供の養育期間が満了するまでの間、会社は賃金・権利・利益を削減せずに、より軽度で安全な業務にその女性労働者を異動するか、毎日勤務時間から1時間短縮しなければならない。
第三に、会社は結婚・妊娠・産休・12ヶ月未満の子供の養育を理由として女性労働者の解雇または労働契約の一方的終了をしてはならない。特に、女性労働者が妊娠中または12ヶ月未満の子供を養育している期間に労働契約期間が満了した場合、優先的に新たな労働契約を締結されることが新たに規定された。
第四に、女性労働者は生理期間中に少なくとも月に3日間、1日あたり30分の休憩を取得でき、12ヶ月未満の子供を養育する期間中には1日あたり60分の休憩を取得できる。いずれの場合も休憩時間は有給休憩となり、会社は労働契約書に定められた給与を満額支給することとされた。具体的な休憩取得時間は、会社および労働者双方のニーズに応じて柔軟に合意できる。
女性労働者が休憩暇を取得するニーズがなく、かつ会社が女性労働者を就労させることに同意した場合、会社はその労働者が休憩を取得できる時間内に行った業務について給与を追加支給する。なお、この場合の業務時間は残業時間とはみなされず、通常の勤務時間として追加支給給与を計算する。
➁妊娠中の女性労働者による労働契約の一方的な終了、一時停止の権利
権限を有する医療機関により勤務継続が胎児に悪影響を与えると診断された場合、妊娠中の女性労働者は一方的に労働契約を終了させ、または一時停止する権利を有する。一方的に労働契約の終了または一時停止をする場合、女性労働者は会社に対し、権限を有する医療機関で発行された勤務継続が胎児に悪影響を与えることついての確認書を添付して通知しなければならない。労働契約を一時停止する場合の一時停止期間は女性労働者と会社の合意によるが、少なくとも権限を有する医療機関が指定した期間でなければならない。権限を有する医療機関の 指定がない場合、労働契約の一時停止期間を両当事者間で合意することができる。
➂労働条件および健康促進に関するその他の権利・制度
a) 女性の権利・利益に関わる問題について決定する際に、女性労働者またはその代表者の意見を参考にする。
b) 1,000人以上の女性労働者を雇用している会社は、職場で母乳の搾乳、保管のための部屋を設置しなければならない。
c) 会社は、生殖能力及び子供の養育に悪影響を与える職業や業務について労働者に対し公開・通知するとともに、労働者が選択や決定をおこなえるように、危険性や有害性およびその防止措置に関する十分な情報を提供する責任がある。そして、業務への配置前の健康診断、定期的な健康診断、職業病健診を実施し、法令規定に従って労働安全衛生条件を確保しなければならない。
d) 保健省の規定に従い、職場で適切かつ十分な浴室やトイレを確保しなければならない。2002年10月10日付保健省決定第3733/2002/QD-BYT号の労働衛生に関する原則と基準を参照しながら、会社の雇用状況に応じて具体的に適用・実施することが推奨される。
e) 定期健康診断にあたっては、保健省発行の婦人科検診リストに従い女性労働者の婦人科検診を実施する。現在、保健省はリストの草案を作成中であり、保健局、産婦人科病院、疾病管理センター等の関連機関から意見聴取をおこなっている段階にある。オフィシャルレター第4139/BYT-BMTE号およびリストの草案によると、女性労働者には乳房および下腹部の臨床検査、子宮や付属器の超音波健診等を受けさせなければならないことが規定されている。
2.会社において実施が推奨される制度
a) 保育園・幼児教室を開催または建設し、あるいは保育園・幼児教室設置のための費用の一部を援助する。(この内容は職場における対話を通じて労働者と相談する必要がある)
b) 女性労働者が適切に業務を行うための条件や基準を満たした場合、採用・雇用を優先する。労働契約が満了した場合、新たな労働契約の締結を優先する。
c) 女性労働者が定職を持ち、柔軟に勤務時間を設定でき、あるいはパートタイム勤務や自宅勤務、能力向上訓練を受けられるよう計画し、実施する。さらに女性の身体的・生理学的・母性的機能に適した別の業務に関する訓練を実施する。
d) 妊娠中の女性労働者が社会保険法第32条に規定された休暇時間よりも長時間の休暇を取得できる規定を設ける。
e) 職場における実際の状況、女性労働者のニーズ、および会社の能力に応じて母乳の搾乳、保管のための部屋を設置する。
f) 母乳で12ヶ月以上の子供を育てている女性労働者が職場で母乳の保管、搾乳ができる環境を整える。母乳の保管、搾乳のための休暇時間は労働者と会社との合意による。
労働法令は会社に対し、法令上の必須義務に加え、その財政状況の許す範囲で女性労働者についてより一層有利な制度や施策を実施するよう常に奨励している。政府もまた、このような方針に基づき女性労働者の権利保護に尽力する会社を支援するため、積極的な政策や規制を発行してきた。
例えば、多くの女性労働者を雇用している生産・建設・輸送分野の会社は通達第78/2014/TT-BTC号第21条に基づき法人所得税の減税を受けることができ、また女性労働者のために投じた費用については、会社の課税所得確定にあたって損金参入が可能なものが定められている(通達第96/2015/TT-BTC号第4条2項10号)。
おわりに
以上のとおり、会社においては常に女性労働者の身体保護、母性保護、労働条件改善、権利保護に関する問題や法令に関心を寄せ、遵守することが求められている。